さもありなん

 

 麻子が、店を持ち客商売をして20年近くなる。

人は人と会話し、付き合っていく事で成長出来るのだと麻子は思う。

成長出来るという事は、成長しない人も居るという事だ。

心を閉ざし、自分の世界から出ようとしない、自らを省みず、自分を見せないために

人を受け入れ様としない人は、例えどれだけの人と出会ったとしても、それは見ても

見えず、聞いても聞こえず、何も得る事が出来ないのではないかと麻子は思っている。

 しかし、人と付き合うそこには、基本的に守らなければならないルールがあると思う。

それは、個人情報を他所に話さないこと人名を出さない事、そしてスポイルしないこと。

スポイルとは、傷つけること、損なうこと、汚すこと、駄目にすることと共に、

甘やかすことと辞書にある。

甘やかすことは、自己満足であって、それを駄目にすることでもあるのだ。

それと同時に、自分の意見を真直ぐ発信して、安全な人と危ない人間を見分けなければ

ならない。

 頭の悪い人と麻子は思う。その人には特に大切な事や自分の意見、感想を述べてはなら

ない。

 麻子の思う頭の悪い人とは、学歴ではない。

言っていい事と悪い事の区別ができない人の事だ。こちらの言うことを真直ぐに受け取ろ

うとせず、人の一番大切な部分をおもちゃにする人の事だ、利用する人の事だ。

そして、自分の感情をコントロールする事が出来ない、

コントロールしようと思っていない人の事だ。

そういう人は嫉妬心が強い。自分は努力せずに人を羨む。自分の価値観が総てで人の話を

聞かない。闘争心が強くそのた綱(たづな)を自分が握っていない。

嫉妬、憎悪、恨み、闘争心が野放し状態なのだ。その癖、現(うつつ)を抜かしやすい。

だから、エコヒイキをし、独りよがりである。

麻子は、そういう人とも出会った事によって成長させてもらえたと思っている。

いや、まだこれからかもしれないが、二十歳の時よりは確実に人の見分けがつくように

なったと思っていた。

 そう思っていたのだったが、自分もまだまだだと思う出来事があった。

 

「さもありなん」

 

 麻子の子供は、女の子二人だ。

その人敏子とは、彼女の子供と麻子の子供が幼稚園、小学校、中学校とクラスが一緒で

なんとなく付き合って来た。

敏子の子供は男の子と女の子二人で、二人ともスポーツ系である。

そして、それが自慢だ。

敏子は自分が所有していると思うものが全てであり、それ以外の事は全て非難し馬鹿に

し、こき下ろす。

自分の実家、実の親兄弟は誉めちぎり自慢する。

しかし、他人はもとより夫の家とその親兄弟も他人の領域にあたるらしく、そこまで

言っていいのかと思う程こき下ろし、けなす。

自分に関わりのないものを誉めている敏子を、いまだかつて麻子は、見た覚えがない。

現在、年頃を迎えた敏子の子供(息子)の彼女も、敏子にとっては他人であるようで

やはり糞味噌である。

敏子の息子達が、勉学能力より運動能力の方がすぐれていたので、男はスポーツが出来な

ければ生きている資格がないという様な言い方をしてきたが、麻子の娘はボーッとして

いて、どんくさく見えるので、敏子に散々馬鹿にされてきた。

 しかし、負担だった敏子との関係は、長女が中学を卒業した頃から遠のいていた。

それははっきり宣言したわけではないので、その後も電話がかかってくることはあって

も、その都度用事があると断って、もう二度と彼女と繋がりが出来ない様に気を付けて

いた。

 幸いな事に、敏子は人に利益を与える事が嫌いな性質で、麻子の経営している店の商品

ファンデーション(下着)、健康食品、輸入雑貨などを買いに来たことは今までに一度も

なかった。

 それが今年の春になって、敏子の娘が、顔の吹き出物がひどいので、麻子の店の健康

食品を試してみたいと言って来た。

敏子は、お金に不自由しているわけではないのに、つましい、はっきり言ってケチだと

麻子は思う。

 

