定休日

 

 電話が鳴った。

「はい、ティンカーベルです」

「若しかして、今日って、定休日?」

唐突にその人は言った。

「はい、そうです」

「やっぱりね。そんな気がしたんだ。あたし、カンがいいの。   1

で、今から開けてくれない?」

「すみません、今日は定休日なもので」

「どうして、ちょっと位開けてくれてもいいじゃない?」     2

「ちょっと出かける用事があって」

「本当?」                          3

「ええ、この所ずっと休みがなくて野暮用が溜まっていて」

「あたしだって、忙しくて休みがなくて、今日やっと出かけてきたのよ!」4

「そうですか、すみません」

「ねぇー、どうしてもダメぇ、遠くからワザワザ来てあげたのよぉ」   5

「ええ、すみません」

「もう、そこには行けないかもしれないわね。もう行くのやめようかな。

ねー、開けてよ」                 6

「でも、私、出掛けちゃいますから、すみません」

「ダメなのね」

「はい」

ガチャ。電話は、無言で切れた。        7

 

1、計画性がなく、思いつきで行動する人に、『自分はカンがいい』という人が、多い。

2、ルールを守らない。諦めが悪い。

3、疑り深い。

4、関係のない、土俵の違う所で張り合う。

5、甘え、恩を着せて、何とかしてもらおうとする。

6、脅しをかける。ごり押しする。

7、役に立たないとなったらケンモホロロ。

追加、名を名乗らず、最初も、最後も、挨拶なし。

 

 今日、掛かってきた電話。この話に作りなし。

面白いなぁ。と思った。

 その時、先日出会った人を思い出した。

 

 正直、その人とお近づきにはなりたくないと思っていたが、ばったり出会ってしまった。

その人は、私に向かって見え透いたお世辞を言いながら、失礼なことをポロポロ言う。

 

彼女の話は、夫の態度に我慢がならず別れたいが、あんな亭主でも金を稼いでくるから

別れられない。

夫が、料理、掃除洗濯にケチをつけ文句ばかり言う。

息子は可愛いが、嫁が憎らしい。

家事をしたくない。出かけるのが大好きで家に居たくない。だから、片付かない。

友達とは楽しくやれるのに、夫とは出来ない。その理由はすべて夫のせい。

家族に相手にされず、どうしていいか分からず死にたくなってしまい、手首を切る真似

をした。

でも、パニック障害のような症状になった時、救急車を呼んだ。という。

それを、して“やってる”“のに”とやって“くれない”そして、“やられた”“言われた”

という言葉で長々と話した。

 

「あなたは、人の身になって考えている?」と聞いてみた。

「はぁ?」とその人は言った。

「旦那さんが、食事に文句をつけるっていうけど、この人を喜ばせたい。って思って

作ってる?」

「はぁ?」

「自分の好きな人と嫌いな人で態度を変えていない?」

「はぁ?」

「自分に都合のいい時だけ上機嫌で、面白くないことがあると仏頂面にならない?」

「…」

 

 生きているのが辛いというその人は、何かを考えているみたいだった。

辛いということは、良いことだと思う。

謙虚になって、自分を振り返るから。

辛いのに、謙虚にならず、自分を振り返らない人は勿体ない。と思う。

 次への階段を上るチャンスを与えられているんだから。

でも、上るのは自分の力(努力)

 

 あの電話の人も、何時か自分を振り返る機会が与えられるんだろうか。

と、思った。