コウガン

 

 お昼ゴハンの用意をするのが、急に面倒臭くなった。

私は、人が思っているより結構よく家事をやる。と、思う。

 でも、時々、何だか、マッタクやりたくなくなる時がある。

それが、目立つもんだから家事をやらない人というイメージが強くなるみたいだ。

 

 で、「お昼ゴハン作りたくない!」と夫に言った。

「じゃ、うどんにでもするか」と夫が台所に立った。

すぐにキッチンの隣にあるダイニングテーブルで、鰹節を削り始める。

 夫が作り置きしている自慢のカエシがある。

それを使ってダシさえきちんととれば、美味しい汁が出来ること間違いなし。

っていうなら自分でやればいいのだが、同じ材料を使うなら絶対夫の方が上手く出来る。

お世辞を言ってやってもらうつもりはない。事実。

 

 カッカッと鰹節を削る音を聞きつけて、すぐに愛犬マイロがやって来る。

テーブルの下から見上げ、オコボレを頂こうと待ち受けている。

すると夫が手を止めて、

「何のニオイだ?

コウガンのニオイか?臭いな」と言った。

「え、コウガン?」

「うん、色がオカシイな」

マイロのコウガンが汚れてでもいるのかと、私は思った。

「どういう色だって?」

「腐ってカビてるような色だな」

「はぁー?」とマイロの垂れ下がったタマを覗いて見た。

夫は、丸い背中を丸めて鰹節を削るのに集中。

「何処が臭いのよ!?」と再び聞くと、

「ホレ」と、夫がアゴで指した先には、

トウガンが腐りかけ、表面がぬるっとなって変色していた。

「あー、トウガンかぁ。

コウガンって聞こえたから、誰のコウガンが臭うのかと思ったよ」

「コウガンが臭ったらヤダナ」

「オトウのコウガンが、色がオカシクて臭うってどーよ」

「あんた、よく、そんなこと言うよね」

「トウガンとコウガン、聞き違えたんだよ」

「コウガンの美少年のオレは、赤くなっちゃうよ、紅顔しちゃう」

「でも、コウガンの美少年じゃなくて、コウガンが美少年つったら意味が違っちゃうよね」

「あんたって、サイテー!」