麻子は健康食品のように直接身体に入るものは、

安全で信用のおける事が第一だと思っている。

健康食品は、病気を治す為ものではない。

体質を改善する事によって、結果的に肌が綺麗になったり、体調が良くなったりする。

あくまで結果としてであって、何より普段の基本の生活が大事なのだ。

そして、生活と同じで健康食品は毎日続けなければ効果がない。

毎日微力ではあっても確実に身体を変えていく。

 だから、健康食品会社というのは、五年以上存続している事と、会社の理念が

しっかりしている事に重点を置いている。

それは何故かといえば、健康食品はある程度長く続けなければ結果が見えてこない。

という事と共に、その食品が、本当に効き目があったとしても 

何らかの副作用があるかもしれない、だから五年以上の経過を見る必要があるのだ。

儲け主義で、効果がはっきり分からないような物を高額で販売する、

健康を求める気持ちを利用した業者は、五年以内にその名を変えて次々と会社を起こす。

つまり儲かるだけ儲けて、後は野となれ山となれの会社が事実あるのだ。

そういった会社には、国や法律が取り締まっているだろうと思うだろうが、

必ずしも正しいものが残らないのが今の社会のしくみである。

いや、他人を出し抜き、他人の身になって考えることなどしない人間こそが、

権力を持つしくみになっているのが、今のこの社会なのだと麻子は思う。

 麻子は良い品物はある程度のお金がかかることは当然だと思っている。

手間暇がかかり、安全と技術、それに良い材料を使用したらある程度の価格になる。

 しかし、それは妥当な価格なのであって、暴利を貪っていいということではない。

麻子は儲け三分配だと思っている。

作り手が儲け、販売員が儲け、お客さんがもうける。

そのバランスが崩れた時に、商売は回転しなくなるのだと思っている。

 麻子の販売している健康食品は敏子には失礼だが、彼女にとっては高価なものであり、

きっと買わないだろうと予測した。

 その日、敏子は小さな鉢植えの花を持って店に訪れた。

十坪ほどの事務所件ショールームには、店員二人の他にメーカーの人間が来て居た。

麻子は半透明のパーテーションの後で、メーカーの人間と打ち合わせをしていた。

「あら、案外きれいなんじゃないの!」と長い知り合いではあるが、

初めて麻子の店に訪れた敏子の第一声である。

「あら、いらっしゃい。」

メーカーとは大事な打ち合わせをしている途中だったが、気を利かせたメーカーの

「又来ますから」という言葉でそれは打ち切られた。

 大きな声で息子の自慢話をしていた敏子だが、麻子が健康食品を出して見せると途端に

言葉少なになり、

「保険もきかないんでしょう」と明らかに金額に不服がある様子になった。

「本当にきくかどうか分からないんでしょう?」などと失礼な事も言いだした。

そして結局、普段は家族の意見など聞いたこともない敏子が、

「家の者達と相談してみるわ。」と言って何も買わずに帰って行った。

 それらのことを、麻子は別に驚きもしなかった。そうなるだろうと思っていたから…。

それならなぜ彼女が来る前に拒否しなかったと思われるだろうが、敏子は動物的感が

働く。

高いから買わないだろうという麻子の気持ちが分かったら分かったで、他所で何を言って

まわるか分からない人なのだ。

 しかし、これで又、麻子の店が高いとか、応対が悪い、更にはあれでは経営も

