景色
また河合さんの話になりますが、河合さんが鬱(うつ)病の人をカウンセリングして、
その人と会ってホッと一息ついて一緒に外に出た時、
「景色がものすごくキレイ、キレイだっだんか、私は今まで景色なんか何も見ていな
かったんやないか」とその人が言ったっていうんです。
つまり、何時もイッパイイッパイで景色を見る余裕なんかなかったんですね。って、
ホッとして景色を見たら「こんなにキレイか」と思うんですね。
という話をしていたことがありました。
私の所にやって来て、景色を見ない人は多いです。
メダカを見せても、見ていない。
自分の子供の話、あなたの子供は結婚したのか、孫はまだか、ここは何の為に建てた
のか。と、問いながら、自分のことを途切れずに喋る。
絵を見てもそこの絵を観てはいない、歌を聞いてもその歌を聴いてはいない。
そこにどんな美しい景色があっても、景色を見ていないように感じる人が居ます。
その目は何も見ず、その耳は何も聞かず、自分の関心事だけをただ喋りまくっている。
自分がいいと思うかそうでないかでなく、人目を気にして世間の標準に合わせた良し悪し。
そうして走り続けていなければならない人生だったのかもしれない。
この人は、空を渡っていく月を追いかけることがあるのだろうか?
田んぼの上に繰り返し出来る風の足跡を、飽かず眺めることはあるのだろうか?
メダカやカエル、草花の緻密な美しさに見とれることはあるのだろうか?
風の音を見て、空の高さを聞くことはあるのだろうか?
目を瞑って、星を見る。
景色に隠れた音を見つける。
あー、何にもいらないなー。
いつだって、時は豊かに芳醇に香っているのになー。
勿体ないなぁ。と、そういう時、思う。