ダイエット

 

私の一回り下の彼女は、背は小さいがダンディーでハンサムでありながら、可愛さあり 

ユーモアありの面白いやつである。

顔はきれいなのに、メチャクチャ口が悪い。

っていう私も口の悪いのでは人後に落ちない。

その彼女と『その手は桑名の焼きハマグリ』とか、『そうはイカの金玉』などと言って

話しているうちに、今年38歳になる彼女が、高校生だった頃の話になった。

「その頃先生に『お前は、目玉と金玉の区別もつかないやつだ』って言われたことが、

ありますよ。」

と彼女が言い出した。

「なんでまた!?」と私が聞くと。

「あっしー、数学でさされて、答えを、『大体、そーだと思います』って言ったんすよー

そしたら、『お前は、目玉と金玉の区別も付かないやつだ』って言われたんすよ。

『お前なあ、数学には大体って答えはねーんだぞ』って、『大体ってつけたら

豚も空飛ぶんだ。だから、お前だって空飛ぶぞ』って言われましたからね。

あっしー、その頃 今より32キロ太ってたんすよ。」

彼女は、自分のことを“あっしー”と言う。

「えー、信じらんねー」

「いや、ホントなんすよ」

目の前に居る彼女は、小柄ながらもスリムで均整がとれていてカッコいい。

「あの頃は、ばかみたいに食べて、先生に『人間は生きる為に食べるんだが、

お前は食べる為に生きてんだろ』って、言われましたよ。」

「へー、シャレた先生なんじゃねえの?」

「そーなんすよ。あっしは、その頃歩く人間吸い取り機なんて言われたりしてたくらいで、

学校近くの弁当屋でスタミナ弁当頼んだら 

『ねーチャン、それ以上スタミナつけてどーすんの』って言われましたからね。」

「あっかるいねえ」

「ええ、明るいデブって呼ばれてましたから。

いっかい、社会の先生に『あたしでもカンボジアに行ったら痩せられっかなー』つったら、

『お前は、痩せる前に喰われっちまう』って、言われましたもんねえ。」

「なんだ?!いい先生ばっかなんじゃねーの」

「その頃、ソフトボールやってましてね」

「あー、じゃあもてたな」なるほど、体育会系にこういうタイプいたっけと思う。

「ハイ、もてましたね、バレンタインなんか、チョコが集まちゃったりして・・・」

チョコ、って言うところがミョーに可愛くて

ゲイの友達が、彼女を評してフェミニンだといっていたことを思い出した。

「その頃は、ブルマーだったでしょお」

「あー、あの卑猥(ひわい)なやつな」

「あっしー、サイズO(おー)でしたからね」

「Oなんてあったっけかー?」

「LLの上がOなんすよ、一回ブルマー買いに行った時なんか、Oサイズ出してきて

もらったんすけど、どーも入りそーもないから、『もっと大きいのはないのか?』

って聞いたら、大丈夫ですよ、こーんなに伸びますからって、

目の前で何回も伸ばして見せられたりして。服は男物のLL着てましたからね」

「今からじゃ、想像も出来ねえなぁ」

「その頃72キロありましたからねえ、それを1年で32キロダイエットしたんすよ!」

「ええ!どーやって?」

「まず、19歳で東京に出たんすよ。

そこで、初めて、自分は太ってるってことに気が付くワケっすよ。

それまでは、自分がデブだなんて、全然、思っていなくて周りの太った人見て、

『あいつ、太ってんなー』なんて、ヘーキで言ってたのが

自分が、デブだったことに気がついちゃったんすよ。じゃあ どおするかって話ですよね。

よし!痩せようってことになって、どうしたら痩せるか!

