パンツをおろす子

 

 最近、山道にエロ本が置かれているという。

それは、ご丁寧にも四隅には石が置いて開いて置かれており、一目で目に入るように

なっているらしい。

学校帰りの子ども達が「なんだ!?なんだ!?」とのぞき込むと、

そこへパンツを下げた男が現れるので問題になっているのだという。

その話を聞いて思い出した事があった。十年以上前の事である。

 現在二十五歳になる娘が中学生になった頃だった。

家の近所で、女の人を見かけるとズボンとパンツを降ろし、股の一物を見せるという

二十歳過ぎの男が問題になった。

何かあっては大変だと心配して娘に話すと、もうすでに遭遇した事があるという。

大人しそうな人でボーッとした感じで、ただズボンをおろして立っていたという。

とにかく、そういう時は馬鹿にしたりからかったり、必要以上にといっても、

どこまでが必要かわからないが、驚いたり騒いだりせずに速やかに逃げる事、

そして人通りの少ない道は避け、夜は出歩かない事 などと注意したことを思い出した。

 

 その後、近所で喫茶店を経営している友人とその話になったことがあった。

「この間、うちの犬が朝早くワンワン吠えてうるさいんで旦那が二階から下を見たら

道路に面した犬小屋の前に、その男の子がボーツと突っ立ってたんだって」と友人は

言った。

「あらいやだ、それで大丈夫だった?」と私が言うと

「うん、ただ立ってただけみたいなんだけど気味悪くってなにやってんだ?って

怒鳴ったらどこかに行ったらしいのよ。」

「よかったね、でも又来て、なにかされたら困るよね。」

「全くね、そういう人こそ警察がしっかり取り締まってくれないと困るよね!」

「でもさぁ、」と友人が言い出だした。

「昔、役所の交差点の所にジャスコが開店した時のこと覚えてる?」

「うん、だいぶ前だよね。」

 ジャスコは玩具屋になりその後は百円均一の店になり、今は空家になっている。

ジャスコが開店した時は、大賑わいだった。

「あの時、すごい渋滞になったの覚えてる?」

「ううん、私、人が混雑する所に行かない主義だもん。」

「そうだよね、じゃぁ、あの時、交通事故があったのも知らないよね」

「うん、知らない」

「あの時、新規開店だって事で目玉商品もいっぱい出たりしてさ、

すごい人出だったのよ 車も渋滞してなんだかすごい騒ぎで、

その時交差点で小さい子を連れたお母さんが車に 轢かれちゃった事故があったのよ」

「えー、そんな事があったの?」

「うん、救急車が来るにも混んでいて大変だったみたいだけど、そのお母さん、結局

亡くなっちゃったのよ」

「えー、いやだぁ。」

「ねぇー、可哀想だよね、その時、子どもは学校に上がる前ぐらいだったんだけど 

目の前でお母さんがひかれるのを見ちゃったんだよね」

「あー、つらいねぇ」

「その子が、今女の人を見るとパンツ下ろしてみせる、その人なんだってよ」

「え!?そうなの?」

「うん、おとなしい子で学校でもちょっと何考えているんだか分からない子だったらしい

んだけど、思春期の頃から女の人を見るとパンツを下ろして見せるようになっちゃった

みたいなの」

 その話を聞いて 頭の中の整理をつけるのにしばらく時間を要した。

いきついた答えは、彼の淋しさと不安の果ての壊れだった。

そして、それは分かり得ない闇であるということだった。

 

私はいつも思い知らされる、自分の知っているつもりのことは、

見ているつもりのものは、決して全てではない、と・・・。

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