不思議4“美咲”のウロウロ日記(友達)

 

 この、夢で見たことがあるような、この感覚はなんなんだろう?

と、美咲は思う。

 初めて出会ったのに、ずっと前に会ったことがあるような、知り合いだったような感覚。

そうなることが分かっていたような、あーあー、そうでしたね。というこの気持ち。

 

 美咲が小学生だった頃の目標は、何時も毎年“ホントウの友達を作る”だった。

「美咲ちゃんは、一人で居ても平気だから困ります」と美咲の母親は美咲が幼稚園という

集団に入ったその時から、先生や周りの人から言われ続けることになる。

 その時その時、力を出し惜しみせず、精一杯楽しんで生きる美咲が最初にぶつかった

疑問は、「“友達”って何なんだろう?」ということだった。

 一人で居ても平気、その時その都度面白いことを見つけるとそれに夢中になる美咲。

その時に傍に居る誰かに合わせるという考えが三咲には、ないのか、気がつかないのか、

忘れてしまうのか。

 友達と知り合いはどう違うのか、確たる答えが出ないままに、次にきた疑問が、

「友達は、居なければダメなんだろうか?」だった。

 

 美咲が大人になってから知人(男)が、子供のことで悩んでいた。

そして、半引きこもり状態で高校を卒業し大學に入ることになった息子に、

「勉強なんてしなくていいから友達をいっぱい作れ」と言ったという。

そう言った彼も孤独と人間関係で悩んできた人だった。

 美咲は、ホントウの友達なんてそうそう出来るもんじゃないし、群れる仲間が居ても

空しい時は空しい、孤独に耐えた人だけが、自分がホントウに求めるものと出会えるん

じゃないだろうか、と思うようになっていた。

友達(形だけの)が、多いことに固着して右往左往している人を見ると、大変だなぁ。

と思う。

 三咲が親だったら息子に「一人の時間に自分を作ることもある。

若し君が一人で居たいと思うのであれば、それはオカシイことではなく、君の好み性格の

特徴の一つなんだと思う。

一人の時間を持つ自由を君は持っていて、それは誰にも非難されることじゃないと私は

思う。

友達が欲しいと思ったなら、行動を起こしたらいい。

欲しいと思うことは必要なことなんだと私は思う」と言いたい。

 美咲は、これが良いこと、正しいと世間で言われていることを、押し付けられたり

上から目線で言われることが大嫌いだ。

「あなた、そういうことではダメよ」

「これは、〜なのよ」(なぜ、あなたはそう断言できるんだ?)

「頑張るのよ」

「あなたもやれば出来るんじゃない」

「〜は、まあまあなんだけどね」(評価してあなたは楽しいのか?)

「ワケなんて聞かないで、黙って言う通りにしなさい」(なぜ、聞いてはならない?)

(なぜ、押さえつけようとする?)

その人は、

「友達が居て、結婚して家庭を持ち、子供が居て、常識がなければならない」と言い

「変なことを言ってはならない」と言った。

その言葉に、美咲はぶちきれた。

「ウルサイ!

そうしたかったら、自分がそうすればいいじゃないか!

人にはそれぞれの思いがあって自分を生きているんだ。

人の領域に口出しするな!」

「あなただって、口出しするなと言うことで人の領域に入ってきているでしょ」

 その人(そういう人)とは、関わりを持たないと、美咲は決めた。

関わりを持たないとは、口を利かないのでなく聞き流す、反論しないことだった。

「イヤだと思ったら“かもう”べからず」オバアサンがよく言った言葉だ。

“かもう”とは、方言で“カマウ”チョッカイを出したり反応するということで、

嫌だと思ったら聞き流して知らん顔していればよい。

 そうしたら、美咲に女友達は、マスマス居なくなった。

 

 ジャジャーン。

ところが、30年前、仕事関係で知り合いになった人が居た。

 当時、彼女は塾の先生をしていたが、間もなく離婚し二人の子供を女手一つで育て

始めた。

 魅力的(美咲にとって)な人で、時間があると一緒に食事に行ったりするようになった。

これは、美咲にとって大変珍しいことで、というか初めて出来た友達かもしれない。

 それまで美咲は誰かと食事に行くなどということは皆無だった。

職場の仲間だったり仕事関係でない人(女)と、とりとめのない話をしながら

新しく出来た喫茶店めぐりをしたり、雑貨屋に行くなど初めての経験だった。

 そして、彼女は一緒に居てもムカつかない初めての人だった。

 

 彼女、妙(たえ)ちゃんは、女だけど女の色気というか嫌らしさがない。

生き方が不器用で、損な役回りになりやすい。というか、ワザワザそうしている傾向が

ある。

 生一本で思い切りが良い、良すぎる所がある。手柄を欲しがらず、みている子供を陰

ながら助け、親にも話さず誤解をされたりするが、それでいいと思っている。

美咲と気が合うことの要素に二人の性格が似ていることと、二人の母親が似ている

ことがあった。

 二人の母親は、愛情は痛いほど感じるのだが、子供に対する押し付けと支配が強い。

時代の特徴なのか「これはこうでなければならない」「これは、こうに決まってる」

「親にたてつくのか」「親に恥をかかせる気か」「いいから黙っていうこと聞け」

「オマエなんて産まなければよかった」「誰に育ててもらったと思ってるんだ」

 仕事の都合で前日寝ていなくて、日中寝ていると、オマエは怠け者だと罵倒する。

離婚した妙ちゃんは、生活の苦しさも不安も見せずに頑張っていた。

 でも、頑張って笑顔でいると「お前は懲りないやつだ。何をヘラヘラしてるんだ」と

怒り、ようやく貯めて買った物に「そういう物を買っている場合じゃねえべ。

何時まで夢見て生きてんだ」と文句を付ける。

 これは、妙ちゃんがという人事でなく、美咲も全く同じことを言われて育ち、大人に

なって家庭を持っても言われていることでもあった。

 二人は愚痴を言って憂さを晴らしたが、同じ環境を持つということは、片方だけが

同情するということがない。

 大体において二人の性格は、同情するとか何かと比べて優越感を持つというような

ことがなかった。

そして、事実を言うことで母親の嫌な所がむき出しになっても二人はお互いの母親を

キライになったり軽蔑することはないと分かっていた。

 

 そしてもう一つ、二人に共通していたのは、見えない何かを感じるということだった。