夕食パーティー

 女の仕事には切り(終わり)限りがない。

専業主婦であっても思うように家事が出来ないと言う人が多い。

まあ、完璧を求めて、より良い仕事をしようと思う人ほど何事においても思うように

出来ていないと思う傾向があるようだが。

 私は完璧主義だといわれる。仕事は絶対に手を抜きたくない。

しかし、家事もある程度は満足のいくようにこなしたいと思ってきた。

思ってきたということは、思うばかりで出来なかったということだ。

最近になって、急激に体力、気力、共に衰え無理がきかなくなって少々諦めが付いた感

のある私だが、若かりし頃の私は、時間にも体力にも限界があることから目を背けていた。

 

今から10年ほど前のことだ。

子ども達は、中学生と高校生で反抗期の真只中だった。

あのお母さん大好きだった子どもは、何処に行ってしまったのでしょうか!という状態

だった。

 子どもを非行に走らせないためには、細かいことには目を瞑ってうるさく言わず、好物

を作って、陽に干したフカフカの布団を用意しておけばいいと聞いたことがある。

あと、私なりのジンクスがあって、水場を清潔にするというのがある。

特に我が家の風呂は真北にある。

真北に風呂がある家の家族は、男が他所に女を持つなど不純異性交遊に走る傾向があると

聞いた。

ナルホド、夫にはそういう心配をしたことがないが、子ども達には危険を感じていた。

帰宅が遅かったり、何やら不信な電話が掛かってきて心配になったり、不安を感じた時は、

それを拭い去るように風呂を磨いた。

 もともと、女の幸せは水場の清潔からと教えられ、洗面所、トイレの手洗いにも水垢を

ためないようにと気をつけてきた。

夫の心配で風呂を磨いたことはないが、子ども達が年頃になってからの風呂磨きは、

以前の何倍にもなった。

 

 その日、仕事が一段落して滅多に出来ない自由な時間が出来た。

何をしようかな、と思ったときに「そうだ!夕食をパーティーにしよう!」と思い立った。

いつも手抜きの夕食を、豪華パーティーにしようというわけだ。

 そうと決まったら仕事は早い。

散らかっている二階を掃除し、何時か使おうと思っていたパーティー用の食器を取り出し

ついでに洗濯機も回し始めた。

 何故、ここで洗濯まで始めてしまうのか、ここがB型の注意力散漫というか集中力欠如

といわれるB型の特徴である。

 大変な時、忙しい時に限って仕事を増やし、わざわざ苦労を増やすのが、趣味なのだ。

料理も普段にはあり得ない位の品数を作り、これは暖かく、これは冷たく、これは味を

染み込ませ、これは食べる直前にドレッシングを掛けて…。などとやっているうちに

どうも疲れてしまったらしい。

 仕事続きの毎日で、一段落したのなら休めばいいのだ。

身体を休ませたらいいのに私はそれが出来ない。いや、出来なかった。(性格と状況で)

仕事の疲れは草取りや書き物、読書、家事で気分転換を図る。

だから、身体も頭も同時に休ませるということは殆どなかった。

大体の準備が出来た頃に、家族が帰宅してきた。

せっかくパーティーの準備をしたのだ。家族みんなで楽しく食べたい。

 先ずは家族が、帰ってきたことに安心した。

ところが、私が理想として描いていたことと、様子が違ってきた。

いつも優雅な夕食を食べなれていない家族は、準備していたテーブルクロスを掛けず、

用意していた皿を使わず、料理の並べ方も大皿は中央、小皿はその周りに円を描くように

並べたいのに適当にどんどん置いていく。

グラスも私が考えていたものでないものが、ちぐはぐに並べられる。

取り皿と箸が、座る場所にない。

「あー、これはこう並べて!これじゃない皿が出してあるでしょう!

これは、もう一度暖めてから出して!」などと目を三角にして怒鳴っていたら

「もー、いいや。悪いけどお腹すいていないから」と長女が自分の部屋に入った。

「あたしも」と次女も自分の部屋に行った。

 

そのままテーブルに並んだ大量の料理。

子ども達の部屋からは、CDの音が聞こえてきた。

 

 私はこういうことが、よくある。

皆に喜んでもらいたくて、喜ばせたくて、一所懸命何かをして、一所懸命になり過ぎて

孤軍奮闘して、疲れてしまって、不機嫌になって、結局、誰も嬉しくない。本末転倒。

家族で楽しく嬉しい気持ちで、喜んで食事がしたかったのに、総てご破算。

 

 夫と二人の食事。

「オクサン、なかなかやりますね。頑張りましたね」とからかうように夫が言った。

何だか悔しくて悲しくて酒を飲んでいたら、子ども達が部屋から出てきた。

「へへへ、やっぱりお腹すいちゃった。一緒に食べてもいい?」

「別にいいけど…」

              別にいいけど直さなくちゃ、この性格。