最後の金縛り

 

 というわけで、小さい時から金縛りになってきて大人になって結婚してからなんぞは

金縛りを解く方法なんかもちょっと分かってきていた。

 金縛りが来そうになって、それがどうしても嫌だったら、腹の下に力を入れて「エイ!」

っと、気合っていうのかな?

 それをやると、自分がしゃんとするからなのか金縛りはなくなる。

若しくは、金縛りになってしまった時は、どーしたんだっけなぁ。

お経を唱えて、指の一本でも動かせるとと解けるんだよなぁ。

それが、疲れが休めっていう信号なのと同じような感じで、金縛りも何かをメッセージ

してるような気がして受け入れていた。

 

 あれは、今頃と同じ梅雨の時だった。

夏が来る前の、細かい雨が降る日が続いていた。

サンルームが出来ていて、愛犬のエルが元気で子供たちが居ない時期ということは、

1995年から1997年の間ということだ。

何時も何かやりたいことがあってじっとしていることのない私なのだが、その日は

変に肌寒くて身体の表面が冷たくなって、目蓋(まぶた)が重く頭がどんよりしていた。

 布団にでも包まって横になりたい気分、でもコタツは片付けてしまっていたし、布団を

出す気持ちにもなれない。何となく居場所がなくて家の中をウロウロしている私の後を

エルがついて歩いていた。

 その頃に作った12畳のサンルームがある。

天井までアクリル板で出来ていて明るく何時でも洗濯物が干せる。それは、真南に位置

する我が家で一番居心地の良い場所だった。

 そこには、夫が買ってきたはいいが、大きくてどの部屋にも合わないというカウチが

置かれていた。

 硬い木にドッシリとしたクッション、深い赤のゴブランの生地で覆われたそれは何時も

布団干し台か洗濯物の置き場になっていた。って、今もなっている。

 眠くてだるくてヨロヨロしながらサンルームに出た私は、カウチに横になることにした。

そこにカイマキが干してあった。もう、夏が来るんだから綿の入ったカイマキは干して

押入れに片付けようと思っていた。そのカイマキが丁度よかった。

カウチの肘掛に頭を乗せてカイマキに包まると、エルが私の懐に入ってきた。

犬の暖かさと冷えた身体が温まっていく気持ちよさでボンヤリしてきた。

 それは、金縛りの条件だった。

でも、あの時が一番色んなことがハッキリ感じた。

 何時もそういう時は、何かが居るような気配を感じたり、パチパチという音を聞いたり

するのだが、その日はそれが一番強かった。

 家の中に何かが来た。

それは、北東にある夫の部屋を覗き、隣にある真北の風呂を覗き、東の次女の部屋、その

向き合いの台所、そしてフローリングの居間と和室を通り、東南の長女の部屋を覗き

南西の角にある私の部屋に来た。

 長女と私の部屋の前がサンルームになっている。

目を瞑っているのに家の中の様子が見える。それは、知っているからイメージで見えて

いるつもりになっていたのか。

 私の部屋を通り抜けて来たそれは、私の横に立った。

カウチで眠ったようになっている私を覗き込んでいる気配を感じた。

 そして、なんと私の寝ているカイマキの首の所を引っ張った。

それまで、そういうモノはそういった行動を起こしたことは、一度としてなかった。

 やめろよぉ。と思った。怖くはなかった。

すると、今度は引っ張っていたカイマキを押し付け、私の首を締め付けてきたのだ。

 その途端、私の怒りがやってきた。

コノヤロー、ふざけてんじゃねえぞ!おのれ、無礼者!

もうオワリだ!二度と来ることは許さん。

 それは、居なくなった。

 

 そして、それから1週間位かな?もっとかな?

首が苦しくて、喉が苦しくて、モノが飲み込めなくなった。

 あの頃も仕事が忙しくて、夜中まで壁や天井にディスプレーしていて上を見上げて

いたからそうなったんだ、ということにすることにした。

 

 アレ以来、金縛りは一度もない。

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