黒い犬(3)

 

 頭の中では話がまとまっているのに、それを書く時間がない。

以前は夜中に書いたりしたが、このところ寒い。

 それに加齢のせいか、夜型でなくなった。

 

 そもそも、何故“黒い犬”の話を書こうと思い立ったか。

以前にも書いたが、我が家の西側に見える道路(交通量が少なく、散歩やジョギングを

する人が多い)に、犬を散歩させている人も多く、そこに黒い犬を連れて歩く夫婦が居る。

 その黒い犬(ラブラドール)を見てその夫婦が以前、やはり真っ黒い(シェパード)を

飼っていたこと思い出し狂犬病注射のことを思い出したのだ。

 

<狂犬病注射事件>

それはウチのエルが居た頃だから、もう20年位前の話だ。

今のラブちゃんも大きい身体ながら人懐こい気のいい犬だが、前に居たシェパードも

身体が大きく恐ろしいような感じだったが、見かけによらず臆病な犬だった。

 近所の集会場で狂犬病の注射があった。

そこにエルを連れて行くと私たちの前が、そのシェパードだった。

 ところが、大きな身体をしたその犬は注射を怖がって待っている間からキュウキュウ

言い始め、自分の番になると暴れ出して大騒ぎになった。

 何しろ身体が大きいから抑えるのが大変で、係りの人たちミンナでその犬を取り押さえ、

その横でエルはあっという間に注射をされ「早く行ってください」と追い出されるような

感じでそこを後にした。

 

 ちょっと自慢するが、今のマイロも臆病そうだが注射で騒いだことがなく、エルも腹

の据わった所があって注射で騒いだことがなかった。

 まあ、夫から言わせれば「鈍感で危機感のない平和ボケの犬だ」という話だが。

 

 まあ、そんなワケで注射が終わったエルを抱いて家へ帰る途中、近所の奥さんと一緒に

なった。

家と集会場は、歩いて5分ほどの距離だ。

春の暖かい日だった。

「今年から注射は無料になったんですね」と私が言うと、

「えー、なってないわよ」と言うではないか、

「げー、あの騒ぎで料金受け取るの忘れたんだ」

「いいんじゃないの、黙っていれば分からないわよ」と奥さんは言うが、

「いやいや、それが今、私、カミサマに試されているもんで、少しばかりのお金で失敗

するワケにはいかないんですよ」と言ったが、奥さんは私が何を言っているのか分から

なかっただろう。

 

 その頃の私は、カミサマに試されているとしか思えないことが続いていた。

子供たちを連れてデパートに行って買い物をしたが、お釣りが五千円多い。

私の出した五千円札を一万円と勘違いしたのだろう。

財布に入れようとして気がついた私は、「これ、多いですよ」と小さい声でその若い娘に

言った。恥をかかせないようにと思ったのだ。

しかし、近くに居た年配の女性が「あなた、何やってるの!」とスゴイ剣幕で来たかと

思うと、目の前に立っている私たちには目もくれず、その娘に説教を始めた。

 その場を離れると「あの人あんなに怒られちゃってカワイソウだから、お母さん黙って

ればよかったのに」と娘達が言った。

「ヤダね。お釣りを間違えたのは、あの人の失敗なんだから怒られてもしかたないんだよ。

だし、お客さんのことも、あのお姉ちゃんの気持ちも考えられないあんな怒りんぼには

それなりの何かがあるんじゃないかな」

「あーゆう人がお母さんだったらヤダな」

「そーだね。あと、お母さん、今、カミサマに試されてるんだ」

「何を」

「この間っから、問屋さんに頼んだよりイッパイ品物が届いたりするみたいなことが

何回も続いてるんだ」

「ふーん」

「お母さんが間違ったんじゃなくて、相手が間違ったんだからって、黙ってたらトクし

ちゃうんだけど、それをやったらお母さんじゃなくなっちゃう」

「へー」

「気がつかないのは仕方がないけど、気がついたら知らん顔しちゃダメだと思うんだ」

「そーかー」

「ん、誰が分んなくったって、自分が知ってるしカミサマは見てるんだよ」

 というような話をしたばかりの時に狂犬病注射の事件(事件って程のことじゃないん

だけどね)が起きた。

モチロン、面倒臭いけどスグにエルを家に置いてお金を払いに行った。

 

 今日も、夫婦はラブちゃんを散歩させていた。

すらっとしたご夫婦で、毎日欠かさず、日によっては2,3回ラブちゃんを連れて歩い

ているが、旦那さんは定年退職したということで、年月の流れを感じる。

この間、立ち話をしていると、旦那さんがお酒をやめたという。

どうしてかと聞くと、奥さんの心臓が悪くて何回か救急車を呼ぶことがあった、でも、

奥さんが救急車に乗るのが嫌だというので、今度発作が起きたら旦那さんが病院に

連れて行ってやりたいので何時でも車に乗れるようにと酒はやめたのだという。

 

 最近、また注文以上に品物が届く。みたいなことが起きている。

こうやって多いことがあるってことは、若しかしたら間違って少ないこともあるのかも。

ってことで、黙っていよう。と思うことがあるんだけど。

 あー、ダメダメ、こうやって書いていて思った。

ズルはダメ。正直に、過不足なく、正々堂々と真直ぐに生きる。

 そーしたら、コワイもんはない。(きっぱり)

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