水色とピンク

 

新学期だ。

進入学の子に“移動ポケット”なる物を頼まれることが多くなる。

それは、沢山ある布の中から好きな色柄を選んで、それから作るオーダー形式となって

いる。

 先日は、新一年生とその2歳下の子、二人の姉妹の注文が入った。

姉は、あっさり猫とストライプで決まったが、妹は「これ、キライ!」と見せられた布を

次々と押しのけそっぽを向いて中々決まらない。

 姉の猫が気に行った様子なので「これにする?」と聞くとコックリ頷いた。

「でも、全部同じだとどっちのか分からなくなっちゃうから、ストライプの色を違うのに

しない?」と妹に色んなストライプ布を見せた。

 好き嫌いがはっきりしている子は、迷う時は迷うが、気に行った物があると決断が速い。

 

 姉は、アッサリしていてコダワリが少ない母親からしたら楽なタイプと見た。

妹は、物ごとにこだわりウルサクテ面倒臭い、母親はその子が喜ぶようにと、心を砕いて

いるように見えた。

 

 後日、移動ポケットが出来上がり連絡した。

猫が正面で向き合い、裏側にはその猫の背中のプリントが偶然揃っていた。

周りに使われている水色とピンクのストライプが効いていて、ピンクはストライプが

大きめで、水色は細めなので、どちらかと言うと細めの方が納まりが良い感じがした.

どちらも、ステキに出来上がっていて嬉しくなった。

 

「ほらほら、可愛く出来たねー」

姉妹の喜ぶ顔が見たくて、私は他の所に居たのだが駆け付けて二つの移動ポケットを

二人の前に差し出した。

 それが良かった。

姉が、さっと何の迷いもなく水色の方を手に取った時、アレっと思った。

 と、同時に、妹が、アレっという顔をしたのを私は見逃さなかった。

残ったピンクの移動ポケットに妹は手を出さなかった。

母親が私の手から取って、妹に渡そうとしたが受け取らず、妹は持ってきたハンカチで

目を押さえた。

「どうしたの?何で泣いてるの?」

 姉は傍でキョトンとしている。が、何かを察知していると私は見た。

私は母親を引っ張り耳元で囁いた。

「どうしたの、じゃねえよ。あれ、水色は妹が選んだんだよ」

「え、そうでした?」

「だよ、だって、妹が水色選んだ時『おばちゃんと同じタイプだな、ピンクより水色好き

だろ』って言ったの覚えてるもの」

「えー」とすぐに姉の所に行きそうな母親を押さえて

「あれさぁ、お姉ちゃん、さぁ、ピンク選んだんじゃなかったっけ?」

姉は、見た瞬間水色の方が気に入ってしまったんだろう、水色をギュッと手に持って

いた。

「ね、妹ちゃん水色が好きって、あの時言ってたよね。このおばさんと一緒だね。ってさ」

姉の手が緩んで、妹に水色を差し出した。

妹はそれを受け取ると

「これね」と私に今涙を押さえたハンカチとポケットティッシュを見せた。

「移動ポケットに入れるんだって持って来たんですよ」と母親が言った。

「そっかぁ、どれどれ、入れてみっぺか」と私はそれを移動ポケットに入れた。

「これはね、〜の〜なの」とそこに描かれているキャラクターの説明をする妹の顔は

スッキリしていた。

その後、子供コーナーで遊んでいたが、妹は何度もピストルで私を討ちに来て、私は

何度も討たれてもだえる真似をしたのだった。

 

 その日、二人が来ていたワンピースが、姉がピンクで、妹は水色だった。

 

 思い出したことがある。

子供の頃、祖母が「腎臓、肝臓、心臓ってゾウが付く所は大事なんだぞ」と言うのを聞

いて、

「じゃぁ、賢三(父けんぞう)も大事だね」と私は言った。

それを面白いと喜んだ祖母が母親に話し、母親がその話をして回ったのだが、いつか

それは妹が言ったと言う事になっていた。

 その話を聞く度に気分が悪く、淋しい気持ちになった。

そりゃあ、私が言ったというより幼い妹が言ったことにした方がインパクトがあるだろう。

 それは、母親が本当に勘違いしたのか、インパクトを狙ったのかは定かでない。

一度それを聞いたことがあったが、「つまらないことを聞くな」と母は不機嫌になった。

 妹にも聞いたことがあったが、「そんなこと、どうだっていいじゃない」と鼻で笑った。

 

 そう、どうでもいいっていったら、どうでもいいんだけど、やっぱり引っ掛かっている。

どんな小さなことでも、スッキリしたい私。

  今回の水色、ちょっと、お手柄だったと思わない?

 

 

mizuiro.html へのリンク