マークI(ワン)

 

 1967年にアメリカから日本が買った原子炉の“マークI(ワン)”が欠陥商品だった

という話は随分前から聞いていた。

 でも、その話をした時、「何を分かった風に話しているんだ」とか、

「そんな話聞いたことがない」から

「その話が本当だったら国が許している筈がないだろう」

という声が返ってきた。

「いやいや、本当なんだってば。

だって、その原子炉を作る会社で働いていた人がそう言っているんだから、

そんでもって、それを抗議して会社を辞めてるんだよ」と私が言うと、

「その人は“きっと”何かあって、自分の能力がなかったとか、それで辞めさせられたん

だよ。

それで会社に恨みを持ってイチャモン付けてそんなこと言っているんだよ。

何処にでもそういうヤツって居るんだよな」

(何故その人は、“きっと”とは言ってはいるが、そんなに断定的に話すことが出来るのか、

ちゃんと本も読まず、調べることもせず、自分の憶測(おくそく)だけでモノを語るのか。

実はそういう人達が原発を受け入れてきたのかもしれない。と思う。

「でも、原子炉で使われた使用済の核燃料は、世界中どこでも処分のしようが出来ない

ってことは、知ってる?」

「いや、これだけ科学が発達してるんだもの、もうすぐ出来るようになるよ」

「でも、それって“泥棒捕まえて縄を綯(な)う”で、準備も整っていないのに

見切り発車しちゃってるってことじゃないの?

あんな危険なものをそんなズサンなことで許されると思う?」

「大丈夫だから使ってるんでしょうよ。

世の中には偉い頭のいい人がイッパイいるんだから、素人のあなたが口出しすること

じゃないわよ。

まあ、あなたが何か言ったとしても誰も聞いていないし、何も変えることは出来ないしね。

あーそうだ、あなた、政治家に“でも”なったらいいんじゃないの」

 そういう人は、(原子力推進にとって都合よく書かれたパンフレットでなく)ちゃんと

理論的に書かれた本を読むことがあるんだろうか。と、思う。

国や政府、電力会社によって排除された地震の研究を調べたことはあるだろうか。

マスコミや電力会社の宣伝を、自分の考えのように錯覚してはいないだろうか。

いや、自分が事実を分かっていないということすら分かっていないんじゃないかと、私

は思う。

 まぁ、エラソウに言ってる私だって怪しいもんだけどね。

でも、怪しいと思ったら自分で調べてみたらいい。

 簡単に分かることっていうのは、底が浅いんじゃないかと私は思っている。

自分で調べて、自分の頭で考えて、沢山の本を読む。そして、また考える。

 直観ってのも経験と熟考の先に湧いて出てくる、考えなくても出てくる感情に左右され

ないもののような気がして大事にしているんだ。

 

 話は変わるが、この間母に電話をした。

母は幼い頃にオタフク(流行性耳下腺炎)に罹(かか)り、片方の聴力を殆ど失った。

 それが加齢と共に聞こえていた耳も遠くなって聞こえなくなってきた。

その母が、電話で話していると突然何も言わなくなる。

「もしもーし!

聞こえてる?

おーい、おーい!

おかーちゃーん」

すると、何やら話し始める。

「お母ちゃん、聞こえてる?」

「うん、聞こえてるよ」

最近、こういったやりとりが増えた。

 ハッと気付いた。

聞こえてない時というのは、聞こえていないということに全く気が付いていない。

だから、聞こえていないということが、分かっていないのだ。

何かを分かっていない人、というのも、分かっていないということを分からないでいる。

 何かを「分からない」という人は、それを分からないということを分かっている。

本当に分からない人というのは、分からないということが分からないのだ。

 聞こえていない人が、聞こえていないということが分からないように。

 

あー、そうか。と納得したら、

「きっと大丈夫だよ」「きっとそんなことは起きないよ」「きっと誰かが考えてくれるよ」

と、何を以ってそう断定しているのか!と、憤ってきたことが、

 あー、知らないんだ。と分かった。

 

 マークI(わん)のことも今回の人災事故でようやく知られるようになった、というか

聞く耳を持つ人が増えたし公に出てきた。

 3,11は悲劇だが、今回の原発人災事故が起きなかったらまだまだ原発を増やして

いくことになっただろう。

 ところが、

「これだけの災害なのに日本はよくやった、これを乗り切れば原発は安全だと日本の技術

はスゴイと世界に知らしめることが出来る」などと言うクルクルパーが、まだ居るという

ことに驚く。

 以前、原発反対と推進派の人のディスカッションを幾度となく見聞きしてきたが、推進

派は根本的な欠陥に目をやらず、最後に

「でも、使用済み燃料の問題はどう考えているんですか?」と聞かれると

「それだけが頭の痛い問題なんですよね」と他人事のように言う。

 (それだけが、ってそれが一番大事なことじゃろが!)

