犬の躾

 

 シーザーミランの“ザ・カリスマドッツクトレーナー”というアメリカ番組がある。

それは、動物好きの知人が好んで見ている有料のテレビ番組で、契約していない私は見る

ことが出来ない。

その話は、何度も聞いてきていたが、今回の話は特に興味深かったので、まるでそれを

観たかのようにここで書く。

 

 シーザーの信念は「飼い主には訓練を、犬にはリハビリを」で、

暴れて、跳ねて目が合わず、吠えて噛みつくなど、どうしようもなかった犬達が、

シーザーによって落ち着きと人間との信頼関係を取り戻していくという番組だ。

 

 今回の相談は「餌(ゴハン)を食べないので困っている、どうしたらいいか」という

飼い主からの依頼だった。

 

 飼い主が言う。

「2年位前からどんなに美味しい物を作ってあげても食べなくなったんです。

焼いたチキンにもビーフにチーズを乗せてもあげても、最初の1,2回は食べくれるん

ですけど、もうその後はプイと横を向いてもういらないって食べてくれないんです」

 

 シーザーは、

「先ずは、この犬に礼儀を教える」と、彼のドックサークルへとその犬を連れて行った。

 かつては手がつけられない状態だった犬たちが、シーザーによって安心し、落ち着きを

取り戻しそこで暮らして居る。

 そのサークルの中に入れられた犬は、オドオドして全く動けなくなった。

「ね、見て下さい。

甘やかされて世間知らずなこの犬は、他の犬と全然コミニケーションがとれないでしょ」

 そして、ただ立ちすくんでいるその犬にロープをまたがせようとしたが、半分またい

だ形になったまま動けなくなった。

それは、ちょっと動けばいいだけのことなのだが、犬は困り果て動けない。

「ねっ、意欲も頑張る力も消えてしまっているんです。

この犬がこうなった原因は、何だか分かりますか?

犬を犬として扱わず、甘やかし、押し付け、生きる力を封印してしまったからなんですよ」

 

「さぁ、そんな犬には、最初に運動です」とシーザーは散歩に連れて行く。

散歩で十分に歩いた後、プールに連れて来る。

「プールは、散歩で暑くなった身体のクールダウンと同時に、イヤでも水を飲んで食欲が

湧くでしょう」

 立てる位のプールに入れられた犬は、無邪気に遊び始める。

 

しばらく遊んだ後は、食事だ。

「この犬は、これまでの食事は、目と耳だけで与えられてきました。

手を掛けて作られた御馳走が何の前ぶれもなく『ゴハンですよー』といきなり目の前に

出されてきたんです。

 でも、それは犬にとっては不自然なことだったんです。

今回は、鼻を使ってゴハンを探させてみましょう」

 と、プールの横に肉を置く。

そこは、犬からは見えない場所だった。

 犬は鼻をクンクンさせている。

「ほら、エサを探していますよ」

 シーザーはプールの淵に腰を掛けて肉を手に持った。

犬が肉を欲しがっている。

 シーザーは、そんな犬の少し高い位置に肉をぶら下げた。

犬は、自らそれを取りに行き、喜んで食べた。

そこでシーザーが言う。

「自分から動いて食べにくる。これが大事なんですよ。

今までは、『食べて、食べて』と押し付けられることで欲求がなくなってしまったんです」

 

犬は、過保護にされ甘やかされ、与え続けられると自らの中にある生きる意欲や力が

消えていくか、攻撃的になるかのいずれかになるのだとシーザーは言う。

 そして、

「この犬は、生まれつきエネルギーの波長が弱いんですね。

だから、甘やかされ、押し付けられることで生きる気力をなくしてしまったんです。

エネルギーの強い犬だったら、暴れる凶暴な犬になったでしょう」

 

「それから、犬には仕事を与えましょう。

何でもいいんです。リュックに小石を詰めて運ばせる。

そして、それが終わったら誉める。

すると、飼い主が喜んでいることが嬉しく自分に誇りが持てます。

運動にもなって食欲も出るでしょう。

僕が、この犬の声を代弁しましょう。

『もういいかげんにしてよー!ボクを犬として扱ってくれ!』と、言っています」

と、シーザーは笑いながら言った。

 

 シーザーは、「支配とは大きな声を出したり、リードをグイグイ引っ張ることじゃない

んですよ」と言う。

「飼い主は、毅然とした態度でどうして欲しいかを犬に伝えるだけでいいんです」と

ソファーに乗っている犬の腰をチョンと触ると、犬は済まなそうにソファーから降りた。

 

 シーザーのやり方は色んなことに通じている気がする。

そこで、一番、私が感動したのが、そこに次々と出てくる未熟な飼い主たちを、絶対に

否定しないという事だった。

「間違ったやり方をしている飼い主も、分からないだけで、何とか良くしたい、

良くなりたいと一生懸命なんですよ」と言うシーザーは、

「あなたは、素晴らしい、そして、今のやり方を変えたらもっと素晴らしくなるよ」と

言っているように思えた。

 

 

 

 

 

si-za-.html へのリンク