不思議“美咲”のウロウロ日記A

 

 前世って何なんだろう?と、美咲は思う。

本当にそんなもんあるんだろうか?

 でも、何だかそういう感じがするということは、確かにある。

 

 美咲が働いている店にコロンビアから来たという人が、商品を買ってくれないかと来た

ことがあった。

 美咲はそこの店長として働いているが、滅多に顔を出さないオーナーは、美咲の商才と

面白さを高くかっているようで何をやっても文句も言わず、自由にさせてくれる。

 困った顔のアイリッシュ系の顔を見ながら、どうしたもんかと美咲は考えた。

盗品ではないと思う。でも、パスポートを持っていないような感じがする。

 でーもなぁ、この困った顔は本当だと思う。

よし、たかが2,3万の金だ。金と品物は引き換えなんだから買い取ってやろう。と

美咲は決めた。

 彼の持ってきた袋の中には、ミサンガとインデアンのお面が入っていた。

ミサンガは1本100円で、お面は普通千円で売っているという。

アイリッシュは、「ヨソはモット高く売っている」と言って、嬉しそうに帰って行った。

 

 さて、幾らに値を付けて何処にディスプレーしようか。と考えていると、お客が入って

来た。

 何人か居る店のスタッフは、お客が途切れた隙に在庫出しにと裏の倉庫に行っていた。

お客は、20歳位の男だった。

 黙っていると取っ付きにくい感じだが、話し出すと素直で真直ぐな少年のような顔に

なった。

 オバサンと美咲を呼ぶのがちょっと気になったが、人懐こく話しかけてくる。

美咲はあまり年齢や氏素性には興味もないし殆ど聞くことがないのだが、彼の軽快さに

乗った形で聞くと、浪人してまだ学生をしている23歳ということだった。

 その時、美咲はふと思ったことを口にした。

「あなた、インディアン好き?」

「えー、何でですか?」

「んー、何となくあなたがインディアンの感じがするから」

「スゴイ!、今行ってる大学の学食のオバチャンがチャネリング出来るって学生の間で

有名な人なんですけど、その人に『あなたの前世はインディアンの酋長だった』ってボク

言われたんですよ」

「へー」と言ったが、がっちりとした体つきとか顔の感じ、雰囲気がそういう風に感じる

のかもね。と美咲は思った。

 そんな話をしていたら、

「あれ?侍って感じもする。

でも、そう高い位でもないし、かといって足軽でもないなぁ。

なんだろ、この感じ。力はあるし沢山の人は率いてるけど、楽はしてない」

「スゴイですね。実はボクの先祖は、蝦夷(えぞ)の屯田兵だったらしいんです。

教科書にも名前が載ってて、『コレあんたのご先祖さんだよ』って親に言われたんです」

「へー、そうなんだぁ。

あっ、ところでインディアンのお面欲しい?」

「インディアンのお面?」

「そー、今売りに来た人が居て仕入れしたとこなの。

でも、売りたくてさっきの話したと思われたらいやだな」

「そんなことないですよ。見せて下さい」と学生は身を乗り出した。

美咲は、白いビニール袋をレジ裏にあるバックヤードから出してきた。

ミサンガが固まって入っている上に10面程の面が乗っていた。

手のひらサイズの中に一枚だけその倍以上の大きさの面があった。

「若し欲しかったら、どれでも980円でいいよ」と美咲が言うと

「これは、いくらですか?」と学生は、一つだけ大きい面を指差した。

「同じでいいよ」

 それは、アイリッシュが「サービスで他の面と同じ値段にします。

これは高い値段で売って儲けて下さい」と言ったものだった。

 学生は、「そんな、悪いなぁ」と言いながら喜んで買っていった。

それから、何日かして学生が店に来た。

 やっぱりお客が引けた夕方の時間だった。

「あのぉ、変なこと言いますけど文句付けてるんじゃないですから」

「えっ、どうしたの?」

「この間、お面、アリガトウございました」

「いえ、こちらこそ有難うございます」

「それが、あれを買った日、家に持って帰ってどこに飾ろうかと手に持って考えていたら

手の中でパーンと二つに割れたんです」

「えー?」

「そうなんですよ、力も入れてないのに中央から真っ二つにキレーに二つに」

「へー」

「持ってきてお見せしようかと思ったんですけど、今日は持ってきてなくて」

「いーよ見せなくて、そうかぁ。割れたのか」

「何でですか?」

「何でだろうね。湿度とか温度の関係かな。割れる時期だったんだろうね」

「何か悪い知らせですか?」

「そんなことないよ。でも、あなたが、そう感じるんならそうかもしれない。

悪い知らせのような気がする時は、何時だって気をつけて行動しろってことだからね。

気のお知らせは、気をつけて害はないし守ってくれるから大事にしたらいいと思う。

ただそういうものばかり気にし始まると、疑心暗鬼になって勝手に心配の火種を興し始ま

って世界を小さくしちゃうからね。

 でも、どうってことないと私は思うな。コワレル時期がきたんじゃない?

だけど、すぐ壊れてもうしわけないから違うやつと交換してあげるよ。

壊れたのは塩振って袋に入れて燃えないゴミの日に出したらいいよ」

「いや、交換はしなくていいです。

ボクも何だかあのお面が家に来ただけで良かったような気がしてますから」

「そう、良かった」

「はい、アリガトウございました。今日はその報告に来たんです」

 

 だから何だということもないが、やっぱ、人って輪廻転生してるんだろうか。と美咲は

思った。

 

 そういえば、あるお客の家に配達に行った時、そこの奥さんがどうしてもヨーロッパの

修道院の人という気がしてならないことがあった。

 その人に勧められるままに日当たりの良いダイニングのテーブルで、手作りのお菓子と

香りの良い紅茶を頂いた。

 聞けば最近まで伴侶の仕事の都合でヨーロッパに行っていたが、そこに行った時、

そこに来たのは初めてではない気がしたのだと彼女は言った。

そして、その人が熱心なクリスチャンであることを美咲は知る。

 そこに戻ってきた二人の子供は、美咲には挨拶したが母親に対して反抗して反発して

いることが感じ取れ、小さくなって恥じ入る彼女に掛ける言葉がなかった。

 美咲は、その人のことが気になって暫く頭から離れなくなったが、その時のことを

反芻して自分なりに答えを出した。

 

温厚で穏やかな彼女は、以前は家庭を持つこともなく、だから子供も持たず自分の

純粋な想いの中だけで生きたのではないだろうか、そして今、今回、前に経験すること

の出来なかった家庭を持ち子供との葛藤を味わっているんじゃないだろうか。

 今の彼女は大変だろうが、それを求めて生まれてきたんじゃないだろうか。

大変そうに見えても、本当に今は大変かもしれないけど、それは幸せなことなんじゃ

ないだろうか。

そう考えると、彼女の今の状態だけに同情的な気持ちになっていた小さい自分を感じた。

 

 そして、人に同情するより、今をしっかり生きろよ。と、自分に思った。

 

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