美咲9(マトハズレ)

 

 美咲は不思議なことが好きだし、面白いと思う。

がぁ、何だかイヤだと感じることも多い。

 最近のテレビ番組がまさにそれだった。

身近な人を亡くし、それも最後の別れに納得がいかず、心の整理の付けようがなくている

人に、占い師というか鑑定士みたいな霊能者みたいな人がアドバイスをしていた。

 そのアドバイスは、後悔と喪失感、悲しみのどん底で苦しんでいる相談者にとって救い

になるものだったと思う。

 でも、何だかイヤな感じがした。何だかむかついた。

何んでなんだろうと考えて気が付いた。

 わざと大袈裟にして興味を引こうとしている感じがイヤだったのだ。

同じ話を何度もして引っ張って、コマーシャルが入る。それからまた同じ場面を繰り

返し映す。

 そして、「当たってるー」とか「不思議!」「すごい、どうして分かるんでしょね」と

いう所にゲストの関心が集まる。

 (マトハズレだ)と美咲は思った。

 

 美咲は、そういった類のことをしてきた。

それは、物心付いた頃からしてきたことで美咲にとって、不思議だけれど不思議なこと

ではない。

 最近は、それをしていてムカつくことが少なくなったが、若い頃は、それをしては

腹を立てた。

 何に腹を立てたかというと、”マトハズレ”になることだった。

出口が見えない悩みを持つ人に、「これが〜だったのは」と美咲が話し出し、

それからどうやっていったらいいかを一緒に考えようとしている所で

「あー、当たってます。どうして分かるんですか!?」とその人が言い出す。

 そこで、美咲は思う。

どうしてそこで止まるかなぁ、大事なのは当たるとか、分かるということじゃなくて、

今の状態を止まって見ること、ありのままを受け止め或いは受け入れ、それがどういう

意味を持っているのか、これからどうしていったらいいかを考えることじゃないのか。

 そして、見つけたことを実行に移すこと。

なのに、スゴイだとか不思議という方に興味や関心がいくことでその気が逸(そ)れる。

それは的から外れることだと美咲は思う。

 

 美咲は、その他にもマトハズレだと思うことがよくある。

例えば、日常の中で

「ここにこれを置くと邪魔になるから、こっちに置くことにしよう」と部下に指示を出す。

すると「あたしじゃありません!」と怒りだす者がいる。

「あなたでも、あなたでなくても、誰がやったかということでなくて、

今後、ここでなく、こっちに置くように、と言っているんです」

「何で、そんなに命令口調なんですか!」

「感情的にならないで、話の中身を聞いて」

「感情的なのはどっちなんですか!」という、

こういうタイプの人は、会議で反対意見を出すと、

「私のことキライだから反対するんでしょ!」と言い出し、会議の内容とは違う所へ話が

行ってしまう。

 そういう時、美咲はマトハズレなやっちゃ。と思う。

 

 困ったことが起きた時、自分がしていることには目をつぶり何かのせいに

しようとするのもマトハズレ、だと美咲は思う。

 何度か就職したが、間もなくクビになるか自分から辞めてきた彼は、今、就職活をして

いる。

しかし、面接で落ちる。

「どうしたらいいんだろう?」と言いながらも彼の言い分は、

「世の中が不景気だから」から始まって「何か悪いモノが憑いているのかもしれない」と

いう。

 美咲は、基本的に自分の外に悪いモノは居ないんじゃないかと思っている。

自分の中の悪いモノが、そこらじゅうに漂っている悪いモンと感光するみたいに一体と

なって力を強め、自力で抜け出せなくなることはある気がするが、元々は自分の身から

出た錆みたいなものだと思う。

 彼を見ていると、何かのせいにする前に生き方を変えたらいいんじゃないかと思う。

仲の良い友達と家族に見せる顔が違い、家族には返事をせず、都合の悪いことになると

途端に不機嫌になる。

得になることだったらやるが、損になることや自分が意味がないと思うことには心を

込めて行うということをしない。

決めつけた話し方をし、顔が暗く愚痴が多い。

申し訳ないが自分の所でも使いたくないタイプだ。と美咲は思う。

しかし「どうしたらいいのか分からない」という彼に、美咲が良くなると思うコツを話

した。

「先ずはさ、『笑顔を作る。次にハキハキとした挨拶と返事』

これをやってみなよ。

駄目だよ、好きな人とか強い人にだけじゃ、キライな人にも家族にも誰にも陰ひなたなく

やるんだよ」と美咲が言うと

「そんなのやっても変わりませんよ」投げやりな感じ。

「変わるかどうかやってみたら?」と言うと、

「じゃあ、美咲さんはやってるんですか?」と逆に聞いてきた。

「うん、やってる。ちゅうかやるように努力してるつもりだよ」と言うと、

「へぇ、エライですね」馬鹿にした感じ。

「とにかく、笑顔とハキハキとした挨拶と返事。やってみなよ」とまるで彼の母親みたい

だと思いながら言うと、

「そういうこと聞きに来たわけじゃないですから」という彼は、

 美咲からしたらマトハズレだが、彼からしたら美咲もマトハズレなのだろうと思う。

 

 その後またやって来た彼に、美咲は懲りずに運気が上がるコツを話した。

@    返事、挨拶を元気にする。

A    笑顔を作る。辛い時や落ち込んだ時は、鼻歌を歌う。

B    家族など人に当たらない。

C    やらなくてはならないことは、やれて嬉しいと自分に言い聞かせる。

D    アラさがしをしない。

E    自分を主張するのを控えて、人の気持ちを考える。

F    人の話は最後までちゃんと聞く。

「取り敢えずこれをちゃんとやってみてごらんよ」と意気込んで話していると、

「何時もテンション高いっすね」と言う彼に、(人の話聞いてんのかー!)と一瞬思ったが、

でも、若しかしたら、こいつコッソリやるかもしれない。と、美咲は思った。

 

 美咲は人の相談を受ける(勝手にそう思っているだけかもしれないが)ことが多い。

その時、「子供が私のいうこと聞いてくれないんです」「夫がやってくれないんです」と

いう話し方を聞くと、その人の話の内容より、「くれた、くれない、あげた」という言い方

に引っ掛かり、つまずく。

 そして、「子供は、聞いてくれないんじゃなくて『いうことを聞かないんでしょ』

夫はやってくれないんじゃなくて『やらない』んでしょ?

何でもあなたを中心に考える事を、あなたと関係ない事柄として客観的に観察するように

したら、そのこんがらかった感じの悩みもスッキリしてくると思うんだけど」と言い出し

てその人の話の腰を折ることをする。

 何かにつけて、話の入口の所で引っ掛かってしまうことが多い美咲は、

何だよぉー、自分もマトハズレだったじゃないか。と気が付いた。

 

 という、大したオチのないつまらない話でした。 チャンチャン。

 

 

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