オオカミ少年 あーちゃん

 

よっちゃんの一人娘に、あーちゃんが居る。

十代に見えるが、二十代後半になることを最近知った。

 

そのあーちゃんが、お客さんと喋っている私を、細くて小さい背を丸めてちょっと口を

尖らせ、首を傾げて待っている姿が見えた。

もう三十近いと聞いて、あーちゃんがそんなに大人だとは信じられなかったが、

そりゃそうだよな彼女を知ってから何年経つんだって話で、自分も65歳になっている

んだから、と納得した。

よっちゃんが、「ウチの子、障害者なのよ」と言ってあーちゃんを連れて来た時、目が

よく見えないだけで(だけっちゃどういうこっちゃねん)話は通じる。と思った。

 あーちゃんは、色んな事にムカついている。(ように見える)

そして、その怒りが、母親であるよっちゃんに向かっている。(今後、私の書く事すべてに

“ように見える”を付けてお読み下さい)

 施設に通っていて、そこで彼女は目がよく見えないだけで人の言うことも周りの理不尽

さにも気が付いてしまうので、偉そうな口調になる。

が、自分のことというか普通の事は出来ず誰かの手を借りることとなる。そこが彼女の

ジレンマで他人に当たれない分母親であるよっちゃんに対して失礼で口調がキツイ。

私は、まだ彼女にとって何が出来なくて、何が出来るのかを分かっていない。

ただ、話せば相当話が分かると分かって来た。何より話を聞きたがっている。

 

「やっほー、遅くなってごめんね」

「そーだよ、麻子さん待たせ過ぎだよ。ずっと待ってたんだからね」

「ゴメンゴメン。

麻子さんは喋るのがお仕事だから、許してよ」

「お仕事は大事だから、面倒でも頑張ってやるんだよ」

「はいよ、頑張ってるよ」

「だったらいいけど」

こういう話し方が、あーちゃんはエラソウだと言われるんだろうな。と思う。

話しに「ウチのスタッフが〜で困っちゃうのよ」というフレーズが度々出てきて、思わず

(オメーは、そこの社長かい!?)と突っ込みを入れたくなることがある。

 

「ねぇ、麻子さん聞いてよ。ウチのお母さんたらね、あたしがいくら電話しても出て

くれないんだよ」

「ふーん、それは何でかな?」

「理由はともかく、普通電話したら出るのが当たり前でしょ!?」

「そうねぇ、でも、あーちゃんは何の用事で電話するの?」

「用事って別にないけど、親だったら電話してもいいでしょ!?」

「うーん、親のあたしからすると例え子供であってもそんなにしょっちゅう電話が来たら

嫌かな。

だから、私は子供にも殆ど電話しないよ」

「でも、電話しても出ないっていうのはダメでしょ。何かあったらどうする気なんだか

そういうのを責任感がないっていうんだよ」

「ね、オオカミ少年の話って知ってる?」

「そんなの知ってるよ。オオカミ少年の話なんて子供でも知ってるでしょうよ」

「そうかぁ、

オオカミ少年ってのは、誰も相手にしてくれない村人の気を引きたくて、

『オオカミが来たー!』って叫ぶんだよね。

そしたら、みんな大騒ぎで『大変だー』って集まって『大丈夫か?』って心配してくれた。

それが嬉しくて、また『オオカミが来たー!』をやるんだな。

でも、何回もやってるうちに『あいつはウソつきだからもう騙されない』ってことにな

って、本当にオオカミが現れた時に『オオカミが来たー!』って叫んでも誰も助けに

来なくてオオカミに食べられちゃうんだよね」

「えー、知らなかった。そういう話なの?」

「うん、ウソはいけない。っていう道徳の話にされてるけど、アタシは少年の寂しさを

思うんだな。

そんでもって、寂しいからって人の気を引こうとしたり甘えをダダ漏れにすると、もっと

寂しいことになる気がする。

アタシは、寂しかったり、話しがしたい時程、自分で解決する方法を一人で考えるんだ。

あと、ちょっと自慢するけど、アタシが電話して出ない人って居ないよ。

何故かといったら、殆ど電話しないから、と、私がするのはよっぽどの事だと思われて

いるんだと思う」

「ふーん」

「毎日、何回もする電話、一回止めてみたら?

電話に出てくれない。って腹が立つことがなくなるんじゃないかな?

ね、電話掛けてないんだから、出ないこともないでしょ。

でもって、本当に用事がある時だけ、たまに掛けるようにしたら、出るんじゃないかな」

「んー」

 

     さて、その後、どうしたかな?

 

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