スポ少(秘密結社)

 

 スポーツ少年団を略して“スポ少”という。

友人の息子が“スポ少”に入った。

それは、小学校の4年生から入れる団体だ。

 

友人はバツイチで、一人の働きで二人の子供を育てている。

仕事は激務だが、負けず嫌いの彼女は弱音を吐かないで走り回っている。

お金にも時間にも余裕はないのだが、弱音を吐かずむしろ優雅に楽しそうに見えるので

周りの人から更に何かを頼まれることが多い。

 知人に事故で夫を亡くした人が居るが、そういう不幸に見舞われた人に対して思いやる

ことをせず、逆に自分より不幸で寂れでいないと面白くないという人は、案外多い。

 

 彼女の息子は、身体が大きく4年生で6年生と同じくらいある。

幼い頃から運動神経が良かったが、ずっとスポーツが好きで自分の身体を思いっきり

使うことが、最高に嬉しそうだ。

 

 彼は4年生になると同時に、念願だったスポーツ野球団“スポ少”に入った。

毎日、仕事から帰る母親を待つ間、壁に痕が出来るほどボールを投げていた彼は、すぐに

頭角を現し、その夏には大きな試合に大抜擢され出場した。

 母親である知人も忙しい時間を見計らって応援に行くようにしていたが、仕事の都合で

応援もスポ少への協力もままならなかった。

 

 ある練習試合があった日、指導の先生から電話が入った。

「今日、練習試合があって息子さんを出したんですけど、試合の途中で突然家に帰って

しまったみたいなんですよ。

何があったのか分からないんですが、お宅の息子さんは、気持ちにムラがあるみたいで

すね。

いくら運動神経が良くても野球っていうのは、チームワークが大事ですからそこのところ

をお母さんからも言ってやってください。

彼より大きい子でも中々試合に出られないでいるのに、彼は4年生なのに自分が試合に

出られることをどう思っているのかな」

 先生は、普段から非協力的な母親と、身に余る光栄を喜ばない息子に好意的でなかった。

 

 母親は息子に「どうして試合の途中で帰ってきたりしたの?」と聞いたが、息子は何

も答えなかった。

 それを聞いていた私は、彼が遊びに来たとき、遊びに熱中している彼に何気なく聞いた。

すると、

「だって、試合の途中でアイツラがお前の父ちゃん生きてんのかとか、何処に居るんだ

とかシツコク聞くんだもん」とポロリと言った。

聞いてきたのは、戦うチームの子ではなく味方のチームの子だった。

 そして、「母ちゃんには言うなよ」と慌てて彼は言った。

「分かった、絶対言わない」と私は言ったが、すぐに、彼女にそのことを話した。

 (ミンナ、私のことは信用するんじゃないよ)

彼女は「そういうことじゃないかと思っていたわ」と言い、

「でも、良かった。息子のことあんまり怒らなかったんだ」と言った。

「そう、彼はあなたのことを考えて何も言わなかったんだね。ヤツもナカナカ男じゃん」

「なにが、すぐ泣く泣き虫男だわよ」

「あいつがすぐ泣くのは、イッパイ頑張って、我慢を知っているからなんじゃないの」

「そうかなぁ」

 

それから暫くして彼女に誘われて、彼が出るという試合を見に行った。

母親達が集まって熱心に応援する中で、一人離れて私と居る彼女は異質な感じがした。

「知ってる人が居ないし、みんな何かと協力してるみたいだけど、私は仕事休めないし

人と話し合わせるの下手でしょ」と彼女は言った。

 

母親達は、休憩時間になると指導の先生に飲み物やお絞りを持っていった。

子供たちにも飲み物を配る姿が見えたが、それは彼、彼女の息子にだけは手渡されな

かった。

 彼は、ミンナから少しだけ離れて、知らん顔していた。

 

これはもう、祈るしかなかった。

彼が、強くなりますように。大きな人に成長しますように。

淋しさや悔しさを、優しさや思いやりに変えて、人の気持ちの分かる人になりますように。

 そして、ミンナが、自分の都合や縄張り意識から脱して、垣根を越えて物事を見て

聞いて、考え、行動することが出来るようになりますように。

 

そして、ちびっと、涙が出た。

 

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