裸の王様 あーちゃん

 

あーちゃんと話していたら、あーちゃん母、よっちゃんがあーちゃんの前に紅茶の

カップを置いた。

よっちゃんもここに来て、紅茶を飲むのかな、それとも熱いから冷ましてから飲もうと

しているのかな。と、思う。

 少ししたら、あーちゃんが“当たり前”のように紅茶を飲み始めた。

ウチの紅茶なのだが、いただきますの挨拶はない。

 何時ものように夢中になって親の悪口のようなグチを言うあーちゃん。

そこへ、よっちゃんが来て、

「あら、お砂糖入れた方が良かった?」と聞いた。

その瞬間、あーちゃんは、顔をしかめ「チッ!」と舌打ちをすると「シッシ!」と払い

のける手をした。

 そして、また親への文句話を続けようとした。

「ちょっと、待て!」と、私は言った。

「なに?」

「裸の王様の話、知ってるか?」

「知ってるよ」

「そうか、そんなら、今のあーちゃんは、自分が裸の王様なのは、知ってるか?」

「…」

「どうした?

人に紅茶、持ってきて貰って、『アリガトウ』の一言もなしにまるっきり無視。

『お砂糖入れた方が良かった?』にも『チッ!』『シッシ!』って、それはあんめ。

よく店で『お母さんこれ見て』って言う子に『買いませんよ!』っていう親が居る。

って話して、あーちゃん『バカな親だね』って言ったことあったよね。

その子は『見て』って言ってるんで『買って』とは言ってない。

今、あーちゃんは、そのバカな親と同じなの分かる?

『お砂糖入れた方が良かった?』の答えは、

『入れて下さい』か『入れなくていいよ』か『自分でやるから大丈夫だよ』

で、その前に『ありがとう』だ。

今日は、ハッキリ言う。

あーちゃん、カッコ悪い。特によっちゃんお母さんに対する態度。

ただ裸の王様どころか、更に暴れてみっともない姿を見せてる」

「えー、初めて言われたー」

と、あーちゃんは、テーブルに突っ伏して顔を覆った。

 が、顔をあげて、また言い訳を始めようとした。

「やめなさい。今日は此処まで。後は、言い訳せずに持ち帰って自分の中で考える」

「でも、」

「でも、じゃない!ちゃんと考えてみな。答えは自分が出すんだ。これでいいのか。

今日はもう帰りな、また待ってるから、車まで送ってやるから」

 

みな、答えは一人ひとりの中にある。

いくら言い訳しようが、スッキリしないのなら、そこに課題があるんだ。

 仏は、「自分を悩ませている問題しか、自分を立ち上がらせるご縁はない」という。

 

 夕焼けから夕闇に変わって行く階段を、あーちゃんの腕をとって降りて行く。

ギュっとあーちゃんの腕を掴むと、あーちゃんが私の拳につかまった。

「夕焼けは見えるのか?」

「見えるよ」

「本当にどう見えているのか分からないのよ。測定不可能なのよ」とよっちゃんが言う。

 5センチ先が見えたり見えなかったり、眼球がブレルので、見える時もあれば見えない

時もあるらしい。

 東の空に月が出ていた。

「月は見える?」

「見えるよ」

「本当に見えてるんだかどうだか」とよっちゃんが言う。

 何時もなら「ウルサイ、バカ!」というあーちゃんが、何も言わずに車に乗った。

あーちゃんの手をギュっと握ると、あーちゃんがギュっと私の手を握った。

 

 

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