秘密結社(ボールペン)

 

 ここに、ひそかに“秘密の結社”と名付けられたモノがある。

そこでは、世の中で起きた様々な出来事を話すことになるが、暗黙の裡(うち)の了解

決まりごとがある。

 それは、何かというと、実名を出さないということと同時に、それが何処の誰だとか

それが事実か否かという詮索をしないこと。

 と、同時に、絶対に人を陵辱しない、尊厳を傷つけることはしない。という決まりだ。

 

“ボールペン”

 今回の話は、ある公共団体に勤めている30代の女性、既婚、子供有り。

「最近の私、自分が悪いんですかねぇ。何だか腹が立つことが多くて」

「何にそんなに腹が立つの?」

「私には関係ないことだから知らん顔してようと思うんですけど、

同じ職場のオバチャンが、ボールペンだとかハサミだとか、コピー用紙まで何でも

持って帰るんですよ」

「えー、そんな人居るの?」

「居るんですよ」

「でも、オバチャンっていう言い方はいけないと思うな」

「あっ、すみません。先輩でした。でも、正直その人を先輩って呼びたくないんですよ」

「気持ちは分かる。でも、そういう人だからって侮辱した言い方をすると同じ穴の狢に

なちゃうぞ」

「あー、キャンセル、キャンセル」

ここでは、感情に任せて人を侮辱したりバカにしたり、失礼なことを言ってしまった時は

「キヤンセル、キャンセル」と手で追い払う仕草をすることになっている。

「でも、どう思いますぅ、この間なんかトイレットペーパーを持って帰ったんですよ」

「コジキ、トイレットペーパーくらい自分で買え!あっ、キャンセル、キャンセル」

「ねっ、そう思うでしょ」

「それで、その人、仕事はちゃんとするの?」

「そういう人が、ちゃんとすると思いますぅ?

上司が来ると、人の仕事まで取り返してやるんだけど、あたし達の前だともう手抜きで

ビックリしちゃうくらいなんです。あの変わり身の早さには脱帽です」

「ふーん、どんな育ち方と生き方をしてきて、今彼女はそういうところにいるんだろうね」

「今は、子供も居て家庭は普通に上手くいってるみたいですよ」

「良かったね。でも、そこの子供や家族は、その彼女をどう見てるんだろうね」

「そうですよね。

職場の物をピッキングする母親を尊敬してたら、同じ万引き人間になちゃうし、

嫌いだったら、それはそれで不幸ですよね」

「母親が、コソコソ会社の物を持ってきてるなんて分からないんじゃないの?」

「あのー、コソコソじゃありませんから、堂々と持っていきますから」

「あー、そう。

でも、その物は家に持ってきてはいけない物だって子供が分からないでいたりして」

「会社がくれた物だって家では言ってたりして?」

「分からないなぁ」

「分からないですよね。

あー、私の物を取られてるわけでもないのに、最近はその人の顔を見るのも嫌なんです。

彼女が新しいボールペンを支給されているのを見ると、また持ってく気だなって、思っ

ちゃうんですよ。何だか自分が卑しい人間になった気持ちです」

「困ったねぇ」

「困りました」

「…」

「祈りましょ」

「それしかないですね」

 

 その人が、気付きますように、

人のモノに手をつけてはいけないということに。

裏表のある人間は、みっともないということに。

仕事をする喜びに気が付きますように。

誰にも恥じない自分を作れますように。

そして、気持ちが真直ぐと健やかになりますように…。

 

 そして、これを願う自分も、心が平和に平安になりますように。

 

 あーあ、これを読んだら、また宗教っぽいとか揚げ足取りだって言われちゃう。

でも、そんなのカンケイねぇ! なーんちゃって。

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