珠理11(占い)

 

 店のカウンターで何やら話してるお客が居た。

その二人が珠理の所に来た。

 ハッキリした感じの女性が、もう一人の大人しいというかグチャグチャした感じの女性

に「ほら、自分で聞いてみなよ」と言った。

「あのぉー、ここの占いって当たりますか?」と大人しそうな方が言った。

 

 最近、珠理の店の駐車場に占いをする人が来ている。

その占いについて店のオーナーである珠理に聞いてきたのだった。

 それが、その人にとって当たりだったのか、間違いだったのか。さぁ、どっちだ。

 

「えっ、“当たる”って、どういうこと?

あなたは、占いが当たるかどうかのゲームをしたいの?

アタシは占いってのは、それが当たっていようが、違っていようが、そこから自分が

どう考えて、どう行動するかのキッカケにすぎないと思うんだけど」

「だって、今までロクな占いにあたってこなかったんですよ」

「自分がロクでもないからロクな占いにならなかったんじゃないの?(うわ、ひでー)

自分がしっかりしなかったら、しっかりした答えは返ってこないよ」

「だって、当たらなかったんですよ」

「それは、その時のあなたにとって必要ないから現れなかったんじゃないの?」

「そうなんですか?」

「私は分からないよ。

でも、答えって自分の中にあるんじゃないの?

大体が、何が聞きたいの?」

「今の仕事続けていいかどうか」

「えー、続けていいかどうか。って、自分のやってる仕事でしょうが。続けたかったら

続ければいいし、続けたくなかったら辞めたらいいんじゃない?

大体が、その仕事好きなの?やりたいの?やりたくないの?」

「今、次の仕事探してるんです」(やりたいかのか、と聞いたんだけど)

「ふーん、ハッキリ言ってあなたはその仕事から嫌われてるね。

だって、あなたが、仕事を愛してないもの。次の仕事探しながらじゃ今の仕事に失礼。

それにアタシが上司だったらあなたみたいな人は使いたくない。

目の前のことに心を込めることが出来ない人は、仕事は出来ないな。

先ずは目の前にあることを好きになる。心を込めて行う努力をする。

それを、出来るか出来ないかじゃなくて、しようとしないってのは予選失格かな。

先ずは、仕事に対して自分が心を込めているかどうかを考えてみたら?」と珠理が話し

ている横でハッキリした感じの人が

「そーだ、そーだ、その通―り!」と合いの手を入れていた。

 

「それと、今付き合ってる人と上手くいきますか?」と聞いてきた。

「アタシに聞いてもそりゃ分からんよね。でもね、“上手くいく”ってどういうことかな?

ね。そういうこと考えたことある?」

「結婚出来ますか?」

「だからさ、結婚することだけが上手くいくってことなのかな?

このアタシに聞いたことは、運が良かったのか悪かったのか、結婚するのは良いことか

悪いことか。

ドクターコパがこんなこと言ってるんだ。

娘に『良縁が結ばれる風水ってないの?』って聞かれて

『ばかだなお前、良縁っていう縁はないんだよ。縁があって結ばれて、それから自分の力

で、努力で、良い縁に育てていくんだよ』って。

上手くいくかどうかは、形じゃなくてどんなことが現れてもそれを受けとめてからの

自分の生き方そのものの事なんじゃないかな」

 

 珠理は、「そこまで言わなくてもいいんじゃないか」とか「何で、そんなに一所懸命喋る

んだ」と言われることがある。

「また喋ったぜ」と言うと「また、喋っちゃったの」と言う人が居るが、違う。

喋っちゃった。んじゃなくて喋った。のだ。

ついうっかり口が滑ったんじゃなくて、意志を持って話した。のだ。

「あの人に幾ら話しても通じないよ」と言われることもあるが、通じないと言って話さ

なかったら、絶対に通じない。通じても通じなくても良いのだ。(通じたらウレシイけど)

珠理は、ただ思うことを話したい。

 

 ハッキリした連れが

「あんた、よかったんじゃない。これ以上の占いはないよ。

もうみてもらわなくてもいいんじゃない?」と言った。

「いやいや、あの占いさんはまた別物だよ。

占いしてる人の中には自分の劣等感を優越感に変える道具にしてんじゃねえの、とか、

自分の力で生きる手助けをする筈の占いが、脅して逆に自分では動けないようにしてん

じゃねえの。って思うこともあるけど、あの人はイイヨォー。

アッタカイ、リスペクトがある。

あの占いさん、愛風さんって言うんだけど占星術とかタロット、それに浄化だっけかな

をやってて、アタシ1回占星術でみてもらったんだ。

自分が生まれた日時と場所で、その時星がどんな場所に位置している時に生まれたかで

みるんだけど、ビックリする程色んなことが当たってて、当たるとか当たらないは関係

ない。って言ってきたのに驚いちゃって『何でこんなに当たるんですか?』って聞いたら

『だって、あなたがその日を選んで生まれてきたんでしょ。

その日に生まれたからそうなったんじゃなくて、そうなる日を選んで生まれてきたんで

すよ。だからそうなるのが当然なんです。答えが先にあった訳ですから』って」

「その人、女なんですか?」

「いや、男の人。

前に買った物に文句を言ってきた人が居たんだけど、まぁ、ウチらにとっては時々ある

クレーマーって感じかな、で『こういう人って何なんでしょうかね?』って聞いたら

『彼女は今そのステージで生きていて、まだそこに居たいんですね』って言ったの。

それが何だか納得してね。

アタシが台風だったら愛風さんは春風みたいな感じの人だね。

何だか彼と話すと自分がこのままでいいんだ。ってホッとして安心して前に進める感じ

になるんだ。安心すると、進めるんだよね」

「でも、台風もいいわよ。私は好き」とハッキリさん。

「そりゃ、どーも」と珠理。

 

自分が王様のつもりで生きている人(占い当たりますか?の彼女)

その人は、何かが自分の役に立つかどうか、自分を満足させてくれるかどうか。と考え

自分が何かの役に立つかどうかは考えていない。(いや、考えってかも知んねえけど)

何事も一心不乱に、損得なしに心を込めて頑張った先に満足がある。ことを“まだ”知

らない。(いやー、知ってっかもしんねえけど)

 世間一般に他所から見た満足でなく、心を満たす本当の満足を。

 

 その後、占い当たりますか?の彼女が

「最初、何でこんなこと言われなきゃならないの、もう二度とこんな店来るか!って

思ったのよ」と話していたと聞いた。

 最初?  ってことは、その後、どう思ったんだろう。 ね。