スポイル

 

子供に向かって「こんにちはー」と言うと、傍に居る大人が、

「ほら、『こんにちは』って言ってるよ」と横から言う。

 そう横から言われる子供の殆どが、こちらを無視する。

 

 先日も、それがあった。

「こんにちは〜」

「ほら『こんにちは』は?」と間髪いれず横から言う母親と祖母。

3,4歳と見られる女児はこちらを完全無視。

「あたしぃ、オモチャで遊べる所があるから、どーぞ遊んで下さいね」と言うと、

「遊べる所があるんだって、良かったね」と祖母。

「あと、塗り絵もあるけど、やる?」と聞くと

「やる?やらない?」と間に入る親と祖母。

あのぉ、こっちがこの子に聞いてんですけど、あなた達には聞いてないんですけど。

そして、ブーと返事をしない女児。

 中学生位のお姉ちゃんとオモチャの所に行ったが、女児のキーキー怒って騒ぐ声がする。

 

あ〜、あの周りの大人達が、あの子を怪獣にしている。と、思う。

女児が「だっこ」と言うと、「だっこはダメなんだよ」と言いながら、大人の勝手な都合で、

女児が嫌がっている時にオモチャでも抱くようにだっこする。

 女児のキーキー声が激しくなり、中学生のお姉ちゃんが女児をだっこして歩いて来た。

 

「あれ、お姉ちゃんに抱っこしたの良かったね」と声を掛けると、フンと横を向く女児。

「オモチャで遊んだ?」と聞くと、更にそっぽを向いた。

「ほら、聞いてるよ」と中学生。

「この子、挨拶しても、何か聞いても返事しないのね。何でだと思う?」

「え」とちょっと緊張の中学生。

「それはね、『ほら聞いてるよ』とか『ほら言ってるよ』って言うからだと思うな。

私はね、周りの人がこの子の前に立ちはだかっている気がする。

この子の気持ちを代弁すると、自分のことは自分で考えてやりたい。ってことかな。

『こんにちは』って誰かに言われたら、その人と彼女の交流なのに

『ほら、こんにちは、は?』って、必ず間に入られることにイライラしてるんじゃないか

と、思うんだな。わかるかなぁ」

「はぁ」

「あのさ、この子、言うこときかない暴れん坊じゃない?」

「はい、大変なんです」

「何でだと思う?」

「みんなで可愛がって甘やかし過ぎ」

「なるほど!ピンポン。だな。

あと、この子は上手く言葉では表現できないけど、抗議してるんだと思うんだな。

何を抗議してるか、っていうと、自分で考えて、自分の力でやりたい。ってこと。

それなのに、何時も横から口出し手出しされてイライラの頂点に居るんじゃないかな」

「あー」

「今のこの子がみんなに教えてる気がする。人は、大変でも自分の力でやってみたい。

んだって。

この子が誰かに『こんにちは』って言われてたら、周りは知らん顔してたらいい。

周りはこの子が自分で考えて行動するのを待つ。手出し口出しをしない。

この子は、この子で戦い、周りはお節介をしたい自分と戦う。そんな時期が来たんじゃ

ないかな」

「そうですね。分かります」

「そうかぁ、良かった。

人って、誰かに言われてやらされたことは、失敗したら人のせい。成功しても本当の

自分の自信にはならない。らしいよ。

でも、自分で考えて自分が決めて、自分でやったことは、失敗しても後悔しないし、成功

したら本当に自分を信じられるようになるんだって。さ」

「わかります」と言う中学生に抱かれた女児が、何だか機嫌が良くなって、私の方へ

手を伸ばし、ツンツクツンしてきた。

ちょっと前まで「うぇ!うぇ!うぇ!」と奇妙な声を出し続けていたのが、

「つんつん」なんて言って、

私も「つんつん」と言いながらくすぐると、声を出して笑った。

 

この中学生もこの女児のようにイッパイ愛情掛けられて、有り難くも重たく育ったん

だろうな。と思う。

離れて妹が生まれ、嬉しくもどうすることが良いことなのか分からずただ可愛がって

ちょっとオモチャにしてしまった。んじゃないかな、と思った。

 でも、良かった。と思う。

この子は、妹と自分の良いキーパーソンになる。と確信した。

 

 スポイルとは、甘やかすという他に傷つける。という意味があるらしい。