風水先生

「ちょっとあんた、このカゴ、穴があいてるんだから500円にしな!」

一風変わったいでたちの60歳代の女性が、レジにカゴを持って立った。

それは、穴があいているので3000円を680円にしたカゴだった。

「あっ、それはアナがあいてるから安くして、その値段になったんです」

「こんなカゴ使いようがねえべ!

あたしだったらこういうヤツでも直して使えるように出来るから、500円にしな!」

「だから、そういう方が買ってくださるので安くして680円なんです」

「こんなの買う人いんのけ!? じゃあいらね!」その女性は馬鹿にしたように言うと

乱暴にカゴを放り投げた。

カゴには“難ありの為、値下げ”と書いたカードが付いていた。

その他にも“難あり”の札が付いた商品をレジに持ってきている。

(難ありの説明をしなくてはならないな)と思いつつ他の客の接待に追われていた。

その時、店の商品に人形を飾るという客と話をしていた。自分で作っているのだという。

「どういう人形を作ってるんですか?」と私は聞いた。

「猫よ」

「あー、招き猫でしょ」

「えへへ、そう。可愛いのよ」

「へえ、面白そうですね」

「面白いわよ。作るのも面白いけど、どうやって飾ろうかって考えるのが楽しいの。

それでもって、飾って置くとみんなが喜ぶのよ」

(ははん、この人は招き猫を作らなくても人を招く人だな)と私は思う。

「ところで、招き猫って右手が、友を呼ぶんでしたっけ?」

「ううん、右手はお金。左手が愛」

「あれ?友じゃなくて愛でしたか?」

「そう、あたしは、愛だって聞いたわよ」

話している横から

「これ、切ってちょうだい!」と先ほどの女性がリボンを出した。

見切り品の箱から見つけてきた5本の黄色のリボンが、その手にあった。

「あら、金運ですね」と言うと

「あんたも少しは、知ってんじゃないの!?」と

総てに!マークのある話し方をする女性だ。

(いまどき黄色が金運だなんて子供でも知ってるけど)と思いながら

「黄色は西に置くといいんですよね。

でもあたし西側の部屋なんですけど一時黄色だけで統一したら夫婦仲が悪くなちゃって

喧嘩が絶えなくなちゃったんですよ」と招き猫の女性の方を向いて言うと

「当たり前だ!そういう時は白を置くんだ。

でも教えるのはそこまで!

