へびのゆびわ

 

私は、好き嫌いが激しい。

そんな自分をいやだと思うが、なかなか直らない。

 店に出たら3年前にバリ式マッサージのお店を出すということで、そこで使う家具や

カーテンを探しにきたことがあった人が来ていた。

「あらー、久し振りですねぇ」と言いながら、3年前に彼女が来た時のことを思い出した。

「素敵にしたいの、普通の感じじゃなくて違う世界に来たみたいなお店にしたいの」

「来店した人が癒されて元気になって帰っていく、そんな店にしたいの」と彼女は、

これから作る店の夢や希望を語った。

「どういうモノがいいんですか?」

「あなたに任せるわ」と彼女は言いながら、私が出す案を次々に否定していった。

「具体的にどうしたいんですか?」

「素敵にしたいの、普通っぽいのは嫌なの」

そして、「こういう家具が好きなの」と見せた写真はフランスの猫足みたいなやつや、

象嵌(ぞうがん)の、ナルホド普通には売っていない物だった。

「私は運がいいの、手に入らない筈の店舗が好条件で借りられることになったのよ」

と、彼女は品物を選ぼうとせずに違う話ばかりをした。

 そして、彼女が満足するモノは見つからず、見つかっても予算に合わなかった。

よく聞いてみると、予算は普通に満たなかった。

その時、何かがチグハグでかみ合わないものを感じていた。

 

 しかし、今回は一言二言話し始めると、以前に感じた違和感がない。

思い切りがよくてあっさり、さっぱりしている。

あの時に感じた、こだわらないように見せながら何かにこだわっていて、なげやりの

ようでぐずぐずしていて、思い切りがいいようで踏ん切れない。そんな感じが消えていた。

なんか、いい感じになったなぁーと思い、片づけをしながら話をしていると、彼女の

指にヘビがからみついた姿の指輪が見えた。

ちょっとアールヌボーの頃の装飾品みたいだ。

「うわー、かっこいい、ステキ!」と私は思わず言った。

 すると、彼女は「ふふっ、そうでしょ!」といたずらっぽく笑いながら、ヘビの絡んだ

指をひらひらさせて見せた。

決して若くはない、よく働いてきた感じの大きい手がステキだった。

「これね、私のお守りなの」 

「あー、蛇って、神様のお遣いって言うわよね。私もヘビ好き」と私が言うと、

「息子がね、巳年なの、これは私のお守りなのよ」と彼女は言った。

 早とちりの私は、(あーあ、また息子自慢の母ちゃんか)と思う。

 以前、スミレを持ってきてくれた人がいたが、私が礼を言って「スミレって好きだな」

と言うと

「私がスミレを好きなの、この花は私なの!」と言う言い方に彼女の執着心を感じ、

何だかそのスミレがイヤになった事を思い出した。

 

「あら、そうなの」と言うと、

「21才なの」と彼女は言った。

「エー、うちの娘が、午年で二十一歳なんだから、二十二歳なんじゃないの」と、

やんわり言うと、遠くを見る目になり、

「そーか、生きていれば二十二歳か」と言った。

エッ、生きていれば?ふいをつかれて思わず、「どうしたの?」と聞いた。

「三年前に、バイクで、即死だったの。」

「じゃあ、あのお店出した頃ね」

「そう、あの時はもうどうしていいのか、どうやって生きていったらいいか分からなく

なっていたわね。あの頃の記憶がないもの。でも、もう大丈夫」と彼女は言った。

 

私は表面しか見えない、バカの早とちりのまぬけです。