笑

 

<じいじ>

 店の片付けをしていたら、次々と商品を手に持っている子(3、4歳位の男の子)が

居たもんで、側に行って、

「おーい」と小さな声で声を掛けた。

「ん?」

「あのねぇ、お店のモノは持っちゃいけないんだよ。

分かる?

触らないで、手に持たないで見られるかなぁ」

ん?という表情をしたその子、

「この人は、ここの何?」と私の顔を指差して言った。

「この人かぁ、この人はね、

ここのバアバだよ」

「えっ、バアバなの?」

「そうだよ、バアバだよ」

「でも、バアバの声じゃない」

「えー、バアバだろうよ」

 私はとっさに、その子が私が自分のバアバではないと言っているんだと思った。

 そしたら、

「違う、ジイジの声だ」と言った。

「えー、声はジイジみたいかもしれないけど、この人は(と自分を指差し)

バアバなんだよ。女の人なの」と言うと

「えー!」とさっきよりビックリした声を出した。

女の人という言葉にビックリした様子。

 

 こういう話をすると、失礼な!と言う方がおられる。

そりゃ、悪意でもってババアとかジジイ、男か女か分からない。などと言うのは失礼だ

ろうが、子供の素直な目にそう映っただけのことで、私なんぞは面白くて仕方がない。

 

 それから、その子にオモチャを貸してやって、触っても良い物と触ってはいけない物

を教えた。

オモチャの使い方を教えるとエラク感心して私の側を離れなくなった。

そして、離れた場所で仕事をしていると

「バアバァ、これどうやったらいいの?」とか、「バアバ、これ見て!」とバアバの連発。

なもんで、店のお客さんに「お孫さんですか?」と聞かれる始末。

 

30分以上も付き合ったかな、その帰り際、

「今度また遊ぼうね」と言われ、「あいよ」と、バアバは答えたのでした。

 

<パチーん>

 ワシは子供が好きだ。

これは犬猫動物が好きなのと一緒で理屈じゃないから、分かる人には分かって分からない

人には分からないんだろうと思う。

「子供が好きだっていうと表向きが良いから言ってるんでしょ」と、昔言われたことが

あって言わないようにしていた頃があったが、好きなモノを「好きだー!」と言いたく

なる気持ちって、何なんでしょうね。

 

 そんなワシに自分の子供が出来た時、あんまり入れこんじゃうと危険な気がして距離を

置くようにしてきた。

 2010年に孫が生まれて、やっぱり危険を感じてこれでも距離を置いてるつもりだ。

(いや、置いてない)という声が聞こえるが、そのつもりだ。っちゅっとろーが!

 

 孫にベタベタのワシは(ベタベタだって認めちゃった)何処で叱ったらいいかのその

タイミングが掴めない。

この間、何だかで、

「そんなことしてると、バアバ、怒るよぉ」と言った。

「いいよ」と孫

「いいのか?」

「うん、いいよ」

そこで、

「うー、たらぁ!」とドスのきいた声を出した。

 孫は、ワシが周りの人間を一喝するのを生まれた時から、イヤ、産まれる前から聞いて

きている。

 でも、自分に向けられたのは初めてだったのかもしれない。

一瞬、固まった。

 そして、次の瞬間その小さな手がしなり、ワシの頬っぺたにパチーんと入った。

次の瞬間、ワシも固まった。

二人で固まって見つめ合ったが、ワシが「へへ」と笑うと、孫も

「へへ」と照れたように笑った。

「みっちゃん、人を叩いてはダメなんだよ」

「うん、ゴメンね、バアバ痛かった?」

「そんなでもなかった」

「良かった、でも、バアバ、泣かないでえらかったね」

とお誉めの言葉をいただき、バアバは何を注意しようとしていたのか忘れてしまってい

たのでした。

 

<焼き討ち>

 2013年の暮れ、自分の仕事が大詰めを迎えそれをまとめながら、大掃除、親の住

民票の移動。

父が転んで病院に連れて行くことになり、車の運転を終わりにすることを決意した父の

代わりに母の週2回の注射、これからはずっと私の家族が連れて行くことになる。

その母は持病のC型肝炎から逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の痛みで救急車で

運ばれ、入院した。父の食事、父母の洗濯をして届ける。その間に介護認定の査定もあり。

自分の洗濯物を畳む時間もなく、暮れにやっと畳んだが、下着が20日分あった。

ということは、干した所から着たりしているので1カ月以上畳んでいなかったという

ことだ。

 と、その話をしたら

「でも、お酒飲む閑はあるんでしょ、働く人は寝る間も惜しんで働いているのよ」

と言う人が居て、なるほどなぁ(色んな意味で)と感心した。

 

