シャボン玉

 

 麻子の店に、“きえないシャボン玉”というネーミングのシャボン玉が置かれている。

それを見ていた6歳位の男の子が

「この間、これ買ったけど、壊れちゃうよ」と麻子に言ってきた。

「ええー、風がイッパイ吹いてるとこでシャボン玉作ったんでしょ」と麻子が言うと、

「うん」とその子は答えた。

「ちゃんと説明しなくてゴメンね。

このシャボン玉はね、風が吹いてないトコで作って、ゆーっくり降りるとそのまま消え

ないんだよ」

「ふーん、そうなんだぁ」

「そうなの、ちゃんと説明しないとダメだよねぇ、ゴメンね」

「あー、そうなんですか」と、隣に居た母親が頷いた。

「まだ、シャボン玉の液は残ってる?」

「うん」

「あー良かった、じゃあ今度は、風の吹いていないお外で作ってみてね」

「うん」

「でもね、車の傍でやっちゃダメだよ」

「何で?」

「車にそういう液が付くと嫌がる人も居るんだよ。

車を大事にしてる人は、塗装に染みが付くと悲しいもんね。

そういうことを教えるのは、家庭の躾ですよね」と、後半は隣に居た母親に言った。

「そうですよねぇ」と、母親が言うのを聞いて麻子はホッとした。

そういうことを言うと気分を害する親が多いのだ。

そして、自分の子供が店から出て行って何をしていても関心のない母親が多い。

駐車場で石を投げていても、花壇の花を摘んでいても、シャボン玉をしていても

全く関心がないのか、気配りもなければ注意もしない。

 最近、麻子は駐車場の花壇の中に、沢山の消えないシャボン玉を見つけた。

その話を車大好きの友人にすると、駐車場でそんなシャボン玉をして車に付いたら

塗装に影響があるんじゃないかと大変に心配していた。

 

 麻子と男の子が話していると、4歳位の妹がニコニコ顔で麻子の両手を握ってきて

麻子に何か聞いてきた。

最初は何を聞いているのか分からなかったが、「男の子?女の子?」と聞いていた。

何がだろうと考えて、気が付いた。

 その日の麻子は、Тシャツにサスペンダーの付いた作業ズボンを穿いていた。

短髪で化粧もしない麻子を見て、麻子が男なのか女なのかと、聞いていたのだ。

「あはは、さー、どっちでしょう?」と麻子が言うと

母親が「何がですか?」と言う。

「いやいや、この子との話ですから」と言って「さー、どっちだ!」と言うと

男の子が「女の人でしょうよ」と言った。

女の子に「あなたは、どっちだと思う?」と聞くと

「わかんなーい」と言う。

ますます面白くなってきた麻子は、

「実は、ワタシは宇宙人なのです!」と言うと

「ウソダー」と男の子が、目を丸くした。

「なーに言ってんのよ、あなただって宇宙人じゃないのよ」

「エッ、ボクは地球人だよ」

「地球だって宇宙の中の一部でしょうが、だったら宇宙人で地球人でしょ」

「フーン」

「そうよね、ここは宇宙の一部よね」と母親が言った。

 

「ワタシは、自分でも自分が何ものなのかよく分からないんですが、一応この世界では

52歳の女の人です」と女の子の前に顔を近づけて、麻子が言うと

女の子は、ニコニコ顔で麻子の顔を両手で挟んだ。細い冷たい指だった。

 女の子は何だか嬉しくなったようで、両手で麻子の頬を軽く叩いた。

 

 その後、母親が買い物をしている間中、二人の兄妹は麻子の後をついてまわり、何か

と話し掛けてきた。

 麻子は、話し掛けられると一々座り込んで面白いことを考えて答えた。

面白くて仕方がなかった。

 

 帰り際、母親は「こんなに面倒見ていただいて有難うございます」と麻子に言った。

「いーえ、私が遊んでもらったんです」と麻子は答え、兄妹に「バイバイ」と手を

振った。

 二人は何度も振り返って、手を振った。

 

♪シャボン玉 飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んで 壊れて消えた

                  かーぜ 風 吹くな シャボン玉 飛ばそ♪

 

             子供は 愛しい

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