停電 断水

 夫の車で移動中、ラジオから

「また地震があり停電になっていたのが、4時間後に復旧した」というニュースが流れた。

 

「この暑いのに4時間も停電したら大変だよね」

「そうだよな、冷蔵庫とか駄目になっちゃうもんもあるだろうな」

「病院なんかも大変じゃない?」

「ああいうトコロは、そういう時のタメに発電機が設置されてるから大丈夫だよ」

「へー、そうなんだ」

「当たり前だろうよ、手術中に停電なんかになったら死活問題だろ?」

「そーだよね。

ところで、アタシらが子供の頃って、停電とか断水ってイッパイあったよね」

「そうだよな、停電はあったけど、ウチの方は、断水はなかったなぁ」

「へぇー、そうなの?」

「だって水道がなかったんだもん」と夫は言った。

「あっ、そうか、水は井戸から運んだって言ってたもんね」

「ひでえんだぞ、オレなんか末っ子なのに、水汲みと運びかたはオレの仕事だったんだぞ」

「だから、こんなに筋肉が付いて丈夫な身体になったんじゃないの?」

「まあな、でも毎日じゃないけど、風呂がイッパイになるまで、井戸から水を汲んで運ぶ

ってのは、或る意味、拷問だぞ」

「そうかもしんないね。だけど、アタシだって小学生から毎日風呂焚きしたよ。

新聞紙に火を点けてバタ(木を薄く裂いたもの)を燃したり、

オガライト(木屑を固めた物)の時期もあったし、石炭の時期もあったっけ、

 知ってる?お風呂って燃やすもんでお湯が変わるの?」

「知ってるよ、石炭で沸かしたお湯はチカチカすんのな」

 

「そうそう、学校のストーブも石炭だったよな」

「うん、ストーブ当番ってのがあって、当番の日は早めに学校に行くんだよね。

でもって、石炭置き場からバケツに石炭を入れてくるんだ。

そして、ストーブに石炭をたいておくんだよね。

当番の人は、授業中にストーブの様子を見にウロウロしても怒られないんだけど、

アタシなんか、あんまりウロウロするから、当番なのに怒られちゃったりしてね」

「あんたならやりそうなこっちゃ」

「何だか、アタシって先生に怒られてばかりいたなぁー」

 

「でも、あの頃って子供使うのが当たり前の時代だったんだよな。

オレ、学校の便所のウンコ汲みさせられたんだぞ」

「えー、ウッソー、そんなこと子供にさせていいの?」

「オレんとこの学校は、あんたんとこの学校より十年は遅れてたと思うな。

肥え汲み桶にウンコを入れて運ぶんだけど、バランスを上手くとらないと自分にハネル

んだ」

「きゃー、きったねぇー」

「きたねえなんてもんじゃねえよ。でも、そんなもんだと思ってやってきたな」

 

「だけどさぁ、テレビが急にとまっちゃって、『しばらくお待ち下さい』って張り紙が出て

ずーと待たされるのなんて日常茶飯事だったよね」

「それが、タイミングよくいいとこでとまるんだよな」

「バスとか、電車なんて時間通りじゃないのが普通じゃなかった?」

「オレんちから学校への道って今みたいに舗装もされていなければ、すれ違えない程

細かったんだ。

バスが走ってるのにダンプなんかが来ると立ち往生になっちゃって、怒鳴りあいのケンカ

が始まったりしてな」

「でも、遅刻したとき、バスとか電車が遅れましたって言えば通らなかった?」

「うん、簡単に通ったな、だってバスの時刻表なんてあってないようなもんだったし」

 

「ガス湯沸かし器が付いたのはアタシが中学の頃だったかなぁ、冬にお湯が出て、

暖かい水で洗い物が出来るなんて夢のような気がしたっけ。

でもって、停電で電気が止まると、急いで外に出て近所を見るんだ。

近所も真っ暗なら停電で、近所に灯りが点いていたら、自分家のヒューズが飛んでる。

ヒューズがあんまり飛ぶと針金で繋いじゃったりしてね」

「あれは、危ないんだぞ」

「そう、熱持って火事になるんだってね」

「危ないことも平気でやって生活してたよなぁ」

「でもさ、結構大丈夫だったよね」

「そうさな、経験が違うもんな、あの頃の暮らしは、今の人たちがやったら事故の連発

みたいな暮らしだったよな」

「そうそう、蛇口ひねれば水が出るのは当たり前で、スイッチ入れたら電気やテレビが

つくのは当たり前つう時代じゃなかったからね。

何でも騙し騙し、機嫌を伺いながら上手に使ってきたよね。

箪笥なんかもクセがあって持ち上げたり、左右対称に押さないと閉まらなかったりして」

「風呂の水も汲むのが大変だから毎日変ねえし、大事に使うし、いつ何が起きて水が

なくなるか分かんねえからって、すぐには捨てなかったしな」

「家は水道だったけど、断水になったら大変だからって薬缶には必ず水を入れて置いてた」

「最近は、そういう危機管理って、家もそうだけど、しなくなったよな」

「そうだよね。

アタシも結構、昔を知ってるつもりでいるけど、あの頃のこと忘れちゃってるかもしれ

ない」

「そうだよな、贅沢になって、自分らが贅沢に暮らしてるってことさえ気がつかなく

なってるかもしれないな」

 

今年53歳と56歳になる午年と兎年生まれ夫婦の会話でした。

 

 teidenn.htm へのリンク