優歌団(ゆうかだん)

 

 スナックを経営している友達のエイミさんから、優歌団のコンサートのチケットがある

と連絡が入った。

エイミさんは、裏街道にコネがあるっていうか繋がりがある。

だから、芸能関係のコンサートとかライブの情報が、いち早く入る。

 それは師走、仕事の忙しい時期だった。

優歌団という名前を知らない人が多いが、コマーシャルなんぞでは大分活躍していて、

その歌声を聞けば、「なーんだ、知ってる声じゃないか」と思う人は多いと思う。

 

 私の町にあるのはT文化センターだが、エイミさんの店があるのも、住んでいるのも

K市だ。

「文化センターで優歌団のコンサートがあるのよ」とエイミさんが言った時点で、

私はK文化センターでそのコンサートがあるのだ、と思った。

 チケットを届けに来たエイミさんが、説明しようとするのを遮って、

「分かった、アリガトウ、じゃあね」と、私は仕事に戻った。

 

 コンサート当日、夕方から冷え込んで暗くなった7時前に私は家を出た。

会場は7時、開演は7時半。

家から30分も掛からない隣町の文化センター、遅刻常習犯の私だが、今日は楽勝だ。

退勤ラッシュにも合わず、7時過ぎには、K文化センターの駐車場に車は入っていった。

 しかし、駐車場はガラガラ、辺りは真っ暗。

どうしたことかと、植え込みの横に車を止め、室内灯を点けてチケットを見る。

 ギョヘー!文化センターは文化センターでも、その隣町のM文化センターじゃないか!

今から飛ばしていっても40分は掛かる。

 でも、行くしかない!

そこから国道に向かった。国道は混んでいて渋滞していた。

国道までもなかなか出られず、信号は何回も変わった。

ようやく国道を横切って脇道を使ったが、M文化センターに着いたのは、8時過ぎだった。

 

会場に入っていくと、もう既に盛り上がって熱くなっていた。

会場の一番前の中央の席が、ポツンと空いている。私の席だ。

小さくなって席に着くと、優歌団のボウズ頭の彼と目が合った。

木村という名のボーカルの彼はブオトコだが、何だか魅力がある。

すぐにノリノリになるのが私の特技。

ヤッパ、いいねぇ優歌団。

リズムがいい!ちょっと壊れた先にある、しゃがれた声がチョーいい振動を出している。

オリジナル曲はないが、色んな歌のカバーが、歌を生き返らせ彼らのモノになっている。

演歌からポップス、ブルース、ジャズも何でもかんでも、優歌団のものになってやがる。

体中がリズムを刻み、音なのか、声なのか、振動に酔いしれていく。

キャー、セクシィ!

9時には終わる筈だったコンサートが、アンコールでタップリ楽しめた。

 

 コンサートが終わってから、打ち上げがあるから、一緒に行こうよとエイミさんに

誘われた。

 行きたいと思ったが、細かい雪が空から降ってきていた。

優歌団には会いたかったが、帰りの運転が心配だった。

 断って帰路に着いた。

 

その3年後、優歌団が解散したと聞いた。

あー、もう一度コンサートに行きたかったなぁ。

                   優歌団、いいぞー。

 

 って、私はしょっちゅうそういうドジをする。

子供の授業参観で時間を間違えて、終わってから行ったり、違う日に行ってしまったり

した。

 それに、時間に合わせて行動するってのが、チョー苦手。

一時間教室の後ろに立っているのが嫌で、わざと遅れて行ったことがあった。

こっそりと教室に入ると、知り合いのお母さんに言われた。

「良かった。来たのね。美樹ちゃん、ずっとお母さんのこと待ってたのよ」

見ると、美樹がまるっきり後ろ向きで鼻くそをほじっていた。

 そして、私の顔を見ると、にっこりして手を振って、先生の居る前を向いた。

(ゴメン!)と、私は心で言った。