思い込みと決め付け

 

 ある所で私が子供の頃、近所に住んでいた同級生に出会った。

そこで、モモちゃんの話になった。

モモちゃんは、近所に住む私より3つ下の女の子だった。

モモちゃんの母親は、元が芸者さんだったとかで性格のさっぱりした魅力のある人だった。

 お金持ちの奥さんと結婚していた旦那さんを、モモちゃんのお母さんが奪ったという噂

だったが、夏になると、旦那さん、つまりモモちゃんのお父さんのステテコと白い丸首の

下着を着たオバチャンが、毎日ジャブジャブ洗濯していた。

 洗濯が三度のメシより好きで、物が沢山あるのがキライだというオバチャンの家は

サッパリと何もなかった。

でも、借金するのが病気だとかで、私が結婚する頃には借金取りのヤクザが押しかけて

くるようになって、家族全員で行方不明になった。

 

 モモちゃんは、丸顔でニコニコした可愛い子で学校ごっこやオママゴトでよく遊んだ。

私は年上の子とか年下の子、男の子とは、気が合ってよく遊んだのに、何故か同級生には

あまり友達がいなかった。

 

 彼女の妹は、モモちゃんと同級生だった。

「モモちゃんって可愛かったよね」

「うん、そうね。憎めない顔してたわね」

「モモちゃん、どうしているかなぁ」と私が言うと、

彼女は

「モモちゃん、親があんなだから可哀想だよね」と言った口で

「でも、親が親なら子も子だって妹が言ってたわよ」と言った。

「どうして?」

「結局、だらしない親だから給食費が払えないじゃない。

何回も先生に催促されて、最後には黒板に『田所モモ子、給食費を忘れるな』って書か

れて、持ってくるまで消されなかったんだってよ。

それなのに、ほら妹同じクラスだったでしょ、モモちゃんどんな顔してるかって見たら

怒られても、黒板に名前書かれても、ニヤニヤしてて、ゼンゼン平気なんだって」

「そうかな、平気だったのかな」

「そうだって、イケシャァシャァした顔で、まるで蛙の面にションベンだったって妹が

言ってたもの」

「そうかなぁ、ホントは辛かったんじゃないかな」

「辛くなんかないわよ。ずうずうしい性格なのよ。

モモちゃんも親になって給食費踏み倒すようになってるわよ」

「えー、そんなことないんじゃない」

「ほら、工場で働きだしてからも親が給料を前借に来て働きづらくなって辞めたんだよ。

そんな親だったら、私は耐えられない。

それでもズルズル一緒に暮らしてたってのは、同じ穴のムジナだからよ!」と彼女は言い

張って譲らなかった。

 

 まぁ、そうでないと私が言い張れば、本当のことが分かっているワケでもないのに、

分かった風に決め付けているその人と同じになる。

 が、私は、人は本当に辛い時っていうのは、泣いたり騒いだりしないんじゃないかと思

っている。

 ホントウにイヤで辛い苦しい、でも逃げることは出来ない時っていうのは、感情を

押し殺しなかったことにする習性が人間にはあると聞いた。

 

 普段から口の悪い人が、心の病の人に気に障ることを言って落ち込ませ、大変なこと

になるところだったと言ってきた人が居た。

 その口の悪い人は、大変なことをしたのにゼンゼン気にしていないのだ。とその人は

言った。が、ホントウに“ゼンゼン気にしていない”だろうか。 

 あの人は、〜なのよ。〜に決まってる!と断定し、決め付ける。

それは、思い込みではないだろうか。と私は思う。

 そうなのよ!と、その人は言うが、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

大事なことは、ホントウには分かっていない、知らない、ということだ。

 

モモちゃんのお母さん、何年か前に亡くなったらしい。

 

モモちゃん、幸せに暮らしていますように。

 

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