食べなければ痩せるだろうって…。

単純すよね。その日、山ほど喰い物買ってきて、口から出る程喰って

次の日からは、朝はブラックコーヒー1杯、昼はおにぎり1個、夜はみかん2個、

それで1ヶ月で、8キロ、体重落ちましたからねえ。」

「それって身体にまずくねえの?しっかし、よくそんなに落ちたねぇ」

「だって、それまで喰いすぎてたから、喰わなきゃ簡単に減りますよ。

朝、昼昼、夜夜で喰ってましたからね」

「まあ、あの頃はよく食ったし、食えたんだよなー」

「それで、今度は体重が減るのが面白くなっちゃたんですよ、

それから どーしたと思います?」

「なに、どーしたの!?」

「なーにも高い金出して、汗かく服を買わなくたっていいんすよ。

黒い生ごみの袋に穴あけて、頭と手足だけ出すんすよ」

「何も、生ごみって言わなくても、ゴミ袋って言えばいいだろうが、

まあ、中身は生ごみのほうが近いだろうけどよ」

「それで、聞いてくださいよ、クラッシュギャルズの音楽に合わせて

思いっきり、踊るんすよ」

「何だ、それ?」

「あの頃ライオネス・アスカって、女子プロレスが流行ったじゃないっすか!」

「あー、はいはい、あれね」

「あの曲に合わせて、身体をくねらせて踊るんすよ」

「なるほど」

「ゴミ袋は何回でも洗って、干して使うんすよ。でも、1ヶ月ちょっとした頃かなあ、

親が東京に出てきて、駅に迎えに行こうと思ったら着替えがなくって、

東京に来たときのズボン穿いたら、ガボガボでおこっちちゃうんすよ。

ベルト捜したらなくって、そこらにケーキのリボンがあったんで、

それで縛って行ったんだけど、あっしがあんまり痩せてるもんで、親が心配しましてね。

おまえ病気じゃねかって…」

「そりゃそうだろうなぁ」

「でも、それからも快調に痩せて、1年で32キロ減すよ、子供一人分すからね」

「そんなんで、身体は大丈夫だったのかよ」

「大丈夫なワケないじゃないっすか!急性腎盂炎で入院しましたよ」

「なに、やってんだよ!」

「あんときは無茶しましたからねー、食べないと腹減るじゃないっすか?

りんごだけとか、それから、高野豆腐食べて水飲むといいんすよ」

「生のぉ?」

「そお乾いたやつ。そぉすっと、腹ん中で膨れて落ち着くんすよ」

「そんなことしてて、よく腎盂炎で治まったよなあ」

「いや、生理は一年位止まりましたよ。でも何年もないわけじゃないからいいかと思って」

「よくねえ、よくねえ」

「ふと気が付くとウンコが出てないんすよ。食べてないから出るもんないんすけど、

あ!こりゃいかんって、カンチョーしても汁しかでないんすよ。

でも、いろいろ考えたんすよ。腹へって我慢出来なくなってきて、それで外に出ると、

食い物買っちゃうから、表に出らんないような格好して、家の中にいるんすよ。

頭も身体も洗わないで人に会えないようにして」

「そこまでやるか!努力の人だな、それで、腎盂炎の入院はどれ位したの?」

「二週間す」

「二週間かあ、長かったんだぁ」

「腹痛いし、夏だったから 最初食中毒かと思って、病院に行ったら即入院で、

オスタカヤマに飛行機が落っこちたことがあったでしょ」

「あーあったね」

「その日っすよ、病院のベットん中でそのニュース聞いたから記憶に残ってんすよ」

「そこまで、いったんなら体調も、悪かったんだろ?」

「ええ、いつも熱っぽいし、ヘソの下は痛くてスッキリしないし」

「大体が、疲れただろうがよぉ!」

「疲れてましたねぇ」

「疲れてましたねぇ、って他人事じゃねえだろが」

「ええ、ホントに、髪の毛がバサバサ抜けて風呂場の流し口いっぱいに詰まったりして、

あん時は、禿げるかと思いましたね」

「禿げどこんの騒ぎじゃねえだろが!」

「退院した後に過食がきましてね。いくら食べても腹がいっぱいになんないんすよ。

そん時に一週間で7キロ増えましたけど、それで治まりましたよ」

「まあよかった。と、言っていいんだろうかね」

「無理なダイエットは、しちゃぁ、ダメっすよ」

「お前が言うと、実感だなぁー」