うまくいっていないなどといったことを、得意気に話す彼女の顔が目に見える様で、

「結局どうしたってあの人と係わって良い結果は得られないんだわ。」と麻子は

被害妄想に似た諦めの気持ちになった。

そして、花鉢をもらってしまった以上は、なるべく早くお返しをせねばならないと

気が付いた。

今までの経験からいえば、それは早ければ早い程良い。

次の日、知人の所へ用事があって行くと、メロンを栽培して市場へ出していると

いう。

「うちのメロンは美味しいって評判がいいのよ。」とビニールハウスを見せられた麻子

は、自宅用の他にお客様の届ける分に、もう一つプラスして敏子の家へ届ける事にした。

 店へ戻る途中に回り道をして、敏子の家へ寄った。

しかし、チャイムを押しても誰もでてこない。

連絡もせずに来てしまったのだから、留守でも仕方がなかった。

それでも、玄関横の傘立ての陰に

「先日はお店に来て下さって有り難うございました。これはほんのひとつですが、

知り合いの所で作っているメロンです。どうぞご賞味下さい。麻子」とメモ書きを

添えてメロンを置いてきたことで、肩の荷を降ろした気持ちになった。

 店に戻り、事務員に書類の整理を言い渡し、その日は早めに自宅へ帰る事にした。

敏子の家は門からすぐに玄関で、メロンは物陰に隠れるようには置いてきたが、心配だ

った。

ところがスーパーに寄ったところで、滅多に会う事のない敏子とバッタリ出会った。

「よかった、今日、あなたのお宅に寄ってメロンを置いて来たのよ。

玄関の横に見えない様にして来たけど大丈夫かしらね。」

「あら、ありがとう。大丈夫だと思うわ。」

 そういったやり取りがあって別れた。

玄関は門からよく見える所にあり、本当に大丈夫だったろうかと麻子は思った。

しかし、その後、敏子から大丈夫だったとも、美味しかったとも何とも言ってこない。

でも、メロンがなくなっていたり不味かったら、きっと文句の電話があるだろうから、

あったのだろうと麻子は思った。

 そして、忙しくて一緒に続けられなくなったと言って止めた、生協での共同購入の時の

事を思い出した。

 その当時の生協は現在の様に個別に分けて運ばれず、四軒分が一緒に届けられた。

卵も四十ヶがズラリと並べられていて、各自が、自分の用器に入れて持ち帰った。

野菜なども個人名は書かれておらず、各自、自分の頼んだ物を取り分けた。

敏子は、先ずは、一番最初に取りに来た。

そして、卵や野菜など大きくて形の良い物を選び出し持ち帰る。

そして全員が自分の分を持ち帰った後に残った自分の分を

点検しながら持ち帰るのだ。

時々多く入っていたりするが、それは黙って持っていく。

しかし、少なかった時はきっちり生協に文句の電話を入れる。

そしてこの電話代はどうしてくれるのと、その時の当番だった麻子に言ってきた時は、

驚いた。

 敏子の帰った後の卵は、端から一列が減るのではなく、大きい卵をあちこち選ぶので

ポツンポツンと歯抜け状態になっているので、彼女が来た事はすぐに分かった。

冷凍物は、早めにもって行く事もあるが、肉や魚のパックのラップに指を立てて持つので

穴を開ける。発泡スチロールの箱の蓋はきちんと閉まっていない。

自分は他人の物には、穴を開けるが、自分の持ち帰るものに穴が空いている事は許さない

それら諸々の苦情を生協の方に言うので、自分も煩さいおばさんだと思われるのではない

かと勝手に気をまわし、生協の配達人に缶ジュースをあげたりしていた事を思い出した。

 

