建築会社の社長

 建築会社の社長が、ボランテア活動の会に参加している。

その人が、何か気に入らないことがあるということで、この3月で会を脱会すると言い出

した。

 その会の人たちは、何も言わなかったが陰でホッと胸を撫で下ろした。

 

 従業員が5人ほどの有限会社の社長であるその人は、兎に角付き合いづらい。

彼の顔色は、あっという間に変わるのでおちおち気を許して話していられない。

 自分の言うことが総てで、人の話は聞かない、聞く耳を持たない。

思い込みが激しく、誤解をすることも多いが、彼に嫌われると関係のないことまで否定さ

れ因縁を付けられることになる。

 逆に彼に気に入られると、あからさまに取り立てられ、贔屓(ひいき)されることにな

るので、居心地が悪く負担になる。

 

「ああいう人の奥さんってどういう人?」と聞くと

「車で送り迎えをして、車の中で何時間も待たされても口答えをしない人」だという。

 

「でも、良かった。何があったか分からないけど、あの人が会を続けるなら辞めますって

いう人が何人もいたのよ」と知人は言った。

 

最近、食事会があったが、その彼の周りには誰も座りたがらず、最後まで席が空いて

いて、遅れて来た人が座った。

遅れて来た人は、彼の隣の席だけしか空いていないのを見てギョっとしていた。

 彼を知っている人は、彼の腫れ物にでも触るように付き合わなければならない性格に

辟易している。

 一緒に居ても面白い話はなく、その顔色を見て彼のお守りをすることになる。

その日の食事会で彼の隣に座った人は、食べるようでも飲むようでもなかったという。

 

 疑心暗鬼で疑り深く、人を信用しない。

何でも自分が中心で、自分の思い通りでないと我慢出来ず怒り出す。

自分の都合や面子が一番大事で、自分のやっていることが認められ、更に自分の手柄で

ないと面白くないようで、素直に誉めるということがない。

 誰がやって成功しても、人の為になれば、役に立てばいいのではないかと思うのだが、

彼は自分以外の人が認められ誉められることに、我慢がならないようだ。

何かにつけて、あら捜しをし、欠点を見つけ文句を付ける。

自分がそれをされたら、気が狂ったように怒り狂うのに…。

 

「でも、あの人が脱会するということで、辞められては困る人が踏み止まってくれたから

良かったわ」と知人は言った。

 ところが、後日「やっぱり辞めないで続ける」と彼が言い出したという。

「あー、困った!あの人が辞めないと、大事な人に辞められちゃうかもしれない」と知人

は心配そうだ。

 

 可哀想な人だなぁと、彼を思う。

自分が中心になりたい、人に認められたいという思いが、逆に人に嫌われ、認められず、

人が離れていくことになっている。

 彼と一緒に居ると面白くないと、みんなが言う。

気難しくて、情緒が不安定で、公平に物事を見ようとしない。

 

 お釈迦様が言っていたっけ。

「そこに木陰があって、花が咲き、歌声が流れていたら、自然と人は集まってくる」って。

人の居心地を良くすることが、自分の居場所を作ることである。

 自我を通して、我欲のままに生きることは、一番求めている筈のことから、どんどん離

れていくことになる。

 彼は、自分にとって一番大切なことは、大事なものは何なのか、自分はどう生きるべき

なのかを、自分の心に聞く時がきているのではないかと思う。

 自分が行くと人がサッと離れる。

何か言うと反論する人もいないが、相槌も打たれない。

何だか淋しくて、不安なような、自信が持てないっていうのは、大事な“お知らせ”なん

じゃないかと、私は思う。