プレゼント

 

 ドライフラワーを飾っていたら、若い女性が声を掛けてきた。

「キレイですね〜」

「そうですね」

「私、ドライフラワーって好きなんです」

「あぁ、そうなんですか」

そこに横から口を出す人(50代後半)

「でも、気を付けた方がいいですよ。ドライフラワーって結局枯れた花でしょ、枯れた

モノを玄関に置くと運気が下がるんですってよ。

いくら好きなモノでも置く場所を考えないとダメですよ。

ね、奥さん」と、その人は最後は私に同意を求めた。

「ん〜、そうね。

でも、何でも諸説あるんじゃないですか?

私、この諸説あります。って言葉が好きなんだけど、国の違いや時代で常識ってのが全然

変わってきて、何が正しいとか間違ってるって断定出来るものってない気がするんですよ。

外国の本とか見てると玄関のドアにドライフラワーの大きなリースが飾ってあるけど、

あれってダメなんでしょうかね。

お墓にバラはダメだって聞いたけど、外国のお墓ってバラ飾ってるの見たし、この間仏壇

のお花に水仙は毒があるからダメだみたいなのやってたけど、もうお仏さんなんだから

毒、カンケーねえんじゃね。って、今、母が大好きだった匂い水仙仏壇にあげてますよ私。

まぁ、私は迷信や因習に囚われないで自分がやりたいようにやるかな」

と、やんわり?言った。

 

この50代の女性は何故か私と話したがり後をついてくるのが常なのだが、彼女の話

は私にとって突っ込み所満載なので、話さないようにその場を離れるようにしている。

場所を移動し仕事に夢中になっていると、突然

「奥さん、プレゼント何がいいですか?」と後ろから声を掛けられ、

え!?私に?と瞬間思った頓珍漢な自分。

 な、わけあるかい、そして、プレゼントを探しているんだな。と気が付く。

 

 それにしても、自分で考えをまとめる努力をしない人って案外多い。

「私って何が好きですか?」ちゅう人が居る。

そんなの知るか〜い!と思いながら付き合うのが大人。

「何かワクワクして、嬉しくなるモノが欲しいんです」つう人が居る。

「それは、どういったモノですか?」と聞くと、

「それが分からないから相談しているんでしょ」と、自分は聞くけど、質問されて考え

るのは嫌らしい。

本人が分からないこと、どうやって見つけろちゅうんじゃい、答えのないクイズは続く。

「ウチの玄関に合いますか?」って、

ワシ、あんたんちの玄関行ったことねえし。

「これって、何色ですか?」つうのも、今見てる見たまんまの色だし。

「これって、大きいですか?」って、何に対して?

そういう人からは、とりとめのない話しの中に転がっている情報から答えを引き出して

いくことになる。

 それは、結構面白い。

 

「相談して良いですか?」って、もうプレゼント何がいいかって聞いたでしょ。

「いいですよぉ」

「あのぉ、お友達にプレゼントあげなくちゃいけないんです」

「そうですか」

「その人、引っ越しちゃうんですよ。

それが、聞いてくださいよ。再婚して遠くに行っちゃうんです」

「御栄転だね」

「でもね、聞いて下さいよ、再婚って言ったって別れた人とまた籍入れるんですよ。

信じられますぅ?よくやると思いません?」

「あ〜、運命の人だったんだね」

「そんなことないです」

「なんで、あなたが『そんなことない』って分かるの?

運命の人だよ。そうやって『信じられますぅ?』って言われるの、彼女分かってると思

うよ。

最初の時より勇気と覚悟が要ると思うな。でも、それでも一緒になるってことは、間違

いなく運命の相手だね」

「そうですかね」

「あと、プレゼントは彼女を知ってるあなたが選んだら良いとおもうな。

私はその友達に合ったこともなければ、話をしたこともない、どういう人で何が好み

か、あなたが考えて選ぶのが一番じゃない?」

「私がやらなくちゃだめですか?」

「いや、やらなくていいんじゃない」

「え、でも、プレゼントあげない訳にはいかないでしょ」

「あげたくないならあげなくていいんじゃない、私だったら、今のあなたからのプレゼ

ントは欲しくない。

プレゼントっていうのは物をあげるんじゃなくて、心、気持ちを渡すってことじゃない

のかな。

『あげなくちゃならない』『あげない訳にはいかない』って選ばれた物、私はいらないな」

「…」

「素直になりなよ。

仲良かったんじゃないの?一緒にご飯食べたり、お喋りしたり、愚痴聞いたり、聞いて

もらったり、そんで、ちゃんと言ったら?

あなたが遠くに行っちゃうと寂しいけどあなたのシアワセ祈ってる。って、さ」

女が一人で生きて行くのは大変だ。

彼女の人生、いろいろあったらしい、友達も、そこで同情したりされたり張り合ったり

いろんな形で支えあってきたんだろう。

 彼女の目が赤くなっていた。

 

「じゃ、そういうことで」と、別の所に行こうとしたら、

目の縁を赤くした細い女性が目の前に立った。

「私、時々、本当に年に何回かしか来れないんですけど、来る度に出会いがあるんです。

いいお話聞かせて頂きました。ありがとうございます。

これから施設に行きます」と、その人は背を伸ばして出て行った。

 

なぁ、みーんな、何か背負って生きているんだなぁ。

 

 

 purezennto.html へのリンク