バガ!

 

「バガが!テレビでしゃべんじゃねえ!」

夕飯で酒を飲み、ご機嫌だった麻子がテレビに向かって怒鳴った。

「俺、やだなぁ、そういう言い方」と、夫雅弘.

「何が!バガだから、バガだつってんだよ」

 麻子が突然怒りだしたのは、知的俳優と言われる知識のある薀蓄(うんちく)を語る

俳優が、「原発も3分の一使ったらいい、僕はそう思います」と公共の電波を使って、

つまり、テレビで話すのを観て切れたのだ。

 

「やめなよ、そういう言い方」と雅弘の言い方は静かだがちょっとムカついているのを

麻子は感じた。

「バガにバガつって、何が悪いんだよ」

「あんたらしくないよ」

「えー、あたしらしいべよ。激しやすくてけんかっ早い」

「そうだけど、あんた、いつも言ってんじゃないの、何事にも裏と表があって、どっちが

良いか悪いかは人間万事塞翁が馬で分からない。って」

「そーだよ、でも、分からないんだったらこんな誰もが観るようなテレビで喋んねえで

くれ!つうんだよ」

「だけど、社会っていうのは、分かってる人ばっかりで成り立ってるわけじゃないでしょ」

「んなの、当たり前だ」

「じゃ、あんたは、分からない人は話す権利はない。って言うの?」

「そんなこと言ってんじゃない。あの男は自分がどれだけ影響力を持ってるか分かって

いて、あれを言うってことが罪だって言ってるんだ」

「彼は、それが正しいと思ってるから言ってるんじゃないの?」

「それが、正しいと思ってるならバガ、分からないならバガ、ちゃんと事実を知ろうと

する努力をせず分からないならナマケモノ、分かってて話してるなら確信犯!」

「そうかな、立場上やらなくちゃならないから話してるだけかもよ」

「何で!?」

「有名人で色んなトコにシガラミがあるかもしれないでしょうよ」

「そんな奴は、テレビで喋る権利なし!」

「テレビなんて、そんなもんだって」

「アタシの事失礼だってあんた言うけど、あんたの方がよっぽど失礼だかんね」

「そ−だよ、俺、テレビに期待もしてないし、信用してないもん」

「でもねぇ、世の中には、テレビや新聞が言う事は正しくて間違ったことは言わない

って思い込んでる人がイッパイ居るとあたしは思う」

「だろうね」

「だーかーらー、あの男は自分の影響力を知れ!そして、喋るならもっと深いトコで

喋ってみろ!坂本龍一ちゃんみたいに。って思うんだよ」

「そんな、あんたの思い通りにはいかないよ。

あと、あんたがいつも言ってることと矛盾してるよ」

「何が!?」

「あんた、そこに何かあったらどっちにも身を置かず考えたい。って言ってるじゃないか

イジメがあったら、いじめを受けた人だけじゃなくてイジメをした人の事も考える必要が

ある。って、そのどっちも考えなければ問題の解決にはならない。って」

「ふーん」

「あと、あの俳優の発言に影響力があると言うなら、あんたの発言にも影響力があるっ

てこと自覚している必要があるよ」

「そんなには、ない」

「それは、あんたの認識不足だね。まぁ、あんたに限らず誰も自分が周りに対して影響力

を持ってるってことを知ったら色々変わって来るんじゃないかと思うな」

 

 ちぇ、うっせーよ。と、麻子は、コップに酒を継ぎ足した。

雅弘は、血圧が上がっていて酒を飲まずに麻子に付き合っていた。

 

今回、血圧が220で頭痛があり麻子が付き合って病院に行ったのだが、病院で待って

いる間に看護師に計ってもらったら260あり、CТや血液検査で腎臓肝臓を調べたが

特別異常なしで食事療法や安静で経過観察となった。

以前にも血圧が上がって病院を受診していて、それが3年前の同じ日11月26日

だった。

 雅弘は偶然の一致が多い。

突然、肩の激痛に襲われ救急車を呼ぶかという事態になって夜中に麻子が病院に連れて

行ったことがあった。

それが、きっちり3年毎に3回、同じ日だった。

レントゲンには何も映らず、何となく痛みは治った。

 この他にもあるんだけど、何なんだろうね。

 

 でーもさぁ、麻子と雅弘、どっちの血圧が高くなるかっていったら、麻子だと思わない?

ところが、あさこの血圧110/80、

「ズルイよなぁ」と、雅弘は言う。

 

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