酵素浴2

 

酵素浴とは、少し大きいベッドくらいの大きさで深さが120センチの木で作られた

長角の風呂に糠(ヌカ)がイッパイに入った風呂に入る。

そこは、個室になっていて先ずは服を脱いで裸になる。

介助をする人が居て風呂の階段を上がるとヌカを掘って寝る場所を作る。

 そこで会った介助の人は、以前よく行っていた居酒屋で働いていた坂上さんという人

だった。

 ヌカはホカホカに温かいが、人工的に熱を加えているのではなく自ら発酵することで

熱を出しているという。

 だから深く掘ればそれだけ温度が高くなり、あまり深く掘ると焼けどをするくらい

熱くなるとのことだった。

「ここにお尻を置いてください」と坂上さんが中央にマルを書いた所にストンと尻を

置いてユックリと仰向けになる。

私は人前で裸になるのがイヤで(胸の傷のせいだったのだろうか)、ゴルフに行っても

風呂に入らなかったりしたものだが、その頃はイヤだとかいう感情はなくなっていた。

温かいヌカの上に当時、40キロ位にやせ細っていた身体を、薄い鉄板のように冷え

切っていた身体を乗せると、先ずはポンッと股の所にヌカが掛けられる。

アッタカイ。

それから、全身にヌカが乗せられていく。

ヌカの重みと温かさは、冷えた身体にはもっと熱くてもいい、と最初は思うのだが

段々熱くなってくる。

 普通10分から15分位の間を入るらしいのだが、体力のない私は10分弱にされた。

面白いように汗が出始め、「気分が悪くなったら言ってくださいね」と一度部屋から出た

坂上さんが、冷たいお絞りで汗を拭きに来る。

 面白いことに随分何回も酵素風呂に入ったのだが、何人も介添えの人は居るのに、最初

から最後まで、担当になったのは坂上さんだけだった。

坂上さんは猫が大好きなサッパリした人だった。

 

それから、私と次女は酵素風呂に通うようになった。

酵素浴は身体を芯から温める。

風呂から出て温めのシャワーを浴びても噴き出して止まらない汗を拭いながら、先生に

診てもらう順番を待っていると、先生の話が耳に入ってくる。

「あんたねえ、私の話、聞いてないだろう?」

「ええ!?」とその人は驚いた顔をしているが、成る程聞いていないと私も思う。

先生が何か言う度に、その話が終わらないうちに

「はい、はい、はい、はい」と返事をしているが、

先生が言っていることはゼンゼン通じていなくて、頓珍漢な質問を繰り返していた。

「あんたねえ、私が百万の機械をこれがいいよって勧めたらすぐ買っちゃうよな。

あんたは、私の言うこと信じてんじゃないんだよな。

ただ闇雲(やみくも)に何かにすがりたいだけなんだよなぁ。

人の話し聞かねえで、何にも考えねえで、はいはい、はいはい言ってるだけなんだよなぁ。

私が、あんたのこと騙そうと思ったら赤子の手、捻(ねじ)るより簡単だぜ。

ちゃんと話聞けよ。そして考えろよ。自分がどんな状態なのか自分に聞いてごらんよ。

自分の体なんだよ。

ちゃんと、どうしたらいいのか分かって、やっていくのはあんたなんだよ。

言われたことの意味を考えてやんなきゃ効果ないでしょ」

先生は、私たちには丁寧な話し方をしていたが、相手によっては乱暴な口調になった。

或いは、酷く砕けた話し方になった。

娘が座ると

「なあ、オネエチャンは、誰かに足が太いねって言われたら、

あーあたし足が太いんだって気にしちゃって、あんたはここがこうだねって言われたら

そうなんだ!って思っちゃうんだよなぁ。

そんなこといちいち気にしないでもっと気持ちを大きく持って、生きなきゃだめだぞ。

それから、ダイエットしちゃったな。血管の中を血が元気に走っていない。

それはどうしたらいいか、分かるか?水だよ、水を飲め」

 先生は、「これからやっていかなければならないことは沢山あるが、一度に欲張っては

続かない。食事のことや色々いいたいことはあるけど、先ずは水をのむことを教える」と

「一日にコップ10杯の水を飲むこと。飲み方は、昼までに3杯、夕方までに4杯

そして、寝るまでに3杯の、合わせて10杯の水をのむこと、これを確実に続けなさい」

と言った。

私には、「頑張ってきたんだよなぁ。お母さんは、ただココに来て風呂に入って温まって

夜寝る前に、熱―い湯を飲むだけでいい」と言った。

 

 そこの酵素風呂は、何時も満員で待たされたが、私はそこに居るだけで元気が取り

戻せそうな気がしていた。

 そして、何故か突然お客が居なくなる時があり、先生の不思議な話を聞くことになった。

その話は、明日書けたらいいなぁ。

 

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