えー、まぁ

 

 私は、色んな人の話を聞くのが好きだ。

色んな人が色んな考えで色んな生き方してるんだなぁ。と、世界が広がる気がする。

といっても、自慢話とか偉そうな自己満足の話はキライ、上から目線の説教もキライ

なんだけど、若しかして自分もそういうことがないか。ってのが、相談されることが

多い私の一番の注意事項なんだけど、どうしたもんだか。

 

 娘が、田舎の祖父母の家に住んでいる。

祖父母が高齢になったために私の家の近くに来て空いた家に娘が住むことになったのだ。

隣の空き地が手に入り、畑なんか作っている。

その後、娘は結婚し、子供が出来たりなんかしている。

 

「それがさぁ、田舎ってスゴイんだね」

「何が?」

「何でも聞いてくるんだよ」

「どんなこと?」

「ほら、あたし家の隣んとこで畑やってるでしょうよ。

そうすると、『この家に住んでた人は何処に行っちゃったの』って聞いてくる人がいて、

『住んでたのは祖父母で、ウチの親の近くに行ったんです』って言ったら

『おばあちゃんちならタダで住めていいね』って言うから『借りてるんですよ』って

言ったら『いくらで借りてるの?』って聞いてくるの。

で『ここの畑の土地はあんたのモンかい』って聞くから『そうです』って言ったら

『いくらで買ったの』って。

で結婚したら『この間一緒に居た人は旦那さんか』は、まだいいとして

『何処に勤めてんの』『どういう仕事なの』『給料はいくら』って、

普通聞かないでしょ!ってこと平気で聞いてくるんだよ」

「うん、あの辺の人達はそれくらい当たり前だね」と、そこの土地で育った私は答える。

「えー、そうなのぉ。

でも、どうしたらいいの?

話しかけられると話が長くて、草むしりが進まないんだけど」

「草をむしりしながら話したらいいでしょうよ」

「失礼じゃない?」

「大体が、そっちの人の方が失礼だから大丈夫だよ」

「そりゃそうだね。

あと、どこまで答えたらいいの?」

「ベツに答える必要ないよ。あんたが話したい、ってんなら別だけど」

「だって、ドンドン聞いてくるんだよ。あんたは興信所のまわしモンか!って感じで」

「ぷっ、そういう感じワカルー。私も若い頃やられたもん」

「えっ、お母さんもやられたの?」

「やられたさぁ。

それで、おばあちゃんに余計なことを喋るなってどんだけ怒られてきたことか。

で、経験者が、そういう時のコツを教えてやるよ」

「なになに」

「人には黙秘権っていう権利があるんだからね。

黙っていてもいいんだよ。

でも、聞いてくるのにムシ、ってワケにはいかないもんね」

「そうなんだよぉ、でも、どう答えたらいいか分かんないんだよ」

「よしよし、先ずは心構え。ムキにならない。やんわりニッコリが基本ね」

「うん」

「そして、聞かれたらスベテ『えー、まぁ』って言うんだ。

それから『えー、まぁイロイロ』あと、『いい旦那さんだね』とか褒めてきた時は

『お蔭さまで』照れて悪口なんか言うと面倒なことになるから。

一つでも答えると次々聞かれることになるから、『えー、まぁ』で『うふふ』って言って

たら自然に終わりになるよ。

それから、金額なんかだったら『幾らぐらいだと思います?』ってこっちから聞くとか

で、『ウフフ』とにかくムキにならないってのが、大事かな」

「お母さん、スゴーイ」

「お母さんもあんたと同じだったんだよ、余計なこと喋っちゃってガビョーンって落ち

込んだり、何でそんなこと聞くんだよ!って怒って、聞く人が悪いみたいに思ってたん

だけど、カンタンだったんだね。

自分が変わればよかったんだよ」

「ホント、そうだね。

分かった。やってみる」

「面白いね、出来るかどうか、今度聞かれるのが楽しみだね」

「うん、『えー、まぁ』だね。忘れないようにしなくっちゃ」

 

 最近、知り合いになった人が居て、彼女は、旦那の仕事の関係でインドやバリ、

上海など色んな国で暮らしてきて、今は日本に戻って来て母親と暮らしている。

 その人と、何だか気が合って『えー、まぁ』の話をした。

すると、中国も広いから中国人は一口ではいえないのだろうが、彼女が住んだ所の人達は

初対面でも何でも聞いてきたという。

「アナタ、給料幾らだ」「結婚してるのか」「子供いるか」「何故いない、出来ないのか

作らないのか」みたいにズバリ聞いてくるので、最初は面食らったらしい。

 でも、そういう国なんだなとすぐに慣れて、「幾らだと思う?」と聞いて

「まぁ、そんなもんかな」などと適当に答えるようになったという。

「ベツに悪気じゃないのよね。ただ、生まれ育ちが違って、生き方が違うのよね」

と彼女は言った。

 

 それで、また思い出した。

旦那さんの仕事の関係でベトナムだったかタイランドだか(忘れた)に行った人がいた。

 そこは、日本人専用の宿泊施設ではなく普通の平屋の民家を借りた家だった。

そこに引っ越してすぐのことで、まだ届いたばかりの荷物が所狭しと置かれていた。

その家に、子供を背負った女や子共の手を引いた女たちがズカズカと入ってきた。

夫は仕事に出かけていて彼女は一人だった。

一体何が起きたんだ、と彼女が驚いている目の前で女たちはクローゼットの戸を開け

台所の食器戸棚を開け、調味料をとスベテをピチパテピチパテ絶え間なく喋りながら調べ

あげた。

 そして、見るだけ見ると何事もなかったかのように手を振って帰って行った。

こういう所で暮らしていけるだろうか、とその時彼女は思ったらしい。

 でも、間もなくその人たち仲良くなり彼女が体調を壊した時は次々と料理が届けられた。

 

 日本でも婚礼が決まると、近所の人だか親戚の人が箪笥の中を見に来る。という話が

私が結婚した頃だから、35年前頃にはあった。

 

 そういう不躾な野蛮な感じ(?)のする所で、ノイローゼや鬱になる人と、上手く

とけ込む人が居る。

 ムキになって自己防衛をしたり閉鎖的になる人は、ノイローゼや鬱になりやすいという。

まっいいか。と気楽に暮らして、住めば都になる人もいる。

 自分はどっちのタイプかな、と考えた。

閉鎖的な所もあるが、お気楽な時もある。

 私的には、お気楽な自分の方が好きなんだけど、イヤになったらスベテを投げ捨てる

自分もいるんだよね。

まぁ、どっちの自分にも無理させすぎないように気をつけながら、上手くやっていき

ましょ。