 そして、再処理に手を出し失敗したことを、

「それさえ出来れば問題はなくなるのです」と絵に描いた餅で話を終わらそうとしてきた。

 でも、もう誤魔化しはきかないことになったことに気が付け。

福島原発の人災事故は、なるべくして、起きるべきして起きた。

ここで、気が付いて、目を覚まして、これからどうしていったらいいかを本気で考え

実行に移していく。それしか道はない、本当の破滅はすぐそこにやってきている。

 

 今まで私が話すと「そんなことウソでしょ」と言われてきたことが、テレビで世の中に

伝え始めた。

この“マークI”もテレビで放映したものがあまりに分かりやすかったので、参考に

させてもらった。

 

<福島に第一原発、設置>

1967年

アメリカ GE ゼネラル・エレクトリック社のマークI(ワン)という格納容器が、

東京電力で初めて福島原発第一号基として入ってきた。

それは、アメリカで“一度の実験も試運転もしないまま”日本に来た。

その時“フルターンキー”との契約で行われることになるが、設営から設置まで全てGE

に任せるという約束で行われた。

当時幹部だった豊田氏は

「日本は、それらについて経験も知識もなくて、GEが東芝や日立に原発のノウハウを

教えるというのが条件だったんですが、福島は勉強段階、チェックする能力が日本には

なかったんですよ」という。

マークIという原子炉がどうなっているのか、その時、日本は全く分かっていなかった。

 

 それは、今も大して変わっていない。

ベントの何たるかも知らず、やり方も分からず、イソコンの使い方も分からず。

 使い終わった核燃料の始末もできないまま、水と制御棒さえあれば臨界を起こした核を

自分たちの手で臨界を起こさせたと思い上がり、どうにか手なずけることが出来る。と

思い込んでいるのだ。

それは、あの意地になって意固地になって、使いこなす能力もないのに手を出して破滅

したパエトーンと何ら変わらない。

 

<ニッポンジン、イーヒト>

「日本人は、とても良い人達です」とアメリカGE会社の人は言う。

「日本は設計変更で契約にないコストが発生しても説明すれば払ってくれます。

アメリカでは一旦契約を結ぶと規制の変更などでコストが上がっても払ってくれません。

アメリカでは、契約に入っていない変更はGEが払うべきだとされます。

当時のGEの原発ビジネス(フルターンキー)は、アメリカでは赤字でした。

しかし、日本では儲かったんです」

 

 皮肉なことに、日本がいい人で儲かるということで、マークIに致命的欠陥があると

分かってからも、地震の多い日本には危険だと分かってからも、アメリカはそれを売る

ことから手を引けなくなる(手を引こうとしないこと)になった。

 

<ブライデンボウ、辞表提出>

1975年

当時、安全を検証するチームの一員だったディール・ブライデンボウは、それまでの

原子炉よりずっと小さく作られた(格納容器)マークIが、事故が起きた時に抑制プール

を壊す可能性が高いということを知る。

建設のコストを下げ、市場での競争力を高める為に格納容器を小さくし、ドーナツ状の

圧力抑制プールを付けた独自の形のマークI(それは、電球とドーナツと呼ばれた)は、

事故が起きた時、想定以上の圧力が掛かるということを、実験でブライデンボウは知る。

 事故(炉心融溶)が起きた時、発生した水蒸気が流れ込むことで泡が発生し圧力抑制

プールを壊す可能性が大きい、それは、設計する時には想定していなかったことだった。

それはあまりに危険でブライデンボウは、そのことをGEの上層部に進言し、

「電力会社に、その運転の停止をさせるべきだ」と伝えた。

しかし、上層部は、

「その権限は売り渡した電力会社にあり、運転を停止する権限は自分たちにはない」と、

「そこまで悪くないだろう」と受け流した。

「マークIを停止させればGEのビジネスは終わりだ」と、日本で大儲けをしていた

上層部は、その進言を却下する。

1976年2月

ブライデンボウは、2人の仲間と辞表を提出した。

彼は言う。

「私はあの会社で24年働いてきました。その仲間や友人が居ました。

裏切り者とも言われるでしょうし。技術者としてのキャリアも終わると覚悟しました。

家のローンもありました。子供は3人いました。

仕事を辞めれば家族を路頭に迷わせるかもしれません。

しかし、妻が『あなたの決断を支持する』と言ってくれました。

だから決断出来たのです。

彼女は私の戦友です」

 ブライデンボウは注目され、連邦議会にもあがり最初の証言を行った。

そして、

「あなたは『安全ではない』と言っているが、他の科学者は『安全性は高い』と言っている。

どちらが正しいのか」という問いに

「自分たちが正しいと言っているのではない。問題を検証し正しい判断を下す基準が

見当たらないと言っているのです」と答える。

 

