床屋 つるっぱげ

 

 叔父ちゃんのツルツル頭を見ていたら、もう一つ思い出したことがあった。

K叔父ちゃんは昔からスポーツが好きで、自分も野球をやっていたり、試合があれば

必ず見に行ったりしていた。叔父ちゃんは金田に似ていて、中々カッコ良かった。

54歳になる私が子供だった頃、野球は巨人で、相撲は大鵬(たいほう)、プロレスは

力道山(りきどうざん)って感じだった。

 でも叔父ちゃんは、柏戸(かしわど)を応援していた。らしい。と、いうのは、

お母ちゃんの話からの知識で、私はその時のことを覚えていないのだ。(ザンネン)

 

 ある日、叔父ちゃんは行きつけの床屋に行った。

そこのテレビで相撲が放映されていた。

床屋のオヤジは大鵬のファンで、K叔父ちゃんは柏戸のファンだった。

その日の取り組みは、大鵬と柏戸だった。

 二人は相撲が始まる前からどっちが勝つかと、自分たちの方が熱い勝負を戦わせていた。

「大鵬が勝つに決まってっぺ!」

「なにゆってんだ、柏戸に決まってる!」と二人は一歩も譲らず、

「よーし、そんなら、大鵬が負けたら、今日の床屋代はもらわねえ」

「なら、柏戸が負けたら、オレの頭をボウズにしてやる」

と、いうことになった。

 

 もう分かっちゃったよね。

 

その日、床屋から戻った叔父ちゃんは、帽子をかぶって大人しく普段の叔父ちゃんの

ようではなかったという。

柏戸が負けて、K叔父ちゃんはボウズどころか、頭をツルツルにされていた。

どうしたのと帽子をはがされ大笑いされた叔父ちゃんは、この方が楽でいいと開き直った。

でも、身体が大きくて職人を束ねている凄みにツルツル頭は、鬼に金棒を持たせた感じ。

元々、叔父ちゃんに楯突く者は居なかったが、手伝いに入った職人が、叔父ちゃんが何も

言ってないのに謝る始末だったという。

 

 目の前の叔父ちゃんは、50年近くの時を越えて、又も、ツルツル頭。

「いやー、抗がん剤とアルコールで勝負させてやってんだが、どっちも強くて髪の毛が

生える暇がねえんだよ」

 と叔父ちゃんは、笑いやがった。

                     もー。

 tokoya.htm へのリンク