 兎に角、30日から正月休みに入ることを頼みの綱に何とか頑張っていたその日

犬のコタロー(トイプー)の毛が伸びて可愛い目が見えなくなっていることに気付いた。

 どれ、ちょっくら頭の毛だけでも切ってやろうか。と、犬のハサミを取り出したが、

犬部屋にバリカン発見。

 こりゃいいわい。とコタローの頭に当てる。

ズズズー。とヒゲそりみたいな音でテッペンの毛があっという間に切れた。

 でも、ザンネン。それっきりコタローはバリカンを許してくれず、怒ってもう私の傍に

来なくなってしまった。

 手が届かない椅子の下からワンワン吠えて怒っているコタローの頭は、テッペンはハゲ

状態なのに、目の上の毛は長いまま。切りたい所は切れず、切らなくてもいい所が河童。

 結局、足の爪も伸びてきていることだし犬のシャンプー屋さんに頼むことにして、

ふっと気が付いたのが、自分も襟足の毛が伸びてうっとうしくなっていること。

 そうだ、このバリカンでやってみよう。

と、思ったら即やる人、自分。

 首に冠婚葬祭で貰った風呂敷を巻いて、洗面所の鏡に向かって左側の耳の上から後ろに

向かってバリカンを滑らせた。

 ブェリー、グッ。

よし、この調子で後ろも。

 と思ったのだが、生憎後ろには目が届かず手探りでやったところ、トラガリとはこう

いう状態のことです。の見本みたいな感じ。

 考えてみたらバリカンにカバーをしていないのであれでやるのは坊主だね。

でも、怪我の功名、トラガリの所を除いては自分らしいフォルムが出来たと思う。

 よし、襟足だけ馴染みの美容師さんにやってもらえば自分的には百点満点。

とっ、所が、考えてみたら月曜日で定休日じゃないか。

 そうだ、娘に手直ししてもらうべ。

と、店に行ったら、暮れの忙しさにテンパッテル娘に

「そんなのは、仕事が終わってから!」と、一蹴。

 そこに居たみんなに大笑いされて

「昔、子供がお人形さんの頭を切ってそういう風にしてたけど、大人になって

それも自分の頭でそれやる人見たことないわ」から

「焼き討ちにあったみたい」と言うヤツが居て、

「あんまり笑わせないでよ、おしっこちびっちゃいそう」腹を抱えて笑い

「それって、罰ゲームですよね」と言われる始末。

 お仕置きみたいに、夕方までその頭だったんだけど、あ〜あ、写真撮っておけば

よかった。

 

 自分でも合わせ鏡で見てみたら、なるほど、地肌が見えてる所に長い毛がプラプラ

残っていて、焼き討ちにあったような頭とは、座布団一枚!

 

<後ろに>

 我が家は夫と2人暮らしなんだけど12畳のサンルームも入れて8部屋ある。

その内の5部屋は犬の部屋と化している。

 犬の部屋でないのは、夫の部屋と私の衣裳部屋と私の寝室の3部屋だったのだが、

2012年の5月にマイロ(クリームのダックス)の鼻汁で呼吸困難事件が起きてからは

私のベッドで一緒に寝るようになって、ハッキリ言ってそこも犬の部屋と化した。

で、彼らは6つの部屋を所有しているということになった。

 

 犬たち(二匹)はそこを自由に行き来しているが、何をやっているのか日中にコッソリ

帰宅してみるとすると日の当たるソファーで昼寝していたり、マッサージ器の毛布に包ま

っていたり、二匹で寄りそっていることがあって、何だかホッとする。

 陽の出ていない寒いような日はホットカーペットを入れて行くのだが、布団が干されて

いないのをいいことにカーペットに居ないでヌクヌクとベッドに潜り込んでいたりする。

 

 ワシは長女を産んだ年だから1978年にミルミルという乳酸菌飲料を飲むようになり

毎晩欠かさず、と言っていい位飲み続けてきている。

 それを犬どもは欲しがる。

本当はベッドに入ってユックリ飲みたいのだが、「クレ! クレ!」と、ヨダレを飛ばし

ながら騒ぐやつらに根負けして用意してある小皿(用意してあるんじゃ)にちょっぴり

入れてやることになる。

 

 この間、帰宅したら珍しくヤツらの出迎えがなかった。

よーし、よしよし。少し遅くなったから待ちくたびれて先に寝てるんだな。

 だったら、ミルミルはコッソリ一人で全部飲んだろ。と思い、忍び足で冷蔵庫に行き

音の出ないようにドアを開け、ミルミルを取り出した。

 さて、何処で飲もうか、ヤツらはきっとベッドの中だから何時もいない犬部屋に行って

飲んじゃおう。と忍び足でベッドの部屋とは反対の部屋へ行った。

 静かな夜。何の音もしない。

電気の点いていない犬の部屋に入って、ふと振り返ったら、

 そっそっ、そこには。

ピッタリとワシの後を付いて来ていた、キラキラ目の二匹。

 えー、何時からワシのこと見てたんだよー、あー?

オメーらよう、二匹そろってワシのこと笑ってたんじゃねえのか?

 って、犬が顔見合わせてクスッって笑ったら怖いよぉ。

 

 で、結局、おコボレに預かった二匹なのでありました。

 

   2014年も、どーぞ、ヨロシク。ワンワン。