 初めに答えありきの構造は、真実から逸れていくことになる。

 

そして、それから出てきたラスムッセンの報告によって彼の証言はかき消されることに

なり、結局、ブライデンボウの訴えは新聞で騒がれただけで何も変わることはなかった。

 今、カルフォルニアに住むブライデンボウは言う。

「1976年からこんなこと(福島原発人災事故)が起きるのではと恐れてきました。

日本に申し訳がない気持ちでイッパイです。今、日本はとても厳しい状況の中に居ます。

どうか、日本の皆さん頑張って下さい」

 

 いやいや、日本を見捨てたのはGEだけじゃなくて、日本の国、政府、電力会社もです

から。

 ブライデンボウさん程の人は日本には居なかったというか、抹殺されてきたんですよ。

あなたの国と同じで。

 

<ノーマン・ラスムッセン報告>

 きっと、ラスムッセンという名前は知らなくても彼が発表した報告書はみんな知って

いると思う。

 原発が安心で安全だという講釈は、この人の受け売りで推進員の人達の話はラスムッセ

ンの報告そのままを語ってきているからだ。

 マサチューセッツ工科大学のラスムッセン教授は、原発に事故(炉心溶融)が起きる

可能性は、何とか×何とかで50億分の1だと発表した。

それは、隕石に当たる確率よりも低く、事故は無きに等しい。

だから安全研究の必要さえない。というものだった。

 

 その報告を批判するモノも居た。

カルフォルニア大学、バークレー校のキース・ミラー教授(数学専門家)だ。

「ラスムッセンは、原発事故で死亡するのは、隕石に当たって死亡する確率より低いと

いうのです。

原発事故の可能性は低く、故障の可能性もとても低いというのです。

私は愕然(がくぜん)としました。

原子力規制委員会でラスムッセン報告は多くの人に支持されて不具合が起きる可能性を

低くし重大事故が起きる可能性を驚くほど小さくしました。

その為に安全対策がどんどんおろそかにされていったのです」

 

私は、ラスムッセンの50億分の1の事故の可能性に致命的欠陥を見る。

可能性の低さに低さをかけて行くことによって相乗的に低いようにしているが、低さは

倍増していくものではない。

それは、安全対策によってのみ小さくなるものなのだ。

 

 日本は、ラスムッセンの机上の空論を鵜呑みにした。

 

散々聞いてきた言葉、

「原子力は安全で安心なんだよ。飛行機より車や電車より何より安全で安心なんだ。

その上、火力発電より空気を汚さないし、管理さえちゃんとしていたら事故は起こらない。

(そこに自然災害は入っていない。どころか、そのデーターを国は握りつぶしてきた)

何よりコストが安い。と言うが、しかし、

そのコストに設備費や廃炉にしてからの維持費、ましてや事故が起きた時の賠償の費用

は入っていない。事故は起きないから想定外、計算には入っていない。

ヨーロッパでそういうモノを含めて計算したら、原発程高い電気はないという結果が

出た。

 いや、それより、幾らお金を出しても手に入らないモノがある。直しようがないことが

ある。ということを忘れてはならない。

 

 そして10億円を投じて開かれた“原子炉安全性研究”は、要するに原発側にとって

有利になる研究発表によって、ブライデンボウの抗議は新聞を騒がせただけで終わった。

そして、その原子炉安全性研究が「原発は安全だよー。原発程優れたものはない」と

発表してから間もなく、スリーマイル原発人災事故が起きる。

 

<スリーマイル島の原発人災事故>

1976年

 50億分の1の確率で、起きる可能性はない。と断言した原発事故が、機器の故障と

操作ミス(人為)というダブルトラブルで起きた。

しかし、まだ、スリーマイルでは、メルトダウンしたが、圧力容器に留まった。

(福島は留まるか、留まっているかどうか…)

アメリカは原発ビジネスに影響が出ることを懸念し、事故の内容を隠ぺいする。

でもね、スリーマイルの格納容器はマークIじゃなかったんだよ。

 格納容器の大きさが、マークIが小さい家くらいの大きさだったとしたら、スリーマイ

ルのは体育館くらい大きいものなんだよ。

 だから、なんとかあれで終わったわけで、マークIであれが起きたら大変なことになる

んだ。って、起きちゃったけど。

それに、福島みたいにすぐ近くに6基もあるなんて気違い沙汰な設置のされかたをして

いる所なんて世界中何処にもない。

 

