ネズミ男1

 

 私は、子供ん時から心の中に空しい風が吹き始める時があった。

普段は、お気楽で、結構反省し、物事を客観的に多方面から見て考える自分に満足して

いる。

 それが、何だか分からない空しい風が吹き始めることがある。

それが吹く原因は、きっとその都度あったのだろうが、普段は何でもなく通りすぎている

ことにつまづく。

 そして、不安というのか、あのイヤーな気持ちが、やってくる。

イヤな気持ちになる、というよりは、イヤーな気持ちは、“やってくる”。

 

 そういう時、必ずといっていいほど、傍に男が居た。

男というと、一応自分の性別が女である為、イヤラシイ、気持ち悪い目で見る人が居るが、

私にとって彼らは、男でも女でもない。一応戸籍が男だっただけのことだ。

 男にも、世間や将来が大事で自分の足を引っ張る者は相手にしないという人は居る。

が、あの優しい無責任の男達は別人種で“ネズミ男”と命名する。

 

ネズミ男には共通することがある。

定職を持っていないか、間もなく辞める。 家庭を持っていないか、家から離れる。

学校や社会からはみ出している。適合出来ない。行方不明になる。

病気になったり、亡くなった者も多い。

そんな男の何処がいいのか、何かが自由で、無責任の優しさがある。

 私を良くしようなんて思っていない。

私が目の前で死にそうでも、手を出さず、黙って死なせてくれる気がする。

 

 普通の女は、私が愚痴をこぼすと必ず「大丈夫よ」と励まし、自己批判をすると

「そんなことないわよ」と慰めてくる。

 何の話にでも「それでいいのよ」「それじゃダメよ」を言わない人は居ない。

そして、彼女の知らない話に熱弁を振るいだすと、「得意な話になるとよく喋るわねぇ」

「そういうことに興味があるのね」「そんなこと考えて何になるの」と話の内容は聞かない。

 女達は、忙しい。気が回る。

話している最中に「家の方、大丈夫?」「仕事して」と、話の腰を折る。

 あのー、自分のことは自分で考えますから、そっちには口出ししないでください。

そして、「今日は今から用事があるから」とか、ネズミ男に言うみたいに

「今日はダメだ、忙しい」なんて言おうもんなら、もう二度と来ない。

 女には、何でも言われる前に気がつかないといけない。という思い込みがある気がする。

それは、気を回した早とちりとなり、セカセカして落ち着けない。

 ユックリ、のんびり構えて、何か言いたいことがあったら言いたい人が自分の口で

言ったらいいんじゃないかと私は思ってきた。

 でも、女はそれを口で言わず態度で示す。

早く帰れ=セカセカ。話を聞きたくない=はぐらかす、無視する。キライ=ツンツン。

 それらは、きっと正直に言うことで人と摩擦を起こさないタメにそうなったんだろう。

そして、そうすることで彼女たちは、自分にも気がつかない何か落ち度があるんじゃない

か、と疑心暗鬼になっていく。

私はそれらが、辛いし、面倒臭い。

 

 小学生位の時の男は、友達とか親戚の子とかだった。

私の家に泊まりに来ていたり、一緒に遊んだが、一緒に居てもそれぞれが好き勝手な

ことをしていて、お互いが干渉することは殆どなく楽しかった。28退学のやすし。

134ラーメンの孝雄。340ソロバンのヒロシちゃん。

 昔、若かった頃、男と2人でボーっとしているのを見た人が私を“男好き”だと言った。

まあ、そいつは一応男だった。

 何だか生きてるのが辛くて町をフラフラしてたら、そいつと会って公園の椅子に座って

ボーっとしてた。11美容室のケンちゃん。

 ネズミ男達は生産性はないんだが、男にも女にも何となく人気があり、ちゃんと働いて

いないハズなのに、何となく生活していた。36ゲッカマンのロクちゃん。

383仙台四郎の竹男ちゃん。

 

こうやって十把一絡げでネズミ男を語るのは、失礼な気もするし、勿体ない。

今までにもネズミ男のことは、何処にあるか見つからないんだけど、

5月に亡くなった、その通夜の晩に我が家に来て風呂の戸が開いた話っを書いた。

 

ロクちゃんは、私にスイッチが入った時、食道がんで入院していてその後、空に往った。

私をババアと呼び「ババア、オレが死んだら高い空の上から見ててやるからな」と

言ってたっけ。

 私が本を書いているという話をした時「オレのこと書いてくれな」って言って

「うん、書いてもいいか?」って言ったら「書いてくれよぉ」って言った。

 ちょっとエグイ話が多いんだけど、ロクちゃんがいいって言ってたんだから。

 

 って、これ書いてネズミ男達のこと思い出したら、空しい風が通りぬけ始めた。

そいうえば最近、ネズミ男が来ない。