 メロンを届けた事で、もう敏子とは付き合う事はないだろうと麻子は思った。

何か言って来る事があっても、さり気なく断ればもう彼女と関わりを持つ事はないと

思い、もう絶対に関わりを持たないぞと、堅く心に誓ったのだ。

 それなのに間が悪いというのか馬鹿というのか、秋に入って間もなく、

自宅で来客中に敏子から電話が入ったのだ。

今、来客中だから後で電話をすると言っても聞かず、簡単な話だからと説明が始まった。

敏子の息子が、中学校の先生になったという。

そして、担任をしているクラスの女の子が母子家庭でいじめにあい、

スカートを切られたのだという。

それを知った息子が、卒業生でいらないスカートを持っている人を誰か知らないかと

母親である敏子に聞いてきたのだという。

その話に息子の自慢話が入り、客を待たせながらの話がなかなか終わらない。

 結局話しの要点は、麻子の所は女の子が二人居るから中学のスカートがあるだろう

から、それを貰いたいという事だった。自分の娘のスカートは処分してもうないという。

「あるかどうか見てみなければわからないから、後で電話するわ」と麻子が言うと、

「今、見てきて!」と聡子は言った。

「今、お客様を待たせているのよ。後では駄目なの?」と麻子が言うと、

「見るぐらいすぐでしょ!ちょっと見てきてよ!」と言った。

それは、有無を言わせぬ言い方だった。

 後で考えると、その時にないと言ってしまえば良かったのだと思ったのだったが、

麻子は嘘がつけない性格で、制服も誰か着てくれる人があったらと、保管していた事も

頭の隅にあって、つい、きっぱりと断れないでしまったのだ。

 客に「申し訳ない」と待たせたまま納戸に行って見ると、確か制服を入れた覚えの箱が

あった。

中を覗くと、制服が入っているのが見えた。

電話口に走り、「あったわ」と言うと、

敏子は「じゃ、持って来てよ」と言った。

「今、忙しいのよ」と言うと、「今日中でいいから」と言う。

その頃は、口をきくのも嫌になっていた麻子は、押し切られる形になって

彼女の家まで持って行くことにしてしまった。

 その日の夕方、出掛ける用事のついでだからと、波立つ自分の気持ちを鎮め、

敏子の家へスカートを持って行った。

玄関先で渡したらすぐに帰ろうと、敏子にスカートを手渡した。

すると、麻子から受け取ったスカートを、目の前につるして見た敏子が、

「だめだわ」と言った。

「どうして?」

「その母子家庭の子、デブなのよ。これじゃ入らないわ。

ほらあなたのところの美樹ちゃん、おでぶだったじゃない?

美樹ちゃんのを持ってきてくれれば良かったのよ。」

 それを聞いて、麻子の堪忍袋の緒が切れた。

「もういい加減にしてよ、そんなに息子の役に立ちたかったら

買ってあげたらいいでしょう!」

「あなた、そこまでやってあげてはかえって相手は恐縮するのよ、

誰かのお下がり位で丁度いいのよ。」

「はっきり言わせてもらうわ、もう私、あなたと関わりを持つのは嫌なの。

これっきりにしてくれる?!」

「あなたは、その娘が可哀想だとは思わないの?!あなたには人に対する思いやりとか

親切心ってないの?!」と言っている敏子に背を向け

「失礼するわ!」と言い捨て、麻子は外に出た。

(何を言っているのだ、自分の手は汚さず、損はせず、人のふんどしで相撲をとって、

手柄は独り占めの、敏子の、お決まりのパターンではないか!)と麻子は思った。

そして、手が震える様な腹立ちと共に(あぁ、もうこれで彼女とは本当に縁が切れる、

結局これで良かったんだ)と思っていた。

 