あたしは霊感があって風水も教えてるんだ。占いもするけど“ただ”では教えられない」

とその女性は言った。

「あっ、白い物も青い物も、今は置いてます」

「それでどうなった」

「気持ちが変わって喧嘩が減りましたね」

「そうだ、その筈だ!」と風水先生は、まるで自分の手柄のように得意そうに言った。

「へー、面白いですね」と招き猫の彼女が言う。

「ええ、ここに風水の先生がいらっしゃるけど、ホント、風水って面白いですよ。

あたし金運が欲しくてそういうわけで部屋を黄色で統一したら、まあバブルの時期って

こともあったんでしょうけど、仕事が忙しくて金運は良くなったけど、

夫婦喧嘩が絶えなくなって、その上忙しすぎて体調も悪くなちゃったんですよ。

だから、健康と人気の白とブルーの物を置いたんですよ」

「それから赤い木の実を置くんだ!」とまた風水先生が横から言った。

「あっ、置いてます。愛情に恵まれるんですよね」

風水先生は、“ただ”で教えるのは惜しいが、教えたくて仕方がないようだ。

「難しくて覚えられないわ」と招き猫女性が言った。

「簡単ですよ、金運でも愛情でもなんでも欲張りすぎてはいけないってことですよ。

そのことを、風水を行うときに自分に言い聞かせればいいんですよ。

さしずめ、このあたしだったら、お金も大事だけど健康や、大事な家族があってこその、

お金なんだっていうことを知って、健康人気も大切って言いながら白ブルーを置いて

夫を大事にして仲良く暮らそうって自分に言い聞かせながら赤い物を置けばいいんですよ。

意味を考えないで形だけやっても意味ないし、その意味を考えてそれを置こうとした時に

は、もう運気は変わってるんだと思うんですよ」と私は言いながら、

招き猫の彼女は、意識しなくても風水が出来ているんじゃないかなと思っていた。

「何かコツってありますか?」と彼女が聞いてきた。

「あー、簡単ですよぉ。威張らないこと。人に対して失礼な真似をしないこと。

感謝の心を持つこと。弱いものを大事にすること。招き猫じゃないけど動物を損得抜きで

可愛がる人は、人に好かれて人が寄るって言いますよね。

あと、お年寄りを敬って大事にすれば、運気は良くなるに決まってますよ」

「そうだ!年寄りは大事にすることだ!」とまた、風水先生が横から言った。

私は心の中で(惜しげなく与える、教えることも必須条件だね)と思う。

「いいこと聞いたわー」と招き猫の彼女が帰った。

黄色いリボンを切り始めると、私の長さをはかる手元から目を離さず見ながら

「これは、まからねえの!?」と集めた物を、次々に聞いてくる。

店に客がいないのを確かめて

「あのー、あたし気が強そうに見られるんですけど」と言うと

「なにー!?」と風水先生がけんか腰で言った。

「だーかーらー」と私も大きな声で言う。

「だから、あたしって気が強そうに見られるんですけど、実は気が小さいんですよ。

それで、店に買い物に行ってもまけてって言えないんですよ。

だから、まけてって言ってまけてもらってる人見ると面白くないんです。

言ってまけられる位なら最初っから安くしたらいいのにって思うんですよ。

 ここは、あたしの店でしょ?

だから、あたしみたいにまけてって言えない人も、言えなくて損しないように最初っから

安い値段を付けて、それ以上値引きはしないって事にしてるんです。

だから、言っても無駄ですから、付いてる値段でお考え下さいね」と言うと

「ふーん、そおけ」と風水の占い師は言った。

そして、オマケをあげると「もらえるもんなら何でもいいよ」と機嫌良く帰って行った。

 

 私は、占いでも風水でも何でも、決め付けてはいけないと思っている。

勝手に決め付け、脅して利益を求めることは、一番してはいけないことだと思う。

それをしても、一見何も起きないように見えるけれど人を笑ったり馬鹿にしたり、

知ったかぶりをして上からモノを言うことは、自分の魂を穢していることに他ならないと

私は思う。

こうして私が、批判的に言っていることもいけないことなのかもしれないが…。

その人は何度か来店していたが、鵜の目鷹の目で得することを捜している姿は醜い。

見ず知らずの人に占ってやると声を掛け、ここから先は店に来い、などと言っているのを

何度か見聞きすると嫌な気持ちになっていた。

 頼んでいないのに話し、その先を聞きたいと興味を示したとたんに出し惜しみするのだ。

教育は学問だ、と言って生徒を死に至らしめた者がいた。

 私は、教育は実践だと思う。いや教育に限らず総てにいえることだと思う。

百の言葉よりも、その人の人となり、行動、生き方が大事だと思う。

思い上がらず、失礼でなく、軸足を自分に持ち、人に振り回されず、一つ一つのことを

きちんと丁寧に、楽しんで行っていく。

それが、基本であると思う。

 

ある風水師が、彼の娘と一緒に旅行をする番組があった。

娘が彼に質問した。

「ねえパパ、良縁が結ばれるっていう風水はないの?」

「バカだなあオマエ、良縁って縁はないんだよ。

縁が訪れる風水ってのはあるけど、縁があったら、それを良縁にしていくのは本人の努力

なんだぞ。

縁を大事にして温めて良縁にしていくのは自分の努力と生き方次第なんだ」

          ウン、私もそう思う。