西宮さん
二十歳代も半ばを越えたウチの子供たちが、保育園に行ってる頃だから、二十年以上も
前の話になるんだねぇ。
同じ保育園に通っていた子供のお母さんに、西宮さんっていって小学校の先生が居たの
よ。
その人が、まあ、普通って何よっていう何時もの話になるんだけど、普通の人から見た
らちょっと変わった人で、私は大好きだったのね。
まあここで、私が変わっているという自慢話は置いといて（自慢なのかよー）
どんな風に変わっているかっていうと、んー、時間に遅れる。忘れ物が多い。損得で物事
を考えない。洋服がチグハグ。恥とか外聞に頓着（とんちゃく）しない。
あれれ？若しかして、これって私？
兎に角、話していて面白い人なの。
旦那さんも先生なんだけど、家族の中ではちょっとオチコボレなんだって誰か言ってた。
よくあるでしょ、天才の家系っていうか家族っていうのが、親も兄弟も東大なんだけど、
その旦那さんは、出来が悪くて東大落ちて違う大学に入ったんだそうな。
あのー、東大受けるって時点でスゴイと思うんですけどー。
彼女の仕事が忙しいと、彼女の子供を預かったりしてたのね。
彼女の子供は二人、男の子。
ウチは女の子二人なもんで、男の子というモンを観察出来て面白かった。
まあ、男はとか、女はとかっていう何でもヒトククリにした考えや見方っていうもんに
反発を覚える私なんでありますが、やっぱり違うんだよねぇ。
先ずイタズラが違う。
最初にやられたのがステレオ。スイッチやネジ、カセットを入れる穴に色々詰め込まれて
気が付いたら、タイヘンなことになってたよ。
音楽聴こうと思ってスイッチいれたら、爆音みたいな大音響なんてのは、笑えたねぇ。
次は、目覚まし時計がやっつけられたな。
紙とマジックなんか渡すと、紙だけじゃすまないんだよねぇ。
食べる量も、家の子とは違ってたねぇ。
私、保母さんやってたことがあるんだけど、彼らは特別研究熱心だった気がする。
西宮さんにそういう話をすると恐縮するんだけど、やっぱり一緒に笑っちゃうの。
西宮さんの家での子供たちのイタズラはどうかっていうと、冬の“コタツ分解事件”
ってのがあったの。
昔のコタツってヤグラの部分、天板を乗せるとこが格子になってたでしょ？
彼女が急な仕事で、二人に留守番させて家に帰ったら、泣き声が聞こえたんだって。
何かやらかしたな！と思って家に入ると、コタツヤグラの格子に腰まで入った長男が
いて隣で次男も泣いてたんだって。
まあ、命には別状ないってことがわかって、彼女ふき出しちゃったんだって。
でも、それからがタイヘン。ヤグラの格子からどうやっても抜けないんだってよ。
子供の柔らかいウエストに食い込んで上にも下にも動けない。
どうやってそこに入ったのか不思議な位で、結局ノコギリで格子を切ったんだけど、
コタツはバランバランになって見るも痛ましい姿に相成った次第。
「ウチの子たちは、イタズラが激しいのよ。だから、普通の家には心配で預けられないの」
と言いながら、西宮さんたら、私に子供を預けるワケ。
「でも、私も、イタズラが激しかったみたいよ」って彼女が話したのが、
“犬に吠えられるの巻”
彼女が高校に入学して間もなくのこと。
その高校は、この辺では名門の高校なんだけど、駅まで自転車で行ってそこから電車に
乗って通うことになったんだって。
無事高校に入学して、春風にのって自転車をこいでいると気分が良くて、でも遅刻寸前
が多くて、毎朝、自転車を飛ばしていたら、ある塀の横に飼い犬が寝てるんだって。
それも、毎朝、その犬の起きてる姿は見たことないんだって。
「死んでるんじゃないかと思ったのよ」って、何日も死んだままのワケないから。
西宮は、（あー、この犬の起きてるトコみたいなぁー）って思っちゃったんだって。
そして、一ヶ月ぐらいは我慢したんだけど、ついに決行した。
自転車で飛ばしながら犬のすぐ横に行って、「ほれ！」って蹴飛ばす真似をしたんだと。
そしたら、犬が「ウー、ワンワンワンワン」って起き上がって飛び掛ろうとしたけど、
時すでに遅し。彼女の自転車は、遥か彼方。
「でも塀の陰に、そこのオヤジが居た！」（西宮の言葉）
それからがタイヘンだった。
毎日、彼女の自転車の音が聞こえるとその犬が吠え出して、彼女の自転車が見えなくな
るまで吠え続けるんだって。
それは、高校が終わるまで朝晩休まず続いたってから、犬って執念深いっていうか、
しつこいっていうか。
それから、そこのオヤジと会うとにらまれるわ、その犬には吠えられるわ、その犬の
寝てるとこは見られなくなったんだそうだ。
大學は、そこの道通らないでいいように東京の学校にしたんだそうだ。
♪イヌ、蹴っちゃった、イヌ、蹴っちゃった、イヌ、蹴る振りしたら、吠え出した
イヌ、ワォーン、イヌ、ワォーン♪（ネコふんじゃったの曲で、どーぞ）