気がつかないところで

 

「人は、自分じゃ気がつかないで、どれだけ人を傷つけているんだろう?」と小学校3年になる翔が

言い出した。

「そうだね」と何気なく相槌を打ったが、「どうしてそう思ったの?」と聞いてみた。

「この間、じっちゃん先生が、学校を止めたんだよ。」

「ふーん。」

じっちゃん先生というのは、翔の通う学校の今までの校長先生である。

「そしたら、新しい校長先生が来て若い先生も来たんだ」

「そうか、じゃあ、いっぱい遊んでもらえるね」

「うん、でも…」

「でも、どうしたの?」

「じっちゃん校長は、学校止める前にみんなが遊べるようにって、シーソーを作っていってくれたん

だよ」

「そうか、よかったね」

「何日も何日もかかって作ったんだよ。

じっちゃん先生は年とってるから重いものを運ぶのが大変なんだよ。

でも、みんな忙しいんだからって一人で頑張って作ったんだよ。僕、ずっと見てたんだ」

ははーん、やつは、授業中に外ばかり見てたんだなと思いながら聞く。

「それが新しい校長先生が、シーソーではみんなが一緒に遊べないからって

若い先生と一緒に、シーソー壊して、ミニバスのコートにしちゃったんだよ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ!ミニバスのコートは、ドッチボールも出来るし、いろいろ出来るんだ」

「そうかー」

「そうなんだよ、でもじっちゃん先生は一生懸命作ったんだよ。

だけど新しい校長先生はそのこと知らないんだ。あー僕は心配だ」

「何が?」

「じっちゃん校長先生、(又遊びに来るって)お別れのとき言ってた。だから絶対遊びに来るよ。

それが心配ないんだ。じっちゃん先生が遊びに来たとき、シーソーがなくなっているのを見たらどう

思うと思う?がっかりして悲しくなると僕は、思うんだ」

「うーん、どうだろうね」

「きっと、そうだよ、でもみんな悪くないよね」

「うーん、そうだね」

「みんな子供たちの事を思ってやったことなんだよね」

「そうだね」

「それなのに、じっちゃん先生を悲しませてしまうんだね。

僕もいいことだと思ってやって、誰かを悲しませていることがあるのかな?」

「うーん」

「きっとあるよね」

「うーん」

「あー、じっちゃん先生が遊びに来たらどうしよう、僕心配で眠れない」