便所教育

 腹が弱く、お漏らしの経験もある私のトラウマなのか、便所、排泄に関する話が多いが、

ご了承いただきたい。

 

 この間、私の店に中学生の女の子とそのお母さんが来ていた。

細面のキレイな顔の女の子は仏頂面で、お母さんに何か言っていた。

お母さんが、カウンターに来た。

そして、小声で「あのー、ここに御トイレありますか?」と聞いてきた。

「はい、ございますよ」と言うと、

「ほら、あるって」と女の子を振り向いた。

「こちらです」と言うと

女の子は、何も言わず、私の前を横切り、レジの奥にあるトイレに入って行った。

間もなくトイレを借りたいという人が現れたが、女の子がトイレから出たかどうかが

判らない。

あたりを見回すと、店の中にコソコソと隠れるようにしている女の子が見えた。

「あっ、トイレ空いてますので、どうぞ」とその客に言う。

女の子のお母さんが、「お礼言ったの?」と女の子に言った。

すると、女の子は険しい顔つきで母親を睨み、何も言わず店から出て行った。

 

 女の子は、トイレを借りたのが恥ずかしかったのかもしれない。

でも、本当に恥かしいのは、中学生になって自分でトイレを借りられないこと。

そして、トイレを借りて、礼を言わないこと。

 

みっともないなぁ。と思う。

でも誰もそれを教えていない。教えようとしない。

だから、自分がみっともないことを判らず、自分がどうすべきなのかを知らない。

結果、なにをすべきか覚えない。覚えようがない。

教えない人たちもみっともない。

 

 大袈裟かもしれないが、自分の力で歩き出すための第一歩の教育は、便所教育だと私は

思っている。

 例えば、レストランで食事中に子供が「トイレに行きたい」と言う。

そこで、親切な大人はトイレに連れて行ってあげる。あげてしまう。

一人では不安なんじゃないか?と思う。思ってしまう。

まあ、そうでない親も居るだろうが、私はそうだった。

「トイレ、何処?」と子供に聞かれると、店の人にトイレの場所を聞くのは、いつも私

だった。

今になって分かった。

いい意味での“貴族”に育てるべきだった。

トイレに行きたかったら、自分の口で聞いて、一人で行くべきだ。

それが、自立の始まり、第一歩である気がする。

 

 媚びず、恐れず、毅然とした、ナニモノにも失礼でない、そして、感謝の心を持つ、

ホンモノの貴族のような人間に、なりたいなぁ。