仙台四郎

 

 ウチの店の入り口に仙台四郎が置いてある。

よく、「これは何ですか?」と聞かれて、その由来を話すことになる。

 仙台四郎は、仙台のいいとこのボンに生まれ、脳みそがゆっくりだったが気立てが良く、

みんなに好かれた人で福の神みたいになっている人だ。

まあ、四郎は神様にさせられたらしくて、仙台の七夕祭りをやる大きい通りの大きい

デパートの前に神社があって祭られているらしい。

 

仙台四郎については、幾つかの本で読んでいたが、水木しげるの漫画“神秘家列伝”

の中にあったことを思い出した。

四郎の経歴をざっと書き出そうと漫画を見直したら驚いた。

安政元年、11月28日生まれ、私と同じ誕生日だった。まあ、それはさておき、

裕福な家に生まれた四郎は、神様は男の子を欲しがって連れていこうとするからと髪を

伸ばし、女の子の着物なんぞ着せられて大事に育てられた。

 どこでも眠くなるクセのあった四郎は迷子になって、旅館に連れて行かれて可愛がら

れたりする。素直で気持ちが優しく可愛がれる何かを持っていた、頭も良かった。

1861年(文久元年)四郎7歳の時、友達と花火を見ていて川に落ちる。

一旦呼吸が止まり生死の境をさまよい、一週間眠ったままになるが生還する。

しかし、仮死状態が原因で脳の活動が停止したのだろう。脳みそがゆっくりになる。

 

10歳頃になると、頼まれもしないのに他所の店の掃除をするようになった。

その店は、四郎に食べ物をご馳走するが、店には客が入ってくるようになり、

福の神だと喜ばれることになる。

しかし「ウチの店もやっておくれ」とほうきを出し、声を掛けられても、

「何か食べさせてやるから」と食べ物で釣ろうとしても、知らん顔で素通りする所も

あった。そういう店は、閑古鳥だった。

 私は、何でも、無垢の計算のない善意と善意の交流でなければ効果はない。

結果はついてこないと思っている。

14歳になって知り合いの絵描きに遊郭に連れていかれるが、四郎はコトが始まると

「タスケテクレー」と叫んだという。

やがて縁起物として作られた四郎の“福財布”に続く“置物”“写真”は、着物の前が

はだけてチンチンが顔を覗かせている。

ウチに飾ってある四郎の座った置物も、チンチンが見えている。

すると、そこに異常に興味を示す人がいたり、気が付かなかったり、拝む人が居たり、

撫でる人が居る。お賽銭をあげる人も居て小銭が山になってきている。

四郎は厭らしい所がなく、大人になっても子供のような人だったらしい。

その遊郭で出会った遊女のシノを慕ったが、子供同士のように仲良しだったらしい。

シノも身体は売っても心のキレイな人だったのだろう。そうでなければ四郎に好かれ

ないと思う。

四郎が、善人を分かったように、四郎を好いて仲良くした人も、商売が繁盛したり

のちに出世したりしているというが、四郎と同じ計算高くないキレイな心を持った人

だったんだと思う。

 四郎は気の向くまま好き勝手に町を歩き暮らしていたが、ある明け方、放火魔に

ぶつかり一度は捕まえたが、「お前の家にも火をつけるぞ」と脅かされ逃がしてしまう。

それを人々に怒られ、その日を境に姿を消す。

明治37年に日露戦争が勃発するが、何かの本には四郎はそれを知って姿を消したの

ではないかとあった。

 戦うことが嫌いで面白いもん好き、食いしん坊だがいやしくはない。

 って、これを書いていたら山下清とダブってしまった。

 

そして、面白いことに、この仙台四郎の置物を呉れたのが、以前に書いた竹男ちゃん

なんだ。

「これ、やるよ」って突然この置物を持ってきた。

それは、ホンワカしていて穏やかな竹男ちゃんにそっくりだった。

 

毎日のように竹男ちゃんとトシちゃんが、ウチに寄る。

トシちゃんは、喋れないのかと思っていたが、結構喋れて色々分かっていることが、

分かってきた。

 この間は二人がメダカを欲しいというので大人のメダカと子供のメダカをやった。

「親が食べちゃうから別にしとくんだよ」と言うと嬉しそうな顔で二人は帰っていった。

翌日、トシちゃんが「ジイチャン、投げちゃった」と言ってきた。

「何を?」と聞いたが返事をせず意味が分からない。

忙しいこともあって話はそのままになった。

次の日も同じ事を言ってきた。

そして、子供のメダカが入っている水を、ジイチャンが捨てたいことが分かった。

「欲しいの?」と聞いたが、トシちゃんは黙っている。

その日も忙しかった。

「欲しかったら欲しいって言いな。でも、今日は忙しいから後でね」と言うと次の日も

来た。

「メダカの子供、欲しいの?」と言うと、初めて小さくうなずいた。

 メダカの入った容器を自転車のカゴに入れ、トシちゃんは、帰っていった。

 

水木の漫画の中で、四郎の兄が言う。

「あいつの心は、いつまでも少年のままなんだ。いつか誰かが言ってた。

神様は、あんまり四郎が可愛いもんだから、四郎の一部を持っていってしまったんだ。

だから四郎は神様に近いのだと…。福の神なんて言われているが…、

四郎は純粋なだけなんだ」

 

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