 家に着いて、釣瓶落としですっかり暗くなった台所に立ったが、(彼女の事だ、

きっとスカートは取りに来る)と麻子は思った。

胸騒ぎがして納戸行き、美樹のスカートを引っぱり出した。

標準サイズだった長女の夏子より大分太い胴回りだ。

この事を美樹に言ったら、今は細くなった美樹は何と言って怒るだろう、

きっと、このスカートを捨てるともあげたくないと言うだろうと思いながら、取り敢えず

箱からスカートを出して夕食の支度をしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

(あ、やっぱり来た)と思い、玄関へ行く。

今までに、敏子はチャイムを鳴らして、家の中に入って来ない事がなかった。

時に、いつ入って来たのか気がつかないでいると、後ろに敏子が立っていて

ドキッとした事が、何度あったことだろう。

チャイムを鳴らして玄関を開けないのは、今回が、初めてかもしれない。

 麻子の家の玄関は、擦りガラスの引き戸である。

家の外灯が敏子の姿をガラスに映し出していた。

その敏子のまわりには、怒りのオーラが光っている様に麻子は感じた。

麻子の方から玄関の戸を開けると、仁王立ちの敏子が居た。

そして玄関の敷居を跨ごうとせず、手を出して言った。

「早く出しなさい!」

麻子は用意しておいたスカートを、その手に乗せた。

「もう、あなたとはこれっきりよ!」と敏子が言った。

(望むところだ)と麻子は心の中で思った。

そして、何度切ろうとしても断ち切れなかったものがやっと切れるのだと思い、

心の底からホッとしていた。

敏子の帰った玄関に立つと、微かに冬の匂いのする夜風が、火照った頬に快かった。

 

追加

 以前、よく敏子が家に押し掛けて来ていた頃に、麻子の家では、農家から直接、

モミツキで米を買って食べているのだが、それが美味しいと話した事がある。

すると敏子に、買って来てくれと言われた。

一年契約で買っているから余分に買えるどうか分からないとは言ったのだが、

無理をいって、一袋だけ分けてもらうことが出来た。

そのモミツキの米を敏子の家へ届けた。

すると代金を聞いた敏子が、「スーパーの方が安い!」と言い出した。

そして「籾を摺りに行くのが面倒臭い」と言い出したのだ。

 それを聞いて、麻子は呆れ、「だって、あなたが頼んだのでしょう?」と言うと、

「だって、あなたが美味しいって言うから頼んだんでしょうよ!」とまるで頼まれて

買ったかのような口振りで、喰ってかかってきたことがあったのだ。

(あぁ、本当に切れて良かった)、麻子は思った。

 

それから一月後、麻子が客を連れて近くのレストランに入るのを見たらしい敏子が、

電話をかけてきた。

「あなた、誰かと一緒にレストランに行ったでしょう、景気がいいのね。

誰と行ったの?」と、いろいろ聞いてきたが、

すべて「フフン、フフン」と曖昧な返事をして終わりにした。

すると最後に「あたし、今、一緒にごはんを食べに行く人が居ないの」と敏子は言った。

「あぁ、そう」と麻子は答えたが、心の中で思った。

『さもありなん』

 

おまけ

 麻子はよくそういう目に合う。

(どうして何時もそういう駄々っ子のような筋の通らない人と関わってしまうのだろう)

と思う時、可愛がってくれた大オバアの言葉を思い出す。

「馬鹿と思ったら、かもうべからず。

藪をつついて蛇を出すような真似をするんじゃないよ。

臭いものには蓋をしておくんだ。

金持ち喧嘩せず、金持ちってのは心の金持ちの事だ。

さわらぬ神に祟りなし。

お前はお人好しで面白いもん好きで、何にでも首をつっこみたがるが、

お人好しも度が過ぎればただの馬鹿だ。

過ぎたるは猶及ばざるが如しだ、中道で生きろ。

なんでもほどほどにしろ。ほどほどにしておくんだ。

見切りをつけたら、危ないと思ったら、さっさと逃げるんだぞ」

(あぁ、大オバアは、私の事を見抜いていたんだなぁ)と麻子は、思う。

しかし、(これら総てのことは自らが招いて起きることなのだ)と思うのだ。

 今まで、馬鹿を見るようなことが、沢山あった。

それは、麻子の逃げ足が遅くて、馬鹿を見てしまうんだと大オバアは思っているかもしれ

ないが、実は麻子が逃げたくないのだ。

それが、どうなっているのか、どういうことなのか、知りたくて

皆がそこから逃げても麻子は残って見ていたいのだ。

だから、痛い目を見るのは、本当は覚悟の上なのかもしれない。

 そして、自分にも嫌だと思うその要素があるのだと麻子は思う。

卵は、大きい方がいいし、野菜も形の良い新鮮な物を取りたい。

面倒くさいことからは逃げたい。損したくない。甘い汁を吸いたい。

好きな人にはニコニコして、気に食わない人は無視したい。

でも、それをやったら壊れていく自分を感じる。

(他人は、自分の鏡なのかもしれない)と、麻子は思う。