大ムカドン銀行に行く(ムカドン)

文句勇蔵は、自分では我慢強い性格だと思っているのだが、

家族や友人知人たちは、すぐにムカッときてドンと怒りだすといって、

彼にムカドンとあだ名を付けている。

そして、ムカドンの母親もまた紛れもないムカドンである。

彼は自分の母親を大ムカドンと呼んでいる。

その大ムカドンが、何時ものように勇蔵の所へやって来た。

勇蔵の母親は、勇蔵の家から車で十分程の所に父親と二人で暮らしている。

母親は車を運転出来ないのでいつも父親が運転する車に乗り、元気に

勇蔵の所に現れるのだ。

 

その日も、何故そんなに元気なんだ?という程の大きな声で登場した。

「勇蔵よ、元気か?!今日もまた面白い話があんだぞ!」

耳の遠い母親は、元気か?と聞いてはくるが返事は求めていない。

そして、放っておけば一人で勝手に話を進めていく。

「勇蔵よ、お母ちゃんB銀行に行くとみんなが挨拶してくんだぞ」

「なんでー?」

「あのな、この間、家を建て直すことにしたんだが、現金でやっちまうと

税務署がおっかねえから、B銀行で借りでやっこどにしたんだ」

「ふーん」

「そんで、仕事の途中でペンキべだべだの格好でB銀行に行ったんだよ、

そしたら、こっちが急いでんのにみんな知らん顔で、その上後回しに

されたのが、わかったんだよ。そしたら、もうわかっぺ?

なんだおまえら!ってことになっちまったのな」

と母親は自分の行動を人事のように言う。

「金預けるより、借りるモンの方が客じゃねえのか?

もう、あんたらの所で借りる気はなくなった、現金で家建てっから

これ全部解約してくれろ!って袋ん中の通帳ぶちまけてやったんだわ」

 

あー、目に見えるようだ、その時の様子が…。

 

 ムカドンの父と母は、その頃、二人で頑張ってきたペンキ屋が軌道に

乗り、仕事が面白くて、なりふり構わず働き稼ぎまくっていた。

 

「そおしたら、奥の部屋に連れて行かれてな、お茶なんか出されて偉い人

が出てきてな、失礼をしました、どうかうちから借りて下さいって

頭下げられっちゃったんだよ。

まあ、それでB銀行から借りることにしたんだけど

それから、B銀行に行くとみんな揃って頭下げるようになっちゃたんだ」

それを聞いた勇蔵が、

「もう、俺はお母ちゃんと一緒にB銀行には行かないからな」と言うと

「だけどなあ、勇蔵よ、お母ちゃんがきれいな格好で行ったら、奴らの

態度は最初っから違っていたと思うんだぞ、ペンキべだべだの格好だから

あんなに無視したんだと思うぞ。

だがら人のごど、見かけで判断するような真似すっとどんな目に合うかが

分かってよかったっぺ」と言った大ムカドンは、ニヤリとした。

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