ケシ

 

 毎日、面白いことが起きる。

私にとっての面白いことは、意外性。

 早とちりで思い込みの激しい私は、瞬時にして答えを出すところがある。

結構当たったつもりでいるが、どうしてどうして、間違いが多い。

 私が思うことが違っていたと気がついた瞬間、東を向いて走っていると思って乗って

いた電車が、西を向いて走っていた!と気付いた時に、世界がぐるりと回転するような

気持ちになる。

 それは、気持がいいような悪いような、でも、面白いってことは紛れもない事実。

 

 私は、草花が好きで、土さえあれば何かを植える。

種を蒔くので、所狭しと何かが生えている。

何年か前、ケシの花が咲いたことがあった。

真っ赤な八重で、大ぶりなケシの花は庭の中で一際目立っていた。

 

 庭の手入れをしていると、色んな人が声を掛けてくるが、何かの苗や花を呉れという

人は、多い。

 

 その日も庭の中にしゃがみ込んでいると、一人の中年女性が声を掛けてきた。

「キレイな庭ですね」

「はぁ、ありがとうございます」

「色んな花があるんですね」

「ええ」

「お花、お好きなんですね」

「ええ」

 また何時もの何かの花が欲しいという人かな、と草引きの手を休めず私は思った。

「この花なんですけどね」

と、その女性は真っ赤なケシを指差し、

「ご存じですか?」と重ねて言った。

「何がですか?」

「これ、植えてはいけない花なんですよ」

「えー、だって近くの畑で一面に咲いていますよ」

「あ、そこの場所教えて下さい」

「えー、嫌ですよ」(ワシは言いつけ口とかチクリが大嫌いじゃ)

「あのぉ、私こういう者なんですけど」

と、その女性は身分証明書らしきものを出してきた。

そして、「こちらは同僚です」と、後ろを振り向いた。

そこには、若い男女が立っていた。

「私たちは、保健センター(と言ったと思う)で植えてはいけないケシの見回りをして

いるんですよ」

「えぇー!」

「驚かないでくださいね。分からないで生えてきちゃったんですよね」

「ええ、種は貰いましたけどそんな花だとは思いませんでした」

「そうでない種に混じっていることもあるんですよ。

でも、この花を植えることは法律で禁じられているんですよ」

 

 私は、麻薬関係の植物を植えるとそこの辺り一面を火炎放射気で焼かれると聞いていた。

 

(アチャー、手塩に掛けた庭の花々を焼かれてしまうのか!)と思ったが、

その女性は、

「申し訳ありませんが、見つけた以上は抜いてもらわなければならないキマリなんですよ

今、私たちの目の前で抜いてもらえますか?」と丁寧に言った。

「抜くだけでいいんですか?」

「もちろんですよ。申し訳ありませんね」

「いえいえ、キマリですもんね」

と、私はその人達の前で立派に咲いていた真っ赤なケシを抜くと、

「あのぉ、これもそうなんですよ」

と女性は、まだ花の咲いていない小さな苗も次々と見つけてきたので、それも抜いた。

「ケシは、咲かないと分からないので、こうして咲いている時期を見計らって走って

見つけて、抜いてもらっているんですよ」と、ホントに普通の主婦のように見える

その女性は言った。

彼女は、若者達に指導をしている様子だった。偉そうでないその姿は、カッコよかった。

麻薬になるケシは、茎に産毛があるとかないとかで、花がこういう形のものなのだと説明

しながら写真が載っているパンフレットを私に呉れた。

 

 あの頃、テレビのコマーシャルで、一見普通のおばさんに見える女性が道を歩いていて

ちょっと、トントンと弾みをつけて走り出し空中転回をするというやつがあった。

 最初見た時は、びっくりしたが、何度見てもそれはヤケに痛快、愉快で、

最近では、80歳になろうかというジイサンが、鉄棒にぶら下がったかと思うと、

軽々とグルリン、グルリンと回り出す。ってのがあったが、面白かった。

 

 ケシの花が麻薬になるヤツだったという驚き、普通に見えたおばさんが、それの取り

締まりをする人だと分かり、オミソレしました。っていう感じ。あれは、面白かった。

でも、ケシってやつは丈夫なんだか強(したた)かなんだか、全部抜いたハズなのに

翌年もその翌年も出た。(もちろん、ちゃんと抜きましたよ)

 その頃に、千年だか2千年だか前のハスの実がミイラと一緒に見つかって

水につけたら芽を出したっていうのを、ニュースでやってた。

 スゴイねぇ、でも、それを意外だと思うのは認識不足なんだろうね。

 

だけど、知識不足でも認識不足でもいいんです、ヘェーって驚くの、大好きなんだから。