選挙

 

母は、35年前から毎月病院に通い時々入院し、ここ5年前位から救急車のお世話に

なり出し、昨年夏から病院を転々としている。

 病院ってやつは、何の仕組か(ってホントは知ってる)2カ月位で出なければならない。

そして、すぐに「胃ろうしましょう」と言う所があった。

「いや、しません」と言うと「親を長生きさせたくないのか」とおっしゃる。

「元気な時に話して来て親の意向を聞いておりますから」と言うと、その院長は非常に

ムッとした顔をなされた。

「兎に角、苦しいのを緩和するだけで治療や検査はもうしないで欲しいです」と私は

言った。

「検査しなくていいんですね」

「いえ、検査しないで欲しいんです」

その何日もしないで胃カメラの検査が入っていることを知る。

「あのぉ、胃カメラはやらないでほしいと言ってあるんですが」と看護師に言うと

「えっ、やらなくていいんですか?」

「いえ、“やらないで下さい”とお願いしてあります」

その時の母は、最初の所でもうダメだと宣告され、でも点滴だけで持って2カ月で

次の所へ移動、正月は超えられないだろうという医師の見解に私も納得したが、正月

を過ぎて次の所へ、8月から1月まで点滴だけでそれまで飲んでいた山のような薬もなく

って、点滴に入ってはいるんだろうが、食事は出なかった。

 実は、コッソリ潰した果物、ジュースやゼリー、プリンなどをあげていた。

そして、1月、何と!食事(刻み食)が出るようになり、毎回完食。

5月に施設に入るも、また病状が悪化して、6月病院に入院し現在に至る。

 

って、何が言いたいのか。

35年前からの病院通いで分かったこと。

 

<インフォームドコンセントとセカンドオピニヨンは、権威を持った所では難しい>

内容を教えて欲しい。と聞く権利はある筈なのだが、変わり者のウルサイヤツ。との反応

がある。(そういう所、人ばかりではない)

 そして、延命治療は望みません。緩和ケアだけで検査はしないで下さい。という希望は

まぁ、本人の意志意向であるかどうかをちゃんと審査するのは正しいが、否定的威圧的

な反応があったことは事実だ。

これは、権威、権力を持つ機関に共通してある気がする。

ある所で、リーダーに質問をした時のことだ。

「分かりもしない者が、知ったかぶりして聞くんじゃない」と横に居たその知識を持た

ない者が言った。

 

但し、聞く側の力量もなければインフォームドコンセント(説明と同意)は、成立し

ない。

「あなたは癌ですが、どういう治療をしていきたいと望みますか?」と聞かれて自殺した

人が居たと聞いた。

恐いことは知りたくない、考えたくない、分かる人にお任せするから、私に教えないで

欲しい。という人も居る。

 それは、その人の選ぶ権利の一つかもしれない。

でも、セカンドオピニヨン(他の意見も聞く)というのは、権利であり責任でもあると

私は思う。

 

<選挙>

父(89歳)を車に乗せて、母(84歳)の病院の帰り道、

「お父ちゃん、今度知事選があるね」

「あ、そうだな」

「今度の知事選は大事なんだよ」

「何でだ?」

「東海第二原発が動かされるかどうかの瀬戸際なんだ」

「原発、動かすのか?」(こんな人ばっかり)

「うん、動かすべ。って話と動きが進んでんだよ」

「動かしたらダメなのか?」

「うん、怖いね」(ダメに決まってっぺ!)

「だけど、動かさないで電気は大丈夫なのか?」

「うん、全く足りてて心配ない」

「じゃ、何で動かすんだ?」

「何でだろうね。

お父ちゃん知ってる?

原発って、一部分だけみたら電気作るのめちゃ安いみたいだけど、設備や維持費、廃炉に

掛かる費用を合わせたら物凄く高い電気なんだよ。

で、もって、動かしたらどうしようもない核のゴミがまた出るんだよ。

この核のゴミが手が付けられねえんだ、今の人間には処理出来ねえの」

「それは、最近分かったのか?」

「ううん、大分前から分かってたよ」

「じゃ、何でそんな物造ったんだ?」

「一般の人に事実を知らせないで、調子のいいことばっかり言って、聞く方も都合の

いいように考えて、甘い汁吸いたいヤツらが進めてきたんだな」

「馬鹿だな」

「そうだね、でも、お父ちゃんもそういうこと知らないできたよね」

「そうだな」

「あたし、前から言ってたよね。子供が小学校に入る頃だから30年以上前だよ」

「そうだっけか?」

「うん、それでその話すっと、大体、お母ちゃんが『オメーは喋り過ぎる、赤旗か』って

言ったの、覚えてない?」

「そうだっけか?」と、争いごとが嫌いな父は言う。

「お父ちゃん、選挙行くべね」

「んー」

「今度の選挙、3人出るんだけど、『原発、動かさない』って断言してる女の人が居るん

だよ」

「動かさなくて、大丈夫なのか?」

「だーかーらー、動かさなくて大丈夫なのか、どころじゃないんだよ、動かしたら危ない

んだよ。

原発は20年で廃炉にする。って決めて始めたのに、20年使った原発をもう一回20年

動かすべ。っつうんだぜ」

「動かせるのか?」

「動かすだけはな。でも、2011年の地震から停めてて、これがまた、停めて動かすと

ヤバいつう話なんだわ。

何だってそうだっぺ。家だって人が住まないと住めなくなるみたいに、電化製品だって

動いてないと壊れるべよ」

「そうだな」

「その上、核のゴミだよ、今までのやつだって、どーすんだよ」

「そういうことは、みんな考えなかったのか?」

「考えなかったんだろうね。あんまりお粗末で笑っちゃうよ。

でも、ここらでちゃんとしないと、ホント、終わりだな」

「そーか」

「言っとくけど、原発動かさないとそこで働いてる人が困る。なんて言う人いるけど、

廃炉にするのが大変で、そこで幾らでも仕事があるんだよ。

逆に人増やさなきゃなんなかったりして、でも、危ない仕事は下っ端にやらせて、しかも

ピンはねして安くね。

あ〜、目に見えてるよ。

そこいらもちゃんと国が管理出来るようになったらいいんだけど。

福島の裏事情も大変なんだよ。

兎に角、しっかり、ちゃんとしろ!って思うんだけど、はぁ〜」

「大変だな」

「そう、大変だ。

お父ちゃん知ってる?

東海第二原発が動いたの、20年前の麻子の誕生日なんだよ」

「へぇー」

「で、今年の11月28日、あたしの誕生日にまた動かされちしまうかもしれない瀬戸際

にきてんだ。怖いよー。

前ん時は分からないうちに動かされてたから、今度はちゃんと見て、動かされないように

どんな小さい動きでもいいからやるんだ」

「そうか、ガンバレ」

「うん、ありがとう」

 

母は、そういう話が大嫌いで、私のことを「講釈し、見てきたようにウソを言い」とか

「代議士にでもなるつもりか」「よーく喋る女だよ」「そんなに分かってんならもう少し

勉強が出来てもよかったな」などと言って、話の内容は聞こうとしなかった。

 父親に話していても母は面白くなくて、話を遮った。

母が最近、仏のようになって私が何か話すと「そうかぁー、良かったな」としか言わなく

なった。

 

 父は、「ガンバレ」と言った。

みんな、ガンバッぺ。な。

な!

 

 

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