子ども

 子どもっておもしろいよねぇ。

 

知人の孫のカリン。今年、幼稚園の年中さん。

一人っ子で、少しプライドが高いみたいな感じもするんだけど、シャイで照れ屋な女の子。

 最近、お父さんが病気で入院した。

そう大事ではなかったが、心配した親類がやってきて、何やら慌ただしく、カリンもお父

さんの心配もあり、落ち着けないでいた。

 祖母が、面倒をみていたが、病院の廊下を「走るな」と言うのに走って転んだ。

転んだのが、ナースステイションのまん前。

転んだはずみに床に顔を打ち付け、上の前歯が折れて飛んだ。

おびただしい出血。

看護婦さんが、ナース室から次々と現れる。

 そこで、カリンが、血だらけの口を押さえながら言った。

「救急車は、呼ばないで! 救急車は、呼ばないで!」

看護婦が言った。

「ここは、病院だから、救急車呼ばないよ!」

 それもナースステイションのまん前だから。

 

 琢磨が、4歳の時だった。

琢磨は、乳児の時から涙腺が詰まりやすく、詰まると細い管を通すことになる。

それは物凄く痛いらしく、そのことがトラウマになってか注射を異常に怖がった。

 その日は、どうしても注射をすることになった。

病院で待っている間から緊張し、診察室に入って注射をすることが分かると暴れ始めた。

 普段の彼は、落ち着いていて論理的で、話せば分かる子だ。

それが、どうにもこうにも注射を怖がり、泣き暴れ、どうしようもなくなって看護婦が

診察台に押さえ込んで注射をすることになった。

 そして、いざ注射を打とうとした瞬間、あんなに泣いて暴れていた琢磨が

「ちょっと、ちょっと待って下さい」と手を振って診察台に起き上がった。

そして、次に言った言葉が、

「ボクがあんまり泣いたり暴れたからといって、先生は注射を打つのを間違ったりするこ

とはありませんか?」だった。

 先生は、笑いをこらえながら、

「大丈夫だよ」と言うと

「それなら、お願いします」と言って泣きながら、再び診察台に横になった。

注射が済むと、しゃくり上げながら

「こんなに泣く子どもはいますか?」と聞いた。

琢磨は、今年二十歳になったが、大學で宇宙工学の勉強をしている。

 

 日向(ひなた)の祖母は、躾をきちんとして、挨拶や行儀に気を付けている。

祖母が五十肩で、背中のボタンが掛けられず幼稚園年少の日向に頼んだ。

 すると、「おばあちゃまも、そろそろ自分で出来るようにならないとね」と言われたと

いう。

 私が遊びに行くと、何やら澄ました顔でいるが、私に興味があるのか傍を離れない。

おばあちゃまが、

「たまにこういうものも美味しいのよ」とカッパエビセンをお茶請けに出してくれた。

日向は、私の真向かいにちんまり座って一緒になってお茶をすする。

エビセンを小指を立てた右手で摘みながら、カスがこぼれないように左手で受けている。

 それを見ていたら、ちょっとからかいたくなって

「こうやって食べると美味しいんだよ」と言って「カカカカカッ」と前歯でリスのように

食べて見せた。

「ねっ、おもしろいでしょ」と言うとシラーっとした顔で見ている。

「ホントに美味しいから、やってごらんよ」と重ねて言うと

「でも、そういうことすると、クセになるから」って言われちまった。テヘッ。

で、もって「こんなの知ってる?」と唇にエビセンを出っ歯のように挟んで見せてやった。

それを見ていたおばあちゃまが、「どっちが子どもだか、分からないわね」と言った。

因みにおばあちゃまと私は5歳違い。

 

 子どもってのは、その意味を知ってか知らずか、タイムリーなことを言う時がある。

知人のとこのマゴッチは、保育園で覚えてくるのかビックリするようなことを言う時が

ある。

 先日、まだ50歳になったばかりの知人の知り合いが突然亡くなったという。

びっくりした大人たちがその話をしていると、マゴッチがその中にわけ入ってきて

「シンジラレナーイ」と言った。

マゴッチ3歳になったばかり。

 

 私が、次女を産んだ頃だから長女の夏子は、2歳半だった。

洗濯をしていたら、お札も洗ってしまった。

 乾かす為に台所のガラスに貼りつけた。

それから居間で一緒に遊んでいたが、夏子の姿が見えなくなった。

 私は、夏子の姿が見えなくなるとソーと捜す。

一人で面白いことをしているからだ。

 何処で何をしているのかと、家中をソクソク歩いて探して回ったら

台所で手を合わせ、頭を下げている夏子が居た。

 その先には、ガラスの張り付き、宙に浮いたお札があった。

やつは、お札を拝んでいたのだ。

 

 夏子は、我慢がきかないところがあった。

夏生まれの夏子が、わきの下を夏の虫に刺された。

当時、2歳。

「カイー、カイー。ムヒつけてー」と言った時には、もうかきむしっていた。

「これでムヒつけたら痛くて大変だよ」

「いーから、つけて、つけて」

「だから、大変なことになってもいいの?」

「いーのー、つけてー」ということをきかない。

仕方がないとつけると、案の定

「いたー、いたー」と大変な騒ぎになった。

風呂場に行ってぬるま湯で洗いながし、バスタオルに包まれ抱っこされた夏子は、

ヒック、ヒックとしゃくり上げる。

「ねー、だからダメだって言ったでしょう」と言うと

「いー、クスリになった」と言ったが、あんた、意味分かってんの?

因みに、夏子と琢磨はイトコです。