<マークIの致命的欠陥>

ケネス・バジョロ 元サンディア国立研究所(工学博士)は、今回の事故を想定通り

だった。と、思っていた通りのことが起きた。と断定した。

マークIは、格納容器が小さい為に水素を少しずつ燃やすことが出来ず爆発してしまう

という構造的にどうしようもない問題を持っているのだという。

 それは、何処かを直せばどうにかなるというようなものではなく補修では解決できない

本体から変えなければならない問題なのだという。

 ケネス・バショロは、更に言う。

「1980年代、マークIを廃止にすべきか真剣に検討しました。

それは、今も検討すべき課題です。

特に地震の危険性の高い場所では真剣に考えるべきです」

「原子力業界が抱える最大の問題は、想定の範囲を想定してしまうことです。

線を引き『こちら側の災害は想定しましょう、向こうの危険は忘れましょう』と決める。

それは大きな過ちで、原発の安全性を脅かす最悪のものは、想定を決めて想定外を無視

することです。

地震や津波に対する安全設計も全く同じ、想定より大きな地震や津波の安全対策をしない。

それが過ちなのです」

 

<地震>

 アメリカの原子炉8型のうちの一つがマークI。

でも、マークIは重大な事件を起こして電力会社からの圧力でNRCは手を引いた。

“マークIが地震に弱い”ということが分かって、

地震の起きるアメリカの西部には、一台もマークIは置かれていない。

使われているのは、アメリカ東部のみ。殆ど地震の起きない地域だけだ。

それも広大な土地に離れて設置されていて、日本(福島だけで6基、全部で10基)の

ようにすぐ近くに何基も置くというようなことはあり得ない。

その上その周りに使用積み燃料を保管している。などというのは、問題外、お話の他。

 

でも、何故原発の傍に使用済み燃料を保管しているかというと、最終処分場というか

最終置き場の六ヶ所村が、もう殆ど満杯になって置けなくなっているからだ。

 そして、原発の近くの保管場所にも、もう入れるスペースが殆どなくなっている。

 

あー、こうやって書いていると、どうしてこんなことになったのかと絶望的な気持ちに

なるね。

 

<ベントが出来た訳>

 今回、やるだのやらないだの騒いだベント。

大体が、最初には付いてなかったベントが、何故、後から付けられたのか。

ベントというのは、マークIにしかない。

だったら何故、マークIにだけベントが付けられることになったか。だ。

格納容器が小さい為、事故が起きた時水素を燃焼出来ず水素爆発を起こし、更なる重大

事故になっていく。という実験研究発表から非常手段として、ベントを付けることが義務

付けられたのだ。

 それは、マークIが欠陥品だということが分かった1976年から13年経った

1989年のことだった。

 アメリカが“マークI安全対策”を出した。

そこには、水素爆発をすることで原子炉を壊さない為に、非常手段としてベントを行って

放射能を大量に含んだ水素を、大気に放出させろ。というものだった。(それは、安全対策

じゃなくて非常手段の危険防止の危険対策だった)

 新たにベントで水素を外に出す配管が付け足された。

 

 こんな矛盾はない。

「放射能は出ません。安全です。

でも、いざという時は背に腹は変えられません。

放射能を大気に出すより危険な格納容器を壊さない為にベントを行って、放射能を大気に

排出しましょう」

「そんな話ってないだろう!?」

「いやいや、そんなこと(ベントをするなんてこと)はゼッタイにありませんから大丈夫

です。

だからホラ、アメリカに言われてベントは形だけ付けましたけど、使うことなんてない

から、私たち使い方も分かりませんしね。

ベントは一応付けて、配管は、ステンレスじゃないとダメだっていうけど、ステンレス

は高いから安物の金属で作りましたね。

ベントの先にはフィルターを付けるらしいんですけど、これがまた高いのよ、

イッツァ、エクシペンセブ。

だから、付けてなかったんですよ。

そうそう、ベントのマニュアルだってないし、訓練なんてしたことないし」

 

 そして、放射能ダダ漏れというか、大盤振る舞いのベントが行われた。

というか、それもタイミングが遅れて爆発しちゃって、何とかテラという放射能がばら

まかれることになったんだねぇ。

テラって知ってる?お寺の寺じゃないよ、一兆倍って意味だよ。

どーよ、この話。

 

 でも、これで終わっちゃいないんだぜ。

これから、覚悟しとかないとな。

 

 ガンバッぺ! ニッポン。

 

 

 

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