危険人物

 

 危険な人間というものがいる。

時と場所を弁えず、何を言い出すか、何をやらかすか読めない人のことだ。

全く、危なくってしかたがない。

 

 以前仕事の付き合いで、倹約家の社長が居た。

何でも値切る。値切り倒したその上で請求書を持っていくとそこから更にシッポ切りと

いうのだが、端数を切らせる。

 社長の性格を知っている人は皆、請求書に上乗せしていく。

例えば9600円だったら10500円、すると必ず10000円にさせられる。

それじゃあ、ズルイんじゃないか、と思うだろうが、9600円だったら絶対9000円

にさせるのだ。

値切り方が半端じゃないので、少し上乗せしても、それでも他所よりは損していると

皆、言い訳のように言っていた。

そこのお祖父さんという人もケチで有名だったそうだ。(あー、ケチって言ちゃった)

その奥さんは、甘えた話し方をして一見可愛いのだが、仕事を頼んだ人に自分の家の仕

事もさせてしまうという公私混同の人だった。

今度大きな仕事を頼むからと気を引いて小さな仕事の値引きをしてもらい、自宅の荷物

運びなどを手伝ってもらっているが、気が付くと、大きな仕事は他所に頼んでいたりする。

きっとそちらに、何かもっといいメリットがあったのだろう。

その家族を仁義の分からない、キタナイ人だといっている人がいた。

 そこの社長が「息子が、バイトをしたいと言っているので頼みたい」と言ってきた。

ちょっと二の足踏んだが、人手が足りずにいたところで頼むことにした。

 すると、その息子が口数が少なく、誠実できちんとした仕事をする。

まあ、まだ学生で要領の悪いところはあるにしても、ズルイところがなくて最近には

ないヒットだった。

 良い親に育てられたと思う子供が、使いものにならないことが多い。

だったら、ダメな親でも反面教師にすれば、いくらでも良く育つことが出来るんだなあ。

と家人と話した。

 社長から仕事の電話が入った折に、その息子の話になった。

「よく働くし、きちんとしていて助かっていますよ」と私が言うと、

「いやー、まだまだアマちゃんで使いものにならんだろう」と言ったその瞬間

「いえ、とても役に立っていますよ。しっかりしていてズルイとこがなくてトンビがタカ

ですね」と言っていたのだ。

ゲー、何てこと言うんだか!。と思ったときは後の祭り。

振り返ると家人が、エーと目をむいて私を見ていた。

 危険人物、それは、ワタシだー。

 

 知人が、夫の車で我が家に寄った。

用があって表に出ると、車の中に待つ彼女の夫と娘の姿が目に入った。

笑顔を作って頭を下げる。

すると、次の瞬間、彼女の夫は顔をそむけ、娘はズズッと後部座席に沈んだ。

知人と私の間には、何の諍いもない。若しあったとしても、家人には関係ないことだ。

 知人は、二人を「変わり者なのよ」と言ったが、社会生活は、仕事の人間関係はどうしているのかと思った。

思ったが、私には関係ないことだ。余計なことは言わないことと、口にチャック。

 後日、彼女からの電話で、彼女が、友人と距離を置くことにしたという話を聞く。

何故かというと、その友人は、彼女の内部事情は聞きだすが、自分のことは一切明かさな

いのだという。

 そして、その話を聞いた彼女の娘が、

「あたしは、最初からそうなることは分かっていたわ。だってあの人はお母さんの話を

二周りしても理解できないような人だったもの」と言ったのだという。

挨拶した時、シートに隠れたあの娘だ。

 そして、彼女は「あの娘、案外鋭いところがあるのよ。歯に衣きせないでズバッと言う

ところがあって、見ないような振りして黙って観察してるのよね」と言った。

と、その瞬間、私の口が滑り出した。

「そうだよね。自分のことが出来ない人間に限って、人のあら捜しは上手なんだよね」

「エッ、それって…」

「いや、そういうワケじゃなくて」(ってどういうワケなんだー)

「うちの子も家の手伝い始めたばっかりの頃は、岡目八目、傍目八目で自分のやってるこ

と棚にあげていろいろ言ってきたんだけど、自分が本腰入れて責任持ってやるようになっ

たら逆に、キツイこと言わなくなったんだ」

って言えば言う程、墓穴が深くなる。

 あーあ、あれから、その知人から電話がない。

まっ、しょうがないか!?     危険人物だから、ワタシ。