花火

 

 夜に花火があった。って、昼間の花火ってあるんかーい。

知人が、その花火の寄付を集めに来た。

そいつは、ホントに花火人生のようなヤツで、好き勝手放題で生きているように

見えるが、魅力あるヤツだ。だけど、奥さんは大変だと思う。

 彼の両親が社会に貢献できない人であったことへの悔しさもあるのか、地域への協力と

貢献の仕方は半端じゃないところがある。ヤツは、私の胸で泣いたことがある。

 ちょっと言っておくが、私は男でも女でもない。変な見栄と垣根を外したら、違う

世界が見えてくる。

 

 暗くなってきて花火が始まる時間になって、どうしようかな。と考えていた。

そうだ、山小屋の上で冷酒を飲みながら花火を見てやろう。と思い立った。

 山小屋の冷蔵庫に、酒瓶がキンキンに冷えていたっけ。

丸ナスを輪切りにしてごま油で焼き、醤油をジュっとかけ、スルメをあぶった。

ドドン、ドーンと聞こえ始めた。

陶器のカップに酒をナミナミと注いで、酒の肴を持って山小屋に上がる。

 サンデッキに出ると寒い位の風が吹いていた。

メダカのケースが並ぶサンデッキ。

 月が好きで、冬でも毛布に包まって月が空を渡っていくのを眺めるのに、

このところゆっくり月を眺めることがなかった。

 ベンチに酒の準備設置。

花火が上がった。高い所で開く花火の、そのまた上半分しか見えない。

 でも、ここでいいだろう。どうせ、人ごみで面倒くさい気持ちになるんだから。

花火に乾杯!先ずは冷酒だ。スーっと喉に流し入れる。

 はぁー、と思うと思ったら、大間違い。

なんじゃこりゃ!旨いけど、キツイ。

 焼酎じゃないか!

焼きナスの熱いのを食べたら、胃袋がジー、と言ってる。

焼酎を呑んでスルメを噛む。

遠く、家の上半分に、花火が飛び上がる。

気持ちがいいので焼酎を続けていたら、疲れが何処かへ行ったみたいだ。

 

 よし、自転車で花火の近くまで行ってみよう。

急いで誰も居ない家の戸締りをする。

 小銭入れを首から掛けたら、愛犬マイロが察知した。

自分も連れて行けと、ピョンピョン跳ねてアピール。

 大体が、花火の音にビビッテ身の置き所がなかったみたいだ。

マイロのリュックを出すと、自分から入ろうとして焦っている。

 前に掛けたリュックから顔を出して喜ぶマイロ。

暗くなった道を、自転車が走り出す。

 花火が見えたり、建物や林の陰に隠れたり、花火が見えると足元を見ない。

歩く人が多くなって、道路に止まる車も目だってきた所で、横滑りして転倒。

 マイロがリュックから飛び出しそうで、倒れながらもマイロを抱える。

両膝スリムキ、起き上がって自転車に乗る。

 自転車をコグと膝が痛い。なかったことにすると、スースーしてきた。

花火が大きくなってきたあたりから歩行者天国になる。

 自転車を押して行くと踊る若者あり、仲間で集まるグループあり、家族連れ、

友達連れ、人、人、人でイッパイ。

田川の夫婦に「おー」と肩を叩かれる。二人は聾唖だ。

そこで一緒に花火を見た。

 手話で話していると花火が見えない。でも、音が大きくても話が分かる。

花火の音は身体で聞こえると二人は言う。

 

 花火は今までで一番、大きく盛大だった。

花火男が、この花火を応援していた。

 ヤツは、最近調子が良くないらしい。

山下清も花火が好きだった。

 最後の最後まで、花火を気に掛けていたという。

 

 花火はキレイだった。

秋風の中で盛大な花火は、少し淋しい気がした。

 

 

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