家族(奈々)

 

 奈々の私生活、興味あるでしょ。

そこは秘密にしておいた方が面白いかなと思ったんだけど、やっぱり教えちゃおうかな。

 

 奈々は現在マンションに一人暮らし。独身だと思ったでしょ。

ところが、違うんだな。

 夫(秀作)が居る。秀作はどういう感じかというと、一見普通の真面目な感じ。

奈々は、ちょっとカッコイイ感じで、自分流の生き方と考えを持っている。

 二人は、それぞれマイペースな性格で、お互いの生活に干渉しない。

それは、33年前に結婚した時から全く変わらない。

 奈々が夜の店を経営しているので、二人も男女関係が華やかじゃないかと思われがち

だが二人にはそういうところに意識はなく、浮気も一度もない。

 今時、両方が初めて好きになった人で二人とも、一人しか知らないというのは、

天然記念物級かもしれない。

じゃあ、二人はラブラブかっていうと、それ程でもない。それぞれ、自分のやりたい

ように自由にやっているので、仲が良くないのかというと、そうでもない。

 気が向けば二人で旅行に行く。でも、自分の用意は自分でして、旅館でも仲の良い

友人みたいに語り合うが、お互いの行動に干渉したり、面倒を見ることはない。

二人の趣味であるゴルフに一緒に行くこともあるが、やはり変に気を利かしたり気を

使うことはない。

 だから、キャディが二人を仲の良い友達か兄妹、親戚のように思うことが多い。

 

秀作も東京にマンションを持っていて、週の半分はそこで暮らしている。

洗濯や炊事は自分でする。衣食住総て自立している。

 これ、改めて書くと面白いねぇ。

子供が居るが、学校を卒業した時点で子供とは一緒に暮らさないというのが奈々の信念で、

別に暮らしている。

自給自足、それが“自立と自律”の第一歩だと奈々は思っている。

そして、正直に、ありのまま、思いやりの気持ちを忘れず、仲良しごっこはしない。

 

 奈々は秀作が大好きだ。

どこが好きかというと、誰に対しても失礼でない。誰かが失敗しても責めない。

人のモノを覗くことがない。疑わない。終わったことをグズグズ言わない。

甘えてこない。ベタベタしない。

 秀作は好きな人でも嫌いな人でも態度が変わらない。

嫌いだからといってイジワルをしたり邪険な態度を取るということがない。

 奈々はちょっと人の好き嫌いの激しい所がある。秀作も、好き嫌いはあるだろうが

顔に出さない。

 人の容姿などに何かを言うことがない。誉めもしないが、貶(けな)すこともない。

評価をしないのだ。強い者、力のある者に媚びない、強がることもない。

 

 こういう世界って、夜の世界ばかりじゃないだろうが、人の値踏みをし、好きになると

プレゼントをし、又欲しがり、携帯電話を覗き、好きだったら言うことをきいてと甘える。

 美味しいモノを先に食べて、辛いこと嫌なことは後回し。エコヒイキ、手前味噌。

そういったところが秀作にはない。って、あー、奈々の話を聞いていたらキリがない。

 

 奈々のコダワリは、領域を守ること。

家族でも親しい人でも、先ずは自分が人の領域にズカズカ入らない。ということを肝に

銘じている。

 そして、自分がだらしないことで、人を自分の領域に入らせないように気を付けている。

何故なら、心の弱い人に罪を犯させることになるからだ。

 そして、欲しい物は、お金を貯めてから現金で買う。お金がなかったら、諦める。

欲しかった、働いてお金を貯める。これは、お金で苦労した時代に秀作と決めた。

 奈々のマンションも秀作のマンションも、車も現金で購入した。

店の支払いは、客も仕入れも総て現金払い、そして、明朗会計。

 バブルの時代、ツケが利かない店などないと敬遠する客も居たが、自腹で飲む人は、

安くて明朗会計の“奈々の店”を喜び、バブルが弾けても客が減ることはなかった。

 今、そう儲かっているわけではないが、困ることもない。

普通に食べて暮らしていけたらそれでいいと奈々は思う。

 

 夜の仕事には、働く人もお客もいろんな人が集まってくるのか、本音が出るのか。

奈々は、自分から人の事情を聞かないようにしている。

 でも、何故か皆奈々に秘密を話してくる人が多い。

いろんな人が居て、いろんな事情を持って人は生きている。事情のない人は居ない。

 人は皆違っているという意味においては、同じなんじゃないだろうか。

そして、人に根本的な違いがあるとしたら、逃げずに生きているか、逃げようとして

あがいているか。じゃないかと奈々は思う。

 腹を括(くく)って、正直になったら怖いものはない。が、奈々の結論だ。

 

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