<病院>(ツイテいた)

 

病院に行く話で思い出した。

 

あのスイッチ・オンから二ヶ月ほどした頃、私は父親の検査に付き添って外に行ける

ようになっていた。

夫が車で送り迎えをしてくれて、父親への届け物をする時、私は自分も診察を受けて

みようと思った。

父のかかっていた病院で先ずは内科にかかって、そこから心療内科にまわしてもらお

うと思っていた。

心療内科に偏見を持っているわけではないが、何より薬を嫌う私は坑鬱剤の副作用が

心配で、それより薬でも何かに依存するということが嫌で、それまで心療内科にかかる

気は全くなかった。

でも、何か別の答えが見えるならば、そこに行ってもいいと思うまでになっていた。

 

私は、ツイテいた。

 

父の手術した有名病院の内科の、それも沢山の医者の中で、四十歳前位かと思われる

女医に当たった。その女医は、穏やかで知性に溢れていた。

私が、背中の痛みと腹がしこり痛むと言うと、超音波検査をすることになった。

「更年期のせいでしょうか?」と私が言うと「血液検査で分かる」と女医は言い。

「それも調べてみましょうね」と言った。

 

後日、超音波と血液検査の結果を持って診察室に入った。

検査の結果は異常なしということであった。

血液検査で更年期の数値も出ていないという。

それを聞いた私は、がっかりした。

更年期障害でもなんでも何か科学的、医学的に病名が付けられれば安心する気がして

いた。

「そうですか」と私は言った。

混んでいる有名病院、すぐに診察室から出ようとしながら、

「ここから心療内科にまわしてもらえますか?」と聞いた。

「どうしたのですか?」

「私、鬱が入っているんじゃないかと思うんです。それと拒食、

若しかしてパニック障害も…」

こういう自己分析する患者は嫌だろうなと思いながら、この先生は受け入れる器が

あるような気がした。

インフォームドコンセントだのセカンドオピニオンなどと言われながら、患者が

自分の意思と意見を言うことを殆どの医者が嫌がる。

「そうですか、あなたが心療内科をご希望でしたら紹介してあげますよ」と女医は言った。

「実は、私は、西洋医学の薬に拒否反応を持っているような、うるさくて神経質な性格で、

心療内科で、若し自分が否定されたらいい方向にはいかない気もしているんですけど…」

「私は、こんなこと言っていいかどうか…、あなたと話していてあなたは精神的に

とてもノーマルでしっかりした考えを持った方だと感じました」

「有難うございます。

実は、こんなに科学が進んだ時代に色々なことを感じてしまって、夢なども当たったり

して、自分が非科学的な状態になっているんじゃないかと思って、自分は気が狂うの

ではないかと恐怖なんです。

この間の池田小学校で事件な起きた時間もおかしな状態になったんですけど、先生は

そういうものは信じられますか?」

「はい。私の親しい友人も医者をしていますが、科学や医学では説明のつかないことに

あっています。私はそういうことを経験したことはないんですが、その人を尊敬していま

すし、そういったことはあると思います」

その言葉を聞いた瞬間、私は頑張れると確信した。

「有難うございました。もう少し自分で頑張ってみます。このお腹の張りや背中の痛み

が医学的に異状がないということが分かって安心しました」

「不安になったら何時でも検査に来て下さい。

病院は病気を治すだけでなく不安を取り除くのも役目なんですから」

 

そういう医者に会ったのは、初めてだった。あの時は、本当にツイテいたと思う。

あの女医に会わなければ、あの時期を乗り切れなかった気がする。

 

 医者というのは、沢山の患者に向かう。

一瞬一瞬が、勝負。

 でもそれは、医者だけじゃないのかもしれない。