スキャンダル

 

 娘が

「お母さん、知ってる?

香港の女優の私生活映像が流失しちゃってるの」と、言ってきた。

「なに?」

「香港のキレイな女優さんなんだけど、私生活で彼氏とエッチしてるとことかの映像が

全世界に流れちゃってるんだってよ」

「ふーん、そうかぁ。

カワイソウにな、その人にとって、今が勝負の時か。

でも、あんたは、絶対にその映像、見るなよ」

「見ないよぉ」

「お母さん、思うんだけど、そういうモノを見るのは、失礼だと思うんだ。

あれ、神戸殺人事件の少年の写真が出回った時があっただろ、携帯でも見られるって

私にそれを見せようとした人が居たんだけど、断って絶対に見なかった」

「分かるー、アタシ、2チャンネルだって見ないもの」

「私は2チャンネルがどういうものかは分からないけど、人の噂話には加わらないことに

してるし、他人でも誰でも人の私生活は覗かないと決めてる」

 

私は、人の弁当箱の中を覗いたことがない。

スキャンダルを暴く週刊誌は買わない。買ったことがない。

それに、人の心も覗かないことにしている。

って、覗いていないのに分かってしまうのは、仕方がない。

 

「でも、その人カワイソウじゃないのかもしれないね。

さっきも言ったけど、その人の試練の時が、今、与えられているんだね。

それがあって良かったのか、悪かったのかは、今のその人の覚悟と生き方で決まると

私は思う。

それがあって良かった、それで自分の人生は変わった。と、思えるようになるには、

今をどう乗り切って生きるかにかかっているんだね。

半分は自分で招いたスキャンダルであるかもしれないけど、半分は与えられたんだね。

その人は、今、人生の勝負が出来るんだ。良かったね」

「お母さんみたいに考えられる人ばかりじゃないよ」

「でも、そう思ったら辛いことやどうしようもないと思うことが、楽しくならないかい」

「そりゃそうだけど、中々その考えが浮かばないんだよ」

「そうそう、辛い時ってそのことだけに囚われちゃって、世の中が全部敵みたいな気持ち

になるんだよね」

「お母さんでもそうなの?」

「そうだよ、自分はダメな人間だなんて一見謙虚みたいなこと言ってるけど、世界中、

いや、宇宙が自分中心で動いてるような気持ちになると、自分は取り返しの付かない

過ちを犯してしまったような気持ちになることがあるよ」

「何だ、アタシと同じじゃない」

「同じだよぉ。

ただ、お母さんは普通の人より欲が深いんだと思うよ。

だから、物や形には拘(こだわ)らない。見えるモノは必ず滅するもん。

でも、見えないモノは消えても消えない。

夢や希望、思い出、満足した想いってのは人が認めるどうこうじゃなくて、自分の宝物

だろ?」

「そうだね」

「それと、お母さんは自分の意地と誇りにかけて、失礼な人間にだけはなりたくない。

誰にばれなくても、自分がやったことも消えないんだ。

だから、人が失敗して惨めな姿をさらしている時に、それを興味本位で見るようなこと

はしたくない」

「そうだね」

「でも、ちょっとカッコ悪いね。

その写真を出した人と、それを見てる人」

「ホントだね」

 

 人の不幸は蜜の味というが、それは、悪意を持つからじゃないだろうか。

人の不幸を、それは若し自分だったらというイマジネーションを持てない人は不幸だと

私は思う。

 

 写真を出されたのが自分だったら、自分の愛する人や大事な人だったら、

それを見る人を、それをあざ笑う人をどう思うだろうか…。

 

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