夫の語録

 

私に一人だけ居る“夫の語録”でーす。

 

“イガンタイショク”

私の父に胃癌が見つかって手術したのが、1999年だった。

その頃、父は72歳、現役で働いていた。って、今も元気で働いているんだけどね。

 夫の運転する車に、「胃癌です」と告知されたばかりの父と母、そして私の4人が乗っ

ていた。

車の中は重い空気に包まれていた。その時の夫のセリフ。

「ジイちゃん、これで仕事辞めたらイガン退職ってことになるね」

そこで「あはは!」と笑ったジイちゃん。  いいね!

気の弱いジジイだと思っていたけど、見直したよ。

 その後も色々手術が続いたんだけど、しっかりしてて、ビックリした。

すみません。私が同じ立場になったら、あんなにしっかりしていられるかどうか、

 頑張ります。

 

“ユビツメ”

 1歳になったばかりの娘が、ウサギに指を噛まれて右手の人差し指の爪半分からとれた

ことがあった。

 その時のショックもさる事ながら、痛がる娘の姿を見ながらの通院は、

私を暗闇に落ち込ませていた。

その時の夫のセリフ。

「こいつは凄いやつだぞ。

あんたも極道だけど、やっぱりあんたの血だね。

この年でユビツメするヤツなんて、そう滅多に居るもんじゃねえ。

こいつは、将来大物、間違いなしだ!」

 その言葉で私の中で居眠りこいてた“大物魂”が目を覚ました。

私に、お涙頂戴の思考回路は似合わない。

 

“サオトメ、モンドノスケ”

 娘が小学校に入った頃だった。

学校に行く前にぐずって、ブーブー言い出した時だった。

 八つ当たりして台所を歩いていた娘は転んで、ダイニングのベンチに額を打ち付けた。

パックリと横に切れ、病院で縫ってきた。

 私は、娘が学校に行くのを嫌がっていることと、顔に傷が付いたことの両方で落ち込

んでいた。

夫が娘に話していた。

「おまえはなぁ、サオトメモンドノスケなんだ」

「それ、ナニ?」

「旗本退屈男っていう侍の名前だよ」

「ふーん」

「そいつはなぁ、額に傷があって強くてカッコいいんだ。

お前は、サオトメモンドノスケだぁ。プハー」と、夫は額に二本指をあてて息を吐いて

見せた。

「お前もやってみろ、プハー」と夫が言うと、

「プハー」と娘も真似をしている。

 ちぇ、弱気になんかなってたら小物になっちまう。と、私は気が付いた。

後で、「女の子なのに顔に傷なんか付けて、親の責任だよね」と言った私に

「アイツは自分で転んで怪我したんだ。そこまで責任持てねえよ」と夫は言い、

「それに傷は仕方がない。心に傷さえ、作んなきゃいいんだよ」と夫は言いやがった。

ちぇ、いい台詞ばっか取るなよ。なぁ。

 

“ダンス”

また、娘の話。

高校に入って、友達も出来て、ヒップホップに夢中になっている娘を見て、(あー良かった)

と、まあ親に対する反抗は凄いんだけど、一安心していた頃の事。

 通称ゴリドウ、ゴリラの洞窟って所でダンスの発表というかコンサート?パーティ?が

あった。

 娘はそこに行くという。

でも終わるのが夜中の2時。

「そんなのダメだよ」

「何で!」

「どうやって帰って来るのよ」

「野宿するからいいよ」

「野宿なんて許さないよ」

「そんならいいよ、もうこんなウチ出ていくから!」

と、いうようなやり取りがありまして、迎えに行くことになったワケです。

 私は、夫は居ないものと思って生きてきた。

だから、何かあっても夫に頼むということを殆どしない。

 子供の病気、怪我、送り迎え、反抗期でのバトルでも、私は、自分は一人のつもりで

精一杯やってきた、つもりだ。夫は夫で勝手に子供との関係を築けばいいと思う。

 だからといって仲が悪い訳じゃないよ。って仲良くもないか。

 その日も自分一人で迎えに行くつもりでいた。

夜中の2時に合わせて迎えに行くということは、1時半に家を出ることになる。

毎晩のそれだけが楽しみの晩酌を止め、テレビを見たり本を読んだり、出かけると

思うと落ち着かない。

 それを見ていた夫が、「俺が行ってやるよ」と言い出した。

「いいよ、あんな子供産んだ私が悪いんだから、私が責任取るよ」と私がふざけて言うと

「いや、あの時乗っかっちゃった俺が悪いんだ。あん時、乗っかりさえしなければ…」

と、笑いながら夫が言った。

 結局一緒に行くことになり、「夜のドライブもオツなもんだね」とその頃買ったばかりの

ベンツに乗って出掛けた。

私は、夜にサングラス、それもヤッチャンが掛けるようなシブ派手のやつを掛けて、

ゴリドウから出てくるヒップホップダンサーにエールを送る。

 どーよ、ベンツにサングラスって。

2時を大きく回って娘が出てきたが、遅れてゴメンじゃなくて、モロ不機嫌。

 ちょーしこんでんじゃねえぞ、と思いながらも

「今日さぁ、あんたを迎えに来るのに酒も飲まないで待ってたら、オトウが俺が行って

やるって言うんだよ」

「だから、野宿するからいいっていったじゃないかよ」

「それでさ、オカアは、あんな子供産んだオカアが悪いんだから、責任取るって言ったん

だよ」

 ナニ!と娘は一触即発の雰囲気。

「そしたら、オトウ何て言ったと思う?」

「分かんねえよ!」

「そしたらさぁ、『あん時乗っかちゃった俺が悪かったんだ』って言ったんだよ」

 そこで、思わず娘がフイタ。

ザマーミロ。アタシの方が、役者が一枚上手なんだよ。

                  

あー、ウチって下品!

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