靴

 この間、店の入り口、入り口っていっても表の方に靴が重なってあったのよ。

出入り口のまん前に、小学生があわてて家に入ろうとして脱いで重なったような大人の靴。

「ナニ?この靴」と思わず言ったら

「あー、それ、あたしの」って、後で誰かが言った。

振り返ると、店の商品のエプロンを着て、首の後ろに値段の紙をプラプラさせた人が、

店の商品であるガーデンシューズを履いて歩いていた。

「あー、お買い上げですか」と、言うと

「まだ、履いただけだよ」と言うのを聞いて、

「えー、ダメですよー」と思わず言ったら

「あ、買う買う!」とその50歳代の女性が言った。

すると、隣に居た20歳代の女性(娘らしい)が、

「まだ、決めてないでしょ!」と面白くなさそうに顔をしかめた。

「あのー、買わないモノは履いてはダメですよ」と、柔らかーく言うと、

「履いてみないと分からないでしょ」と娘、

「でも表を歩いては傷がつくし、汚れるでしょう?」と優しーく言うと、

「だって、これ表で履く靴でしょ!」と娘、

「でも買った人で家の中で履くって人も居ますよ」

実際に風呂場やベランダで履くという人も居る。という話をしていると、

「買うから!」と母親が言った。

 

自分の買う靴が、歩道で歩いたものだったらこの女性はどう思うのだろう?

まだ買ってもいないエプロンを着て、買うかどうか決めていないシューズを履いて外を

歩き回っている親子。

そして、店の入り口の前に脱いだままの形の靴、他の客はそれをマタイデ、店を出入り

している。

人の邪魔になる所に自分が居たり、物を置いて「マタガレルと、出世しなくなる」と

いう。

 まあ、そういうだらしない人の邪魔になるような生き方をしていると出世しないという

教えなんだろう。というと「出世したくないからいい」なんて言う人が必ず居る。

じゃあ、出世じゃなくて幸せという言葉に置き換えよう。

それでも、幸せになんかならなくていいという人がいるかもしれない。

幸せという形でない心の平和と満足。

柔らかで潤いがあって、ワダカマリのない納得。

スッキリとした青空のような清々しい気持ちを私は幸せと思う。

 

 買ってないモノを身につけ履き外を歩いても平気な、靴を人の一番歩く所に置いても

平気な彼女達に思う。

自分の生きる姿が、みっともないと蔑(さげす)まれ、哀れな人だと思われても平気

なのだろうか?

それは、自分だけでなくて家族も同じに見られていることに気が付かないのだろうか?

自分の持ち物が、人の邪魔になっても平気なのだろうか?と、

これから、社会人になり家庭を持つかもしれない娘。そうなったら子供を育て教育して

いくことになる。

 まあ、結婚してもしなくても、子どもを持っても居なくても、社会に生きている人間は

ルールとマナーを守って生きることが幸せに繋がると私は思う。

それが、ああいう人は、ルールとマナーを守ることは、人の為だと思っている。

そして、自分の為だということに気が付かないで、だらしない生き方をすることが得だ

と思っているような気がしてならない。

 あー、また堅い文章になってきた。

兎に角、どうしちゃったんだよー!と、思ったわけよ。

 はっきり言って、買っていないモノを着たり履いたりして外をフラフラしてたら、

オカシイから。

 

って話を、友達のマミちゃんにした。

 そしたら、

「あたしも、この間デパートにお買物に行ったのね」って話し出した。

「靴を買おうと思って、靴売り場に行ったの、そしたら、何だか古い感じの靴が棚に

あるのよ」

「アンティーク?」

「あたしも、今はこういうのが流行りなのかな?って、一瞬思ったんだけど、どう見ても

ヘンだから、手に取って見たの。

そしたら、気持ち悪いのよ。誰かが履き古した靴だったの」

「へー!」

「どうしようかと思ったんだけど、店員さんに言ったら、店員さんソレ見て

(あー、やられちゃったー)ってガッカリしてたわ」

「うわっ、ひどっ!」

「ねぇ、ヒドイ人が居るもんでしょ」

 

って話を、ツカちゃんにしたら、

「バカ!

でも、何で自分の靴置いて帰ったのかな?それも持っていけば2足履けただろうに」と

呆れたように言った。

「バカだなぁ、手に古い靴持ってたら、そこの靴盗んだの、バレちゃうだろうよ」

「あーそうか!麻子さん、あったまいい」

「別に、頭良くないから、でも盗みなんてやる気になればいくらでも出来る気がする

だけど、絶対にやらない。一度でもやったら汚れちゃうもん。コワーイ」

 

万引きでも盗みでも、ゴミ捨てでもミンナ、人に見つからなかったり、誰にも分から

なくても、っていうか、知られない時にこそ、その人のモノとなって同化し、深く染み

込んでいくような気がしてならない。

 人のモノを盗るってことは、特に大事にしているモノを奪うってことは、そこにある

シガラミや怨霊、怨念を倍増して背負うことだと思えてならない。

きゃー、コワイー!

 

♪古い靴、履いてた、誰かさん、自分の靴、置いて、行っちゃったー♪

                      置いていったのは、靴